「敵襲ーーーーーーーっ!!!」 ガバッ 攻撃を知らせる、兵士の声で目が覚めた。 が起きたその下は、ちゃんとした寝台で、倒れた宴の場ではなかった。 どうやら運んでくれたらしい。 枕元の小太刀を引っつかんで、部屋を飛び出した。 だから言ったのにーーー!! 城内はすでに火の手が上がっており、兵達の士気は下がりっぱなし、統率は乱れまくりで酷いありさまだった。 は、敵兵が押し寄せる門を目指して一目散に駆け出す。 典韋様!! 途中、敵の兵卒やら護衛兵クラスやらが襲い掛かってきたが、そんなもん相手しているヒマなんかないので、全てかわした。 一応は、風の神が選んだ「朱雀」である。 このぐらいは造作もないことだった。 門の入り口、まわりを敵に取り囲まれ苦戦中の典韋を発見した。 高く飛び上がって小太刀を一振りし、突風で敵兵を吹っ飛ばす。 「無事ですか典韋様!」 いきなり空から降ってきた加勢に驚きながらも、典韋は安堵した。 「悪ぃな助かったぜ!!」 よし、とりあえずこの辺の敵を一掃しよう!とが太刀を構えた時、敵兵がバタリバタリと倒れていく。 気づいたら、後ろで張コウが華麗に舞っていた。 「私の!!怪我はありませんかーー!!?」 え。なんでこの人ここにいるの。 何か嫌な予感を感じて、ぐるりとまわりを見渡した。 右手から聞こえてくる笛の音。 左から飛んでくる弓攻撃。 まっすぐ向こうからドスドス走ってくる丸い物体。 「何でみんなしてここに集まってるんですかーーー!!!」 曹操様の護衛はどうしたんだ!!と叫ぶに、おのおの律儀に答える。 「私のがこちらへ走っていくのを見かけたから、追いかけたのです!」←張コウ 「こっちの敵の方が、手ごたえがあるかと思いましたの」←甄姫 「あ?殿こっちに来てねぇのか?」←夏候淵 「この城ややこしくて〜。迷ってたらここに出たんだよ〜」←許チョ 武将様たち大集合。 兵に蹴りを食らわしながら甄姫は、ひくひくしているに尋ねた。 「そういうこそどうなさったの?」 「わ、私は初めっから典韋様を守るつもりでした!!」 ・・・え? 皆一様に驚き顔である。 しかし、一番びっくりしていたのは当の典韋であった。 「ああなるほど〜」 「はぁーふーんへぇー。そういうことー」 なんだか、急にやる気が喪失された武将の面々である。 「えっ、ちょっと、何でシラけてんのみんなして!あっ甄姫様なに耳ほじってるんですか!」 「この戦火の中で青春。やってられませんわ〜」 「・・何故にそんな美しくないスキンヘッドを選ぶのですか・・・」 明らかに「お熱いお二人さん」という感じの言葉を投げられたは大いに慌て、弁解した。 「ち、違いますよ!特別な意味は含まれてないですって!」 のその台詞に、典韋は少し寂しそうに笑う。 が俺なんて選ぶわけないだろ、と言いながら。 「!何言ってんです典韋様!私がなんで、なりふり構わず助けに来たと思ってんですか!」 半ば愛の告白めいたことを口走っているが、彼女は混乱しているので気づいていない。 かなり熱の入ったの言葉に、典韋は感動で目をキラキラさせている。 「・・・」 もう、こうなると二人の世界に入ってしまうのが愛というやつである。 でもここ、戦場なんですけど。 そんな時、ひとつの急報が入った。 曹仁軍敗走!! 「うわぁぁぁ〜」 ロマン劇場へ足を踏み入れそうになっていたは我に返り、思いっきり頭を抱えた。 あの人、一人で真面目に戦ってたんだろうな。 そう思ったら申し訳なくなった。 反省しているをよそに、甄姫はチッと舌打ちをかました。 「まぁ、曹仁殿ったらだらしない!もうちょっと踏ん張れないものかしら」 あなたが昨夜弱らせたせいじゃないですか? とは恐ろしくて言えない。 同じようなことを感じていたのか、夏候淵と目が合ったが、地獄の昨晩を思い出したらしく顔色が悪かった。 「じゃあ、曹操様危ないんじゃないのか〜」 許チョがのんびりとした口調で、のんびりとしていられない内容のことを言った。 多分、曹仁が必死で守っていたのだろう。 その軍が敗走したとなれば、かなりヤバイ。 しかしは、ひとつ希望が残っていたことを思い出す。 「徐晃様!きっとまだ徐晃様が殿を!」 この宛城の行方は、彼の双肩にかかっている。 その場にいた者全てが徐晃に期待した。 したというのに。 「助太刀いたすーーーっ!!」 その数秒後、話題の徐晃はみんなの前に現れた。 現れちゃったよ、この人。 本当に間の悪い男である。 「終わった・・・・」 ガクーっと典韋が床に伏した。 放っておけば、泣きながら砂を集めそうな雰囲気である(甲子園かよ) 他の者も同じような反応をしている。 事情が呑み込めていない徐晃のまわりにだけ疑問符が飛んでいた。 既に負け気分満載の雰囲気を変えるべく、は呼びかける。 「あきらめないで殿を助け行きましょうよ!そんなに広い城でもないし」 「確かに、扉が全部あいてりゃあ、ここからすぐだけどよ」 典韋がへたりこんだままそう答える。 迷路のように閉じられた扉のせいで、ぐるっと一周しなければ曹操の元にはたどり着けない。 「時間がかかりすぎます!」 ビシッとポーズを取りながら張コウが叫ぶ。 私のスピードなら間に合うかも知れない!と言って赤兎馬より早いが駆け出そうとした。 「小太刀を思いっきり振りなさい!」 甄姫が、走り出す体勢に入ったの首根っこをつかんでそう命令した。 はぁ?と振り返ると、風を起こすのです!と自信に満ちた顔で彼女はそう言いきる。 風を起こして何するんですか、とが聞くと甄姫は叫んだ。 「強風で扉を壊すのです!!」 一瞬ポカンとしたが、はもの凄い勢いで首を横に振った。 「そんな規模のデカい風、起こしたことないですよ!!」 かなり頑丈な鉄扉である。許チョの怪力だって壊れなかった。 「大丈夫だって!!ちょいちょいっと頼むぜ!」 テキトーなことを言う夏候淵。 「ムリいうなぁー!!!」 未だ首掴まれたままで、は抵抗する。 「殿の命に関わることですぞ!殿、」 どうかお願いします!と徐晃が懇願する。 お前がいうなよ。 「・っっ・・わ、わかりましたよ!頑張ります!!」 自分でもどう頑張っていいか全然わからないが、とりあえずはそう言って小太刀を握る。 風神様よろしく頼みますっと祈りながら、渾身の力を込めて振った。 ゴォッッッッ 唸りを上げて渦巻いた風が激突して見事扉は破壊され、遠く果てまで吹き飛んだ。 そこまでは、「大成功!やったぜ朱雀様☆」で済んだのだが。 「あ」 思ったよりもすさまじい勢いだった風力は、城まで一緒に吹き飛ばした。 当然、曹操ごと。 結局、負けたとも勝ったともいえない微妙なその戦は、曹操も無事だったということで(よく無事だったな) とりあえず引き分けということになった。 曹操は再びやりあって勝てばよい、と潔く笑っていた。 しかし、殿を彼方までかっとばしたは司馬懿に呼び出されて。 すんげぇ怒られた。 「うぅ・・・なんで私だけ・・」 と、しょげるを典韋が慰めるという光景が目撃され、宛城にいなかった夏侯惇や張遼などが陰で歯ぎしりをすることになるのだった。 |