新天地
 内地実生球、山名利三郎氏栽培.


新天地 Gym.saglione(Cels)Br.& R.

優型ギムノを守る会々報品種解説No,4(1961)参照.
新天地と言えばマニアなら誰知らぬ人はいない位有名な品種で、今更改めて品種の解説をする必要もないと思うが、前回の解説で書きもらした点や,その後集めた資料をここでまとめておくことにする。
先ず、新天地が我国に入って来たのは、奥一氏の解説
1)によると九紋竜、竜頭に次いで3番バッターとして、明治45年の銘鑑に初めて登場したと記されている。当時はまだギムノカリキウム属という属の分類はされていなかったから、Ecinocactus saglionisという学名で輸入された。輸入元は御存知の松沢進之助氏で、そのリストの中ですでに新天地という名前が出ていたらしい。従って命名者は松沢氏であろうと推察される。
次いて大正時代に棚橋半蔵氏が輸入して横浜植木会社が売り出したサボテンの中にサリオン玉というのがあり、これはEch.saglionis(エキノカクタヌ・サグリオニス)をもじってつけた和名であるから新天地のことであることは問違いない。今ではサリオン玉という名前を使う人はいないけれど、一時はそういう和名で呼ばれていたことも事実である。
球体は球形でやや偏平、単幹で殆んど仔吹きしない。肌色は暗緑色で、大きくなるとより深い緑色となる。
艶のないビロードの肌ざわりである。大きくなることではギムノ中随一で、30〜40cmになる。稜数は10〜30稜、大きな丸いコブ状に分かれ、隣の稜と互い違いに突出するので、丁度菱形を丸くした様なダルマが連なっている様に見える。アレオレの下に小さなふくらみがあるが、これのあまりきつく突出したものは面白くない。丸々とした感じの方が良いであろう。アレオレの間かくは2〜4cmはなれ、綿毛はうすい褐灰色で大きく、ダエン形をしている。花の咲いた後のアレオレは特に大きい。
刺は暗褐色から、いくらか赤味を帯びた黒色。乾いた時は粉をふいた様に白っぽく見え、灰色がかるが、水をかけると本来の色が出る。白刺新天地とか赤刺新天地と呼ばれているものも、大きくなると刺の色はだんだん濃くなって、殆んど変らない位になる。刺の長さは2.5〜4cmで、7〜12本、球によっては20本以上も出るものがある。針状で外側にそり返って放射する。中刺は大抵3本あり、その内の1本は特に上方に向ってそり返る。通常ギムノは前の年に出た刺座に新しく刺は出て来ないものであるが新天地は2年位前の刺座からも1〜2本出てくることがある。
平尾秀一氏が色シャボテン
2)の中で記しておられる様に、新天地は独特の生長をする。即ち秋から冬にかけて球体はあまり大きくならないで、刺がどんどん出てくるが、夏季花が終ってからは刺はあまり出ないで球体が大きくなる。従って冬季においても全く生長を止めない様に灌水をする必要がある。
しかし冬季の灌水を続けていると、開花年令に達するのがおくれる。水を切ってシワが出る位いじめてやると8cm球で開花する。
花は漏斗状というより鐘状をした太くて短い花筒を有し、長さは約3.5cm、外弁は緑色の中筋があり、内弁はくすんだ白色からうすいピンク色。球によっては藤色がかったものもある。花弁の形はへラ状で先端は少しとがっていて切れ込みがある。
受精した子房は約1ヶ月で熟し、急にふくらんでピンク色となる。子房の中は緑色の水っぽい果肉でつまり、種子は黒褐色で小さく、多いものでは3000粒を数える。
典型の産地はアルゼンチンのツクマン州であるが、カタマルカ州からボリビア南部まで南北に分布している。おそらく産地によってタイプの差があると思われる。例えばイボの小さいもの、反対にイボが大きくて稜数の少いもの、やや長球形に育つもの、偏平に育つもの等が知られている。原産地球も輸入されているが、その中に内地球に比べて刺のあまりカーブしていないものがあった。万本耕一氏が昨年アルゼンチンヘ行かれ、新天地の自生地を見て来られたが、山の斜面とか草地に生えている様で、根は浅く、簡単に掘り起せるらしい。径40cmに及ぶ球が点々と生えている様子は壮観である。自生地附近には吹雪柱の類Cleistocactus aureispina等が生えているとBackebergは記している
3)
産地が南米であることは今では誰でも知っているが、かってメキシコ産と言われたことがある
4)
実生してから3年位はやや生長の遅い方であるが、3cmを越えると目に見えて大きくなる。大体10年で25cmになる。ところが30cmを越える実生の大球を持っておられる方が比較的少いのはどうしたことであろう。根は至って丈夫で、よほどこじらせない限り育てやすく、形もくずれない。私の栽培している球は10年前に径2cmの球を錦園より求めたものであるが、今直径28cmになっている。根が丈夫であるから、多肥多湿に耐える。強光線下でも殆んと陽焼けしないし、、逆に半陰で栽培してもあまり刺落ちしない。先人が新天地は浅い鉢に植えるのが良いということを教えているが、自生地での根の状態がそうである様に、地表にそって浅く張る様であるから深い鉢はあまり必要でない。
変種としてはvar. albispimum、var. fravispinum、var. rosiespinum、var. rubispinum等があるが、いずれも刺色の違いによって分けられたにすぎず、大きくなると刺の白かったものも次第に黒くなって来て、その差は殆んどなくなる。var. tucumanenseと云われているものは稜が巾せまく、やや腰高に育つようである。

(註)1, 奧一;サボテン日本,23,31 (1961)
   2, 平尾秀一;原色シャボテン,p-177 (1957)
   3, Backeberg;Kakteenjagd,177 (1930)
   4, シャボテンの研究,5(5月号)(1933)