一方、呂布の方は呂布の方で非常に困っていた。 いつものクセで最初に会った武将クラスに一騎打ちを申し込んだはいいが 目の前にいるのは屈強な豪傑ではなく、短剣をかまえた小さな女の子。 しかも、なんだか…震えている…。 ど、どうする俺…? どうするも何も、自分で一騎打ち頼んどいて何を迷っているのかこの野郎は。 いつものように「砕けぇい!」などと叫びながら本当に砕いてしまえばいいのに、さっきから困り顔で触覚などをいじっている。 なぜか、武器を向ける気にならないのだ。 しかし一騎打ちは無情にも始まってしまうわけで。 せりあがって来る恐怖をこらえ、は必死に敵を見据えようとするが、呂布のオーラの強烈さに押さえ込まれてしまう。 から見たオーラ↓ |
こんな風に威圧してくるので(の被害妄想もかなり含まれていると思われるが) ついこの間までただの高校生だった彼女は足がすくんでしまう。 無理もない。 は本当に普通の女の子だったのだから。 どのくらい普通だったかというと、街で配られるチラシ・ティッシュを断れず全てもらってしまうくらいの普通の女の子だった (要領が悪いともいう) それが今、こんなとこで三国最強と謳われる武将と対峙しているのである。 ジリッと呂布がわずかに動いた。 ビクン!! の恐怖と緊張がピークに達し、彼女は思わず涙をうかべてしまった。 「!?」 それを見た呂布は手にしていた方天画戟を放り出し、目を潤ませた少女に駆け寄る。 「な、何を泣く?!」 自分より遥かにコンパクトなに対して体を折り曲げ、オロオロしている呂布の姿はかなり不気味だ。 「おおお俺が、一騎打ちを申し込んだからか?!」 その通りなのだが、この戦場の中、怖くて泣いたなどと恥ずかしくて言えるわけもなく、はただフルフルと首を振った。 そんな様子の少女を前に、呂布将軍は大いに困惑して、頭皮がむけそうな勢いで頭をかく。 「と、とにかく泣くなっ」 「な、泣いてません!」 涙を自分の手でゴシゴシと拭い、は中腰で不安そうにしている呂布をキッと見上げた。 その目はやはり赤く潤んでおり、彼女を見下ろしていた呂布は再び慌てる。 「なっ泣くなというのに!」 「だ、だから、もう、泣いてませんてっ!!」 一騎打ち終了の合図のドラが響く。 「「あ。一騎打ち…」」 結局一騎打ちの制限時間いっぱい、呂布が涙ぐんでいるをなだめて終わった。 とんだ無駄づかいである。 「なにやってんだコイツら」と思っていたであろう呂布軍団の護衛兵達は、ようやく手出し解禁になったので いつものごとく敵武将のに攻撃をしかけようとしたが。 「よせ」 呂布はそれを制した。 「ああ〜は無事だろうか!?」 苦戦を強いられながらも(弱いな!)敵軍の張遼やら高順を倒し、玄武門を破った劉備軍はやっと虎牢関までやってきた。 君主らしく、劉備は1人で奮闘しているであろうの安否を気遣っている。 まあ、当たり前だ。普通は心配する。 というか普通はあんな配置しない。 不安で胸が一杯で、一刻でも早くの元へ辿りつこうと馬の手綱を握り締める趙雲。 「呂布と会う前であれば良いのですが…!!」 残念ながら、面会済みです。 「おられました!…?……!!!」 虎牢関前で、趙雲はを発見した。 そして、彼女の頬に涙の跡があるのも同時に発見した(視力推定5.0) 「殿が泣いてるではないですか!!諸葛亮殿!!」 趙雲は後ろから駆けて来る軍師を、仁王様のような形相で責め立てた。 それを聞いた劉備も黙ってはいない。 「孔明ーっ!!お前絶対大丈夫だって言ってたじゃないか!!」 前から趙雲、後ろからは劉備の怒号がサンドイッチ状態で諸葛亮に向けられる。 「ですが、ご無事なようですから…早く合流いたしましょう」 心中ではやっべぇなーと思いながらも、顔には出さないのが軍師。 趙雲と君主からボコられる可能性に内心冷や汗をかきつつ、諸葛亮も馬の足を早めた。 護衛兵の援護を制止し、攻撃してくる気配も見せない。 ただ黙って自分を見下ろしているだけの呂布を前に、は小太刀を使うことも出来ずにいた。 「あの、一騎打ちの時間…無駄にして、ごめんなさい」 この歳になって初対面の人(つうか敵だ)の前で泣くという恥ずかしい行為をしてしまったは、とりあえず謝った。 本来、そんなこと詫びてる場合じゃないのだが。 「い、いや」 呂布は軽く頭を振る。触覚がゆれた。 ドドドドッ 右手から砂煙を上げながらすごい勢いでやってくる自軍に気付き、そちらのほうへ顔を向ける。 「お前の…軍か?」 が頷くと、何軍だ?と呂布は質問を重ねた。 近付いてくる劉備たちが「―――っ!!」と声も枯れんばかりに叫んでいる。 「劉備軍です」 今度は呂布が頷いた。 劉備軍、と言いながら彼は何度も頷く。 ヤバーッ!もしかして軍ごと滅ばされる? 「!大丈夫か!!今行くぞ!!」 「殿!ご無事ですかぁぁぁ!!」 危険を感じたは「こっち来ちゃだめ!!」と大声を上げようとしたが、次に呂布の口から発せられた言葉は。 「ならば、今から俺は劉備軍だ」 呂布反逆 呂布反逆!!! えええ――!? いきなりの呂布の発言に、はびっくりしすぎて短剣落とした。 彼女を救うべく、二人の間に滑り込んできた劉備軍も呆気にとられた。 周りの時間を止めた男・呂布奉先はさっき放り投げた方天画戟を拾い上げた後、赤兎馬に乗って 「董卓を倒してくる」 事も無げに、そう言った。 パカパカと城へと歩きだしたが、呂布は思い出したように馬首を翻して、突っ立っているをひょいっと持ち上げ自分の前に納めた。 「…あの…?」 ビックリ次ぐビックリ、驚きの連続でお腹いっぱいになっているは脱力しながらも、呂布に疑問の声を向けてみる。 「戦場は危険だ…俺の、そばが一番安全だ」 そう言った彼の顔は、真っ赤に染まっていた。 恥ずかしさに耐えかねたのか、槍を振り回しながら意味不明な雄たけびを上げ、猛スピードで赤兎を走らせて呂布は去った。 取り残された劉備軍の面々。 「呂布が…我が軍に降った…?」 趙雲がポツリとそう呟くと、隣にいた劉備が目をカッと開き、叫んだ。 「…ぃいやった――!!バンザーイ!バンザーイ!呂布が劉備軍の武将になった――っっっ!!」 他の勢力に2馬身くらいリード!と喜んでいる殿を見て、「これです。こうなることを予測した布陣だったのです」と得意気な諸葛亮。 明らかに呂布が目当てで寝返ったのを感じた趙雲は、嫉妬爆発で。 「全然よくない!」 八つ当たり無双乱舞を近くの拠点兵に食らわせていた。 さてはて、被害者以外の何者でもない可哀想なさん。 これをきっかけに「あの呂布を屈服させた、異常なくらい強い鬼朱雀・」として、中国全土に嫌な感じで名を馳せることになるのだった。
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