絶対ヤバイのに! 超ゴキゲンな魏の君主・曹操を眺めつつ、は心の中で絶叫した。 「うははは!皆の者飲め飲め!浴びるほどかぶるほど飲めぃ!!」 「ではこの張コウ、殿の為に美しく舞いましょう!」 勝利の宴に酔いしれる魏軍。 めでたいことだし、別にいいっちゃいいのだが。 何かおかしな薬を打たされているとしか思えない、このテンションはなんだ。 はひとり、この浮かれ気味な軍をなんとかせねば、と気を揉んでいた。 いつもなら、彼女だってこんな風に心配はしない。 宴会は楽しいものだ。 騒ぐだけ騒いで、日ごろの疲れを癒すべきだと思う。 が、しかし今日は違う。 今夜のこの場所は、宛城なのだ。 宛城の戦いといえば、赤壁と並んで語られる曹操の負け戦だ。 油断している魏軍が夜襲をかけられる、とかなんとか。←も詳しくは知らないらしい とりあえず危ない状況だ、ということを察しているはさっきから警告しているのだが、飲んだくれ連中はすでに話が通じない。 しかも今宵に限って、夏侯惇や張遼のような冷静な将がいないのだ。 その辺の居酒屋にいるオヤジと化した曹操を筆頭に 食うだけ食ってさっさと部屋で寝てる許チョ、常日頃から(色んな意味で)酔っている張コウ。 普段は頼りになるはずの甄姫姐さんにいたっては、もう手がつけられない。 完全に顔色を失っている曹仁と夏候淵を両脇にはべらせ、「あたいの酒が飲めねぇってぇのか?!」などとあけすけな口調で、くだを巻きに巻いている。 アッコさん! 無双界の和田○キコの出現に、は寒いものを感じた。 「!祝宴の席でなーにそんな顔してんだぁ?!」 ラリってるかのような典韋がゲラゲラと笑っている。 て、典韋様。 見ると、尋常じゃない数の酒樽が彼のまわりに転がっていた。 まさか、これ全部一人で飲んだのかこの人? 「て、典韋さま…その辺りの酒…」 「俺が飲み干してやったぜ!」 エッヘン、てな感じである。 そんな誇らしげに言われても。 「そんなベロベロになってどうすんですか!」 酒は酔うためにあるんだ、と頭の先まで赤くなっている典韋が反論する。 「今夜は駄目!奇襲受けたらひとたまりもないですよ!!」 「危なくなったらぁ、この悪来典韋様が守ってやるかーらー大丈夫だってぇー」 大丈夫じゃないって、あんたは特に。 が一番気にかけているのは、危機感のカケラも感じていないこの海坊主のことである。 なんだかんだいっても、曹操は安全だと思う。 今はこんな殿だが、配下の武将達が命がけでお守りするだろう。 でも、典韋はそうじゃない。 この城で命を落とす危険性が高い。 こう見えても典韋は優しい。 ハゲだし、口も悪いし、強面だし、乱暴(以前一度、挨拶のつもりで背中を叩かれ、は壁まで吹っ飛ばされた) だけど、典韋は本当に優しい人なのだ。 死んで欲しくない。 だからこんなにも心配しているというのに、当の本人はの気持ちなどお構いなしに飲み続けている。 「まだええやないの!」と杯を片手で割る甄姫に絡まれて、死相を浮かべている猛将(のはず)2名に同情の視線を送っていると中庭から物音が聞こえた。 「せいやぁ!」 徐晃が大鎌を振り回し、せっせと鍛錬している。 「ご苦労様ですね、徐晃様」 「あっ…これは…殿!」 ふいに声をかけられ振り向いた徐晃は、相手がだということを確認すると一気に赤面した。 いい歳すぎても年中思春期な男である。 「さすが徐晃様ですね!こんな時でも気を抜かずに鍛錬中なんて」 想い人から話しかけられたばかりか、お褒めの言葉まで頂いちゃった徐晃は血液まで蒸発する勢いだ。 「いいいいいいいいや、殿の御身をお守りするのが役目ですから!」 真面目な武人、徐晃ひとりがシラフであることにはホッとするが、すぐに気を引き締めた。 油断は出来ない。 徐晃は強い。確かに武力は高いのだが、いかんせん間が悪い。 敵将という敵将が集まる中、がひとり孤軍奮闘して片付けて、残る相手もあと一撃くらわせれば!というような時に現れ「敵将討ち取ったり!」とかなんとか言っちゃうのである。 徐晃様、もうちょっと早く! というようなシチュエーションが彼は結構多い。 今回もそんなズレ振りが発揮される可能性大。 やはり典韋様は私が守ろう。 殿は他の方々に頑張っていただくとして。 、勝手な決意を立てる。 いつまでも中庭に佇むを嬉しく感じながらも不思議に思い、に徐晃は尋ねる。 「殿は宴にお戻りにならないので?」 「あ、あはは…今、宴会場は…」 ちょっとした魔界村です、と惨状を伝えようとしたが。 「うおおぉい!!!ちゃん!!」 魔王からのお呼び出しである。 「うぅ…じゃあ失礼します…」 心底辛そうに中庭を後にするを目で追いながら、不甲斐ないそれがしをお許しくだされ!と涙を流す徐晃将軍であった。 「苦しゅうない苦しゅうない、近うよれ!」 ちょっとバカっぽくなってしまった乱世の奸雄に、は果敢にも立ち向かうことにした。 キリリと顔を引き締め、酒を取り上げる。 「殿、あんまり飲まれると、いざという時に困ります」 「このぉー、何を言うちょるかぁ」 どうしようもない殿の対応に、くじけそうになりながらもはあきらめない。 「こんな状態で攻撃されたら、」 曹操は、ん?と聞き返す。 「…夜襲かけられたらどうすんですか」 「だーれーがー?」 「だから!!奇襲かけられるの!!あんた狙って!!」 「それっ」 君主相手にキレて叫んだの口へ、曹操が酒を流し込んだ。 「!!!!!」 「美味かろう!?銘酒中の銘酒だ!」 焼け付くような熱さの液体がの喉を通って、そのまま彼女は倒れた。 遠くで「朱雀様に何飲ませたんですか!?」「やばいってこの酒!」「うわっキッツイ!」などと周囲が騒いでるのが聞こえた。 薄れゆく意識の中、 やっぱり殿は助けるもんか と彼女は強く思った。
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