新世界
 この球は新世界として求めたものではないが、
新世界の特徴であるアレオレの上に切れ込みがある。
筆者栽培


新世界 Brachycalycium tilcarense Backegerg.

Backebergが1935年にGym.saglionis var. tilcarense として新天地から分離し、更に我が国にはGym.saglione var. jujuenceとして種子が入って来たのが最初である。1959年にBackebergはその著書サボテン科2)の中でいくつかの特徴を挙げて新天地とは異ると考え、新属を設けて記載した。
Gymnocalyciumから分けられたこのBrachycalycium属の主な特徴は、花が短く壺状をしていること、アレオレの上に切れ込みがあって、綿毛がその中に埋れていることである。
形態そのものは新天地に非常によく似ているが、Backeberg2)の説明によると単幹で子吹きせず、高さ約40cmで新天地よりも円筒状に育つ。稜はラセン形に巻いていて、丸い大きなコブに分かれている。
アレオレの綿毛の上からコブの根元にかけてミゾの様な切れ込みがあり、綿毛が長く伸びてその中に埋っている。丁度象牙丸のアレオレを想像していただければ良いであろう。
花はその綿毛の長く伸びたところに咲き、壺状をしていて、花筒は非常に短く、巾の広い鱗片がついている。花弁はヘラ状で先端は少しとがっている。花糸は非常に短く根元は集って花弁の内側につながっている。花柱は約5mm、径が3mm位で柱頭は大きく7mmである。花粉は多いが花糸が短いのでそこにたまらないて外にこぼれてしまう。
原産地はアルゼンチンのTilcaraの近く、海抜2000mのところで採集されたと記されている。
現在我国で栽培されているものは、大部分が種子で輸入された実生苗であり、4,5年前まではGym. jujuence又はGym. saglione var. tilcarenseとして入り、最近はBrachy. tilcarenseで入ったものである。一部原産地球も入っており、その標本球の写真を竜胆寺雄氏が発表しておられる3)。今のところ実生苗には全く前記アレオレの特徴は見られず、輸入球についてもBackebergが載せている写貞2)ほど切れ込みが顕著でなく、球によっては全く新天地と同一の様である。竜胆寺氏の写真の球もBackebergの標本球の写真と比べてみると、アレオレの特徴はそれ程明りようではない。私の手許にある新天地(これは白刺新天地として購入したもの)に写真3に見られる様な切れ込みがあるが、この程度の切れ込みは多花玉等にも見られるので、Backebergが一属を設ける程の特徴とは考えられない。
従って現在新世界として我国で栽培されている球は実生苗は勿論、原産地球も新天地の部類に入るものであって、標本的なtilcarenseは入っていないと考えられる。花筒の長さについても、新天地自体が非常に短い花筒を有するので、その差は極くわずかなものでしかないと思う。

(註)1, Backeberg ; Kaktus ABC, p.295 (1935)
  2, Backeberg ; Die Cactaceae V 1786 (1959)
  3, 竜胆寺雄;カクタス研究,53,口絵写真 (1966)