ブッ


 は諸葛亮が広げた布陣を見て、思わず吹いた。
 その戦は虎牢関の戦い。
 の「朱雀」として初めての出陣である。
 
 「殿をはじめ、私達はこちらへ…朱雀様はこちらへ配置致します」

 地図上に示されたの位置は、虎牢関の正に真ん前。
 遠く離れた場所にポツンと一人。

 「わ、私、一人ぼっちに見えますけど…?」
 
 この配置は明らかに危険だ。
 マップ画面で確認すれば、辺り一面
真っ赤な点だらけ状態。
 戦の開始直後から、敵兵に囲まれ放題である。
 諸葛亮のイビりとも取れるその布陣に不信感をつのらせる
 しかし諸葛亮はそんなことを意に介さず、朱雀なんだから大丈夫、気楽にやろうぜ的なことを言っている。
 気楽にやる割にはあまりにも過酷なデビュー戦ではないか?

 「いずれ虎牢関は通りますから、必ず合流します」 
 
 諸葛亮は口元に扇をあて、そっと目を閉じて言葉を続けた。

 「私達が到着するまでに敵が片付いてますように…という願いをこめた布陣です」
 
「そういう願い事は、神社の絵馬にでも書いてもらえませんか」

 勝手な願かけをされても困る。
 要するにパシリ?
 ちょっとパン買って来いやーと同じノリで、先行って敵片付けて来いやーってこと?
 朱雀様なのに?

 「それはあんまりでしょう、諸葛亮殿」

 二人の話を聞いていた趙雲が口を挟んだ。

 「何も殿を一人離して配置しなくとも…ん?」
  
 卓の上の地図を覗き込んだ趙雲は、何かに気づいたようだ。

 「この殿の位置…扉が開いたら呂布と即対面では?!」
 「え?!」

 趙雲の発言に驚いたも、同じように覗き込んだ。
 確かに、この図でいくと門の向こうの呂布とバッタリ。
 これはちょっと?!と思い、この布陣を決めた軍師を振り返ると「あ、ほんとだ」みたいな顔をしている。
  
 「諸葛亮様!これ、この呂布こと、考えてなかったんでしょ!?」
 「…い、いえ計算どおりですよ」
 「どもった!今どもりましたよね?あ、目そらさないで下さい!」

 諸葛亮、完全に呂布の件を忘れていた。
 しかし臥龍などと呼ばれている稀代の天才軍師ともあろうものが、こんなミスを犯したとは言いにくい。
 引っ込みがつかなくなった諸葛亮は、そのまま朱雀のに呂布をぶつけてみることにした。

 「頼みましたよ、殿」

 そう言って、窓からの暖かい木洩れ日なんかを眺める諸葛亮。

 「諸葛亮殿!これはひどい!」

 あんた鬼か!と趙雲は詰め寄るが、黒軍師はそのまま扇を仰ぎながら出て行ってしまった。

 そりゃあは風の申し子。選ばれし朱雀様。
  
 でも、
初陣。
  
 人情とか愛とか仲間とかの言葉で語られがちな国だというのに、蜀、かなりスパルタ教育である。

 「殿、私もなるべく急いで援護に向かいます。ですから、どうか無理はなさらぬよう…」

 ムチャクチャな任務を押し付けられたを趙雲は慰める。
 というか、この布陣がすでに無理な状態だと思うのだが。

 「はぁ…」

 なんとも言いようがないは、弱々しく返事をした。

  

  
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 劉備軍からえらく離れた位置で、は一人頑張っていた。
 慣れない戦ではあるが、そこはやっぱり朱雀様。
 戸惑いつつも、敵兵を順調に吹っ飛ばし、虎牢関の守備隊長をも見事粉砕した。
 衝車も無事到着し、虎牢関はゆっくりと開いてゆく。

 「あ、あいつ…まさか…」

 開いた扉へ何も知らず元気に流れていった、連合軍の悲鳴が門の向こうで響いていた。
 赤兎馬にまたがり、身の丈ほどもある槍を軽々と振り回す巨躯の男。
 呂布の登場である。
 虎牢関の扉の真正面で戦っていた、当然ご対面。
  
 
こ、怖い―――っ!!

 は、初めて見る呂布に心底戦慄を覚えた。
 とりあえず、デカい。
 しかし体が大きいだけならば、同じ軍の関羽や張飛だってかなりの大男である。
 今更ちょっと体格のいい武将に驚くではない。
 何か、違うのだ。
 他の者とは圧倒的に違う。
 それは多分、戦神と呼ばれる呂布だけが放つ迫力というものなのだろう。
 朱雀である彼女は、その正体不明の威圧感を本能的に察知していたのだが
 なにしろ実戦経験がまるで無い為にそれが何かまではっきりとはわからない。
 ただ、呂布の恐ろしさのみをビリビリと体で感じていた。
  
 だって一応朱雀だ。
 極端に言えば、人を超えた存在である。
 本来ならば呂布と対等、いやそれ以上の能力を秘めているだろう。
 しかし、しつこいようだが
初陣
 
初陣で呂布

 初めての戦で呂布の相手なんて、サッカーのルール覚えたばかりの奴にオーバーヘッドを決めさせようとするぐらい無茶な話である。

 「俺は呂布。字は奉先」

 挙句、一騎打ちまで申し込まれてしまった。

 
 
ギョエ――――――ッ!!!

  
 カンベンしてくれぇ!とは青ざめたが。
 そんなもの断ってしまえば良かったのに一騎打ちを断ると士気が下がる、ということを思い出した彼女はついつい受けてしまった。 
 なんて真面目な。
 なんて健気な。
 
 でもアンタ、その選択間違ってるぜ!
  
 は震える腕に力を込めて、小太刀をグッと握った。
 
 「わ、私はと申します!この勝負、お受けいたします!」