天平丸
長刺タイプ。刺が肌から浮いている。
伊丹勝吉氏栽培。 径8cm


天平丸
標準タイプ。1961年に輸入された原産地球。
山名利三郎氏栽培。 径12cm


天平丸 Gym. spegazzinii Br.&R.

優型ギムノを守る会々報品種解説No,2(1961)参照。
昭和初年頃に我が国に入って来た天平丸は現在我々の見ている一群の天平丸とは少し違っていた。
刺は長く、肌から浮き、生長点に綿毛をたくわえた非常に魅力的なギムノであったが、戦時中に殆んど姿を消し、わずかに数本が生き残ったようである。
戦後ギムノが大量輸入されたのは昭和36年(1961)であるが、この時数百本のGym. spegazziniiが床の上にずらりと並べられた時の感激を平尾博氏が記しておられる1)。その時以来天平丸に非常に巾広い型があって、戦前の天平丸と著しく異っていることがわかった。
天平丸の種々の型の定義についてG.Frankの一文が紹介されている2)が、それによるとRauschらの採集した一連の型についての定義のむつかしさとその広い変異並びに採集地での分布の状態にふれ、G.Frank氏の定義が記されている。即ち、『球体は圧しつぶされた扁球型乃至梨型、もしくは短い円筒型。径は30cm迄。頂上は平ら又はくぼんでおり、多かれ少なかれ綿毛を有す。体色は明るい灰緑乃至濃緑もしくは褐色をおびる。稜は8から15、極めて幅広く平らで、ごく浅い溝を有する場合と、溝は深く、稜が多少高い場合とがある。中刺はなく、汚れた白、黄褐色、角の様な色、赤褐色乃至は殆んど黒色。曲りやすいものから、堅い力強いものもあり、球体に密着するもの或は下向きの刺が球体に向って曲がるもの、或は球体から離れてねじれているものなどがある。刺の長さは甚だ色々で、1cmそこそこで且つ堅くしかも球に密着しているものもあり、また一方では平均3〜4cm、最も長いのは6cmもあるものがある。1つの刺点における刺の本数は3,5,7,9であり、通常5又は7である。花は小さく、堅質で、約6cmの長さ。通常バラ色に褐色をおびた色又は淡紅色、時に白があり、稀に緑責色のものもある。』2)ということである。そしてかき仔又は種子で繁殖された、いわゆるヨーロッパで製造された種が、原産地ではそれ以外のあらゆる中間型、移行型等と共に自生している事がありうることを指摘している。戦前の天平丸はこのヨーロッバ産の1つの型であったと推定されるが、我が国に輸入された原産地球の中にはこれと同じものはなく、その殆んどはBackeberg3)やBr.&R4)の記したspegazziniiのタイプに属するものと、Backeberg5)、6)の記しているGym. spegazzinii var. majorのタイプのものであった。特に最近輸入されるものは後者である。これについては次の項でふれる。
長刺タイプはシャボテンの研究誌7)に発表され、当時では標準型として受け入れられ、その後も種々の定本に引用されて来た。生長点に黄灰色の綿毛が多く、刺は黒褐色又は角の様な色、錐状でかなり太く、下へ廻るにつれて5〜7本の刺が全部下方に向って仲びる。中刺はなく長さは4〜5cm、ゆるくカーブしながら素直に伸びている。体径10cm位で円筒状に育つ。稀に15cmになるといわれている。稜数10〜15、あまり高くなく刺座の下に低い隆起がある程度である。花は白で丸弁、花底は深紅色である。8)生長は至っておそく、花付きもよくないようである。1)写真の球は古曽部園芸場に残っていた球のかき仔である。筆者らは長刺天平丸として記したこともある。9)この型を我々はA型として分類して来た。
Br.&R.が学名を命名しているので、彼らの記載した写真の型をGym.spegazziniiの標準型と考えると写真Iの様な型はその部類に入るものである。これはB型として分けて来たものに属し、写真の球は特に刺が黒く長いタイプである。Br.&R.4)の説明によると、『扁球型、高さ6cm、直径14cm、灰緑色で13稜、巾広く低い。ふちの方では丸くなっている。アレオレは楕円型で、刺は通常7本、錐状の剛刺で肌にそっている。時には後方へ穹曲する。灰褐色で長さ2〜2.5cm。花は長さ7cm位、内側の花被の部分はややバラ色がかっている。花糸と花柱は紫で柱頭の裂片は16、白色からバラ色。子房の鱗片は少く、巾が広い。産地La Vina、アルゼンチン、サルタ州。分布はこのタイプのみ知られている。』
とあり、先のG.Frankの定義に含まれているといえる。Backeberg3)、10)もこのタイプをGym.spegazziniiとしているが、この型に属するものは非常に巾広い固体差があると考えてよいであろう。

(註)1,平尾博;優型ギムノを守る会々報No,2
2,G.Frank;シャボテン,49,12(1964)(シャボテン社編集部訳)
3,Backeberg;Die Cactaceae,V,1746(1959)
4,Br.& R.;The Cactaceae,V,155(1922)
5,Backeberg;Die Cactaceae,V,1746(1959)
6,Backeberg;Kaktus ABC,p289(1935)
7,小貫丑之助;シャボテンの研究, 6, 8 (1935)
8,津田宗直;シャボテン, 24-5, 13 (1936)
9,庵田、山名;サボテン日本, 23, 19 (1961)
10,Backeberg;Die Kaktuslexikon, p174, p570 (1966)