藤子不二雄Aのブラックユーモア短編集のオススメ作品
藤子不二雄Aのブラックユーモア短編集のオススメ作品
ブラックユーモア短編集について
国民的な漫画家の藤子不二雄A先生が70年代ごろ(1968〜77年)に大人向けで異色でオチが黒い短編漫画を多く発表されていて、
それらの短編を集めたものを「ブラックユーモア短編集」と言います。藤子作品によく見られる児童向けやファンタジー作品とは
一線を画したような作風となっていて、藤子作品の違った一面や藤子作品の幅広さを味わうこともできる短編集にもなっています。
過去に何度かブラックユーモア短編を集めた単行本が刊行されて、90年代にはコミック文庫版が中央公論社から刊行されました。
そして、2011年に小学館から藤子不二雄A先生の「画業60周年記念」の一環として、この短編集の愛蔵版が全2巻で発売されました。
私は2011年8月にこの「ブラックユーモア短編」の愛蔵版全2巻を購入しましたので、その中からお勧めの作品をいくらか紹介します。

管理人スラムのお勧め作品
小池さんの奇妙な生活 藤子作品ではお馴染みの「小池さん」が主役の短編漫画です。2011年発売の愛蔵版では第1巻の一番最初に
収録されている漫画です。その作品での小池さん(作品ごとに役割が違う)は売れない青年漫画家であります。
ふとしたことで「職業は板前」と名乗る男とその家族に出会います。その家族の正体は「当たり屋一家」ですが、
その家族の男の子が小池さんの描く漫画のファンだと名乗りだして、一緒に行動することで小池さんは元気を
貰いました。小池さんのモデルは作者の友人でもあるアニメーターで、現在は杉並アニメーションミュージアムの
鈴木伸一氏です。「作者にとって身近な人物をモデルにしたキャラクターが出ることもある」「同じ作者の作品の
垣根を飛び越えて登場するキャラもいる(スターシステム)」といった黄金パターンをやっているキャラクターです。
黒イせぇるすまん 藤子不二雄A先生の代表作のひとつ「笑ゥせぇるすまん」の原点です。「笑ゥせぇるすまん」がアニメ化された時、
この短編のエピソードを元にした話が放送されたこともあります。この話で喪黒福造の顧客となるサラリーマンの
青菜は幼馴染でもある同僚の牛河(通称:牛ちゃん)によく苛められていました。喪黒はある日、青菜のところへ
訪問してきて、怪しい布人形をプレゼントしてきました。この謎の人形は顔に復讐した相手の顔写真を貼って、
藁人形に釘を刺すような要領で針を刺すと相手も怪我をしてしまう恐ろしい人形です。肉が苦手な青菜は牛河に
焼肉屋へ強制的に連れられましたが、そこで青菜は店員の女性に惚れてしまいます。青菜の運命やいかに…!?
この作品は最初の読み切りを経て、連載作品となりましたが、初期の連載作品は「黒イせぇるすまん」といった
タイトルになっていて、この作品がアニメ化される際に「笑ゥせぇるすまん」に改題されたエピソードがあります。
わが名はモグロ…
喪黒福造
2003年に「ビッグコミック」誌上に連載された読切作品です。この作品の主な内容は「笑ゥせぇるすまん」および
喪黒福造の誕生秘話が描かれて、「トリビアの泉」の中でも紹介されました。その作品によると喪黒のモデルは
タレントの大橋巨泉さんであり、藤子不二雄A先生がたまたま見たテレビに映っている大橋巨泉さんの顔を見て、
閃きました。また、作品を執筆されているときの話も面白いです。アニメ化された際に喪黒の声は大御所声優の
大平透さんが演じられていましたが、彼は「笑ゥせぇるすまん」が放送されたバラエティ番組「ギミアぶれいく」の
司会の巨泉さんと親友でもあります。また、藤子不二雄A先生も「ギミアぶれいく」のレギュラーのひとりでした。
明日は日曜日
そしてまた明後日も……
21世紀になってから表面化した社会問題の「引きこもり」が描写されたような短編作品で、この作品は1971年に
発表されたものであるだけに「先見の明」があったのかなと感じ取れます。この短編作品の主人公は入社初日を
迎えた田宮坊一郎です。両親から期待されて会社へ向かいましたが、会社の入口前にいる守衛(ガードマン)に
萎縮してしまい、その場から逃げ出してしまいます。時間だけが過ぎていって、坊一郎は「もう会社にいけない」と
思ってしまいました。この話のラストシーンはいろんなサイトで紹介されていて、私はサイトでの紹介記事を見て、
この作品及びブラックユーモア短編に興味を持ちました。まるで時代の先を読んでいたかのような感じもします。
内気な色事師 90年代になって一般的に知られるようになった「ストーカー問題」が描かれたような作品です。この話の主人公の
丹野は電車内である女性を見てしまい、衝撃を受けます。それ以来、丹野は電車内で見た女性・冴島時子に
異様なまでの執着を見せます。たとえ、彼は同僚に忠告(といってもからかい半分かもしれないです)されても、
時子への執着は収まることを知らず、ついに時子と再会します。しかし、時子の彼氏らしき男もそこにいました。
その光景を見た丹野がとった行動は…!!そして、衝撃な結末は…!?この話の主人公の丹野という青年は普段は
気が弱い感じがしますが、惚れてしまった相手が関わると性格が大胆かつ巧妙に変化するギャップがあります。
なにもしない課 現在のリストラ問題に通じるような内容の話です。アニメ版「笑ゥせぇるすまん」の特番ではこの短編を元にした
話が放送されたことがあります。要するに、この短編に喪黒を登場させた話に出来上がりました。話の主人公は
若手のホープとして営業課でバリバリと働いていた男子社員・天野芳雄です。ある日、彼は調査課へ行く内容が
書かれた辞令を貰いました。その調査課は「姥捨山」や「番外地」とか呼ばれていたり、天野のかつての上司は
「私が代わりに行きたいぐらい」と言われていたりします。調査課の仕事内容は「定時まで外に出てはいけないが
部屋の中で好きなことを定時までにやっていい」というもので、営業マンとしてバリバリ働いていた天野にとっては
退屈で歯痒い環境となってしまいました。天野はそこで細井茂という男性と知り合います。彼は10年も調査課に
所属している社員であり、長く調査課にいる社員の中から1〜2人が他のところへ配属される「特赦」があって、
ついにその特赦が発表される日が来て、天野は衝撃の事実を目の当たりにします。「魔界塔士サガ」に登場した
塔の3階の「何もしなくていい世界」を連想させるような話でもあります。この話を見てあなたはどう感じるのか!?
ひっとらぁ伯父サン 「ひっとらぁ伯父サン」と「ひっとらぁ伯父サンの情熱的な日々」の2話構成の短編ですが、この記事ではまとめて
紹介します。ある日、町に顔がハイル・ヒットラーに激似なチョビヒゲのオジサンがやってきます。そのオジサンは
下宿人募集の広告を見て、小池家という家族のところに居候します。このひっとらぁ伯父さんは自分の車を塀に
ぶつけたお詫びに10万円をキャッシュで渡したり、町の子供たちに「黒シャツ隊」といった少年団のような組織を
結成させて、子供たちの親に「子供に規律を植えつけさせた」と喜ばれたり、小池家の亭主にブラックジャックを
教えて楽しませたりと良い面がありますが、ひっとらぁ伯父サンが好きな音楽家のワーグナーの楽曲を大音量で
流した後に怒鳴り込んできた隣の家の奥様を仕組んで焼却炉に落としたり、約束を破った(裏切り行為)という
理由で町内自治会長に野犬をけしかけようとしたり、小池家の亭主を自身が教えたブラックジャックで陥れたりと
悪い面も持っていたりするキャラクターでもあります。私はこの短編を読んで、ひっとらぁ伯父サンが持っている
「二面性」や「表と裏」が強く印象に残りました。野犬から女の子を助けて、女の子がお礼を言って抱きつかれて
照れるひっとらぁ伯父サンの姿は憎めないです。話の主役の元ネタのヒットラーは実際にワーグナーを愛好し、
元ネタに忠実な設定です。特に「ひっとらぁ伯父サンの情熱的な日々」方で登場した「ヴァルキューレの騎行」は
特に知名度が高いなと思われます。テレビ番組のBGMやNBAのアリーナのBGMなどの多方面で使用されている
曲であり、聴けばピンと来るでしょう。この作品ではゲームのブラックジャックを「ドボン」の呼称で呼んでいます。
水中花 水の中にいれると美しい花を咲かせる「水中花」が好きな菊坂優一という気が弱そうな御曹司のサラリーマンが
主役の話です。彼は同じ趣味を共有する同僚の女性・望月慶子と水中花の話で盛り上がる面を持っています。
ある日、麻雀でよく菊坂をカモにする同僚の男性・進藤が望月の衝撃の事実を語りだして、持っていた水中花を
「あの女の本当の姿さ」みたいな台詞を吐いて踏み潰しました。そして、菊坂は進藤を「飲み」に誘いましたが、
その後に進藤は謎の失踪を遂げます。菊坂は憧れの女性の望月を自宅に誘って、自らの水中花コレクションを
見せましたが、その後に望月は衝撃の光景を目撃することに…!!「内気な色事師」の話にあるような憧れの人の
事柄がかかると大胆になる気弱な主役の姿が見られたり、「愛するもの」への強い執着が読み取れる話です。
赤紙きたる 主人公はアニメーターの青年の小池伸一です。ある日、小池のもとに「召集令状(赤紙)」が入っている封筒が
届きます。実際に友達に見せると「そんなものは悪戯だ」という答えが返ってきましたが、小池は自分の周りに
怪しい男が執拗につけてきたり、「これは悪戯でもない。紛れもない召集令状だ。指定の日時に出頭しなければ
強制召集をかける」といった内容の電話が掛かってきたりと、小池は「まさか本物では!?」と思うようになります。
そして、召集令状に書かれている指定の日がやって来ます。これまで不安だった小池は「召集できるもんなら、
やってみろ」といった強気な考えを持つことになります。指定の日は休日だったので、映画鑑賞をすることにした
小池でしたが…!!この話は主人公の青年の「揺れ動く心情」が特に印象に残る話です。この話の冒頭に登場した
郵便屋さんが小柳ルミ子さんの「わたしの城下町」を口ずさだシーンが見られましたが、この短編が掲載された
1971年を代表するヒット曲でもあります。ちなみに、小柳さんのデビュー曲であり、彼女はその時代を代表する
人気アイドルでありました。2011年に置き換えますと、AKB48の楽曲を口ずさんでいるようなものだと言えます。
諸芸百般道けわし 話の主人公の丹保治郎は自分が冴えない男であることに悩んでいました。彼は新聞に載っていた空手道場の
広告を見て、空手を習うことを決意しました。道場主に挨拶に行った帰り道で道場主の娘から自動車教習所へ
行くことを半ば強引に進められて、さらには、治郎の会社の同僚から英会話のレッスンをまたしても半ば強引に
受けることを勧められました。治郎は3つの習い事を一気にこなさなくてはいけなくなりました。道場での稽古で
筋肉痛になったかと思いきや、自動車教習所では眠気で思うように運転がこなせないような日々が続きました。
そして…彼はある朝についに遅刻の理由を尋ねた上司に対して「爆発」してしまいました。オチは他の短編より
ギャグ要素が強い感じがします。この短編の主人公は「断る勇気」がなかったのか、自分の限界を知らなかった
可能性があるかもしれません。「笑ゥせぇるすまん」では喪黒の顧客が空手を習う話があったのを連想しました。
ダル男の物憂い日々 現在でいうところの「ニート」のようなものを描いた作品であり、まるで「明日は日曜日そしてまた明後日も…」や
「内気な色事師」などのような現在に表面化している社会問題に近いようなものも感じる「予言」や「先見の明」と
思わせるような短編です。主人公は「ダル男」というあだ名の常に自分の部屋に引きこもりっぱなしの男です。
そのダル男はサファリルックに身を包んだ友人のキラ男からある場所に招待されて、その道中で漫画家の卵で
喫茶店でアイデアを練っていたダメ男、奥さんと共に雀荘を営むドラ男も連れて行きました。キラ男が案内した
場所は昼間から営業しているクラブ(バー)でした。ダル男はそのクラブのホステスを務めているサワちゃんに
惚れてしまいます。ダル男はその女性に惚れたことで、元気になって積極的に外に出るようになりましたが…!?
この作品で印象に残っているところはダル男がサワちゃんに惚れた後に出ている顔が描かれた吹き出しです。
無邪気な賭博師 サラリーマン3人が雀荘でもうひとりの友達を待っている描写から話は始まります。しかし、その友達は待っても
来る気配がありません。そこに「メンバーが足りないのなら入れてください」と頼む中学生の男が登場しました。
サラリーマン3人はその少年を麻雀に加えることにしましたが、その子が予想外のひとり勝ちをしてしまいます。
サラリーマン3人組は少年に賭け麻雀のお金を支払う約束をすることにします。ところが、サラリーマン3人組は
お金を支払わないことを決め込んだり、金額を値切ろうとしました。しかし、その後にはとんでもない不幸が…!!
この話で最もインパクトが強かったのは麻雀の腕が強くて、約束を破った者には容赦がない少年の存在です。
藤子不二雄A先生によるギャップがあるキャラクターや二面性を持つキャラの描写は凄いなと感じさせてくれる
作品のひとつです。また、麻雀はゴルフや旅行と並ぶA先生の代表的な趣味のひとつであって、様々な作品…
特に青年向け漫画の中で登場人物が麻雀をやる描写をよく見かけます。「笑ゥせぇるすまん」のエピソードには
少年が遊びの家庭教師と出会う話があり、少年は様々な遊びに喜び、勉強にも身が入るようになりましたが、
エスカレートして最後は賭け麻雀の達人になってしまったものがありました。その少年の行く末が心配ですね。

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