8 燻装玉(くんそうぎょく)
Gymnocalyciumu nigriareolatum Backeberg 1934
写真の球の栽培者 守口市 庵田知宏氏(昭和36年輸入原産地球)
(仙太郎註;燻の字は本当は「目」辺なのですが、文字化けの危険があるのでこの字を宛てています)


単球でやや扁平、老株は長く伸びる。直径10〜15cm位。体色は青緑色。古武士の風格をしのばせるいぶし銀のような肌に、褐色から灰桃褐色の刺がやや乱れて上方にそり返る。刺数7〜8本。稜は割合に高く、おの状の突起を有する。突起の下は鋭くくびれている。アレオレは約2.5cm離れ、最褐は少しけば立った淡褐色の綿毛があり、下に回るに連れて次第に黒くなる。本種の学名はこのアレオレの黒いことからつけられたもので、本種の特徴であろう。刺の長さは約3cmであるが、昨年輸入された原産地球を見ると、刺の太いもの、細いもの、上方へ反り返ったものや、縁刺が内側へ向かって肌に添ったものなど、非常に個体差が大きいようで、Backebergがはじめて記載した1)ような典型的なタイプは極少なかった6)。
花は陶器のような光沢のある白2)または乳白色3)、又は酔白色4)と記されているが、ややくすんだ白というところであろう。又、いっぱいに開かない2)3)と記されているが、温度をかければ写真のように大きく開く。伊藤5)は花色について「内弁は白色か淡青磁色がかり、より濃色の中筋が入っている。外弁はより濃色。花筒の内側は淡桃色」と記しているが、外弁は少し緑がかった中筋が入っている。丸弁で、先端は外側に曲がっている。花筒は太く短い。果実は球形で、青磁色で白粉を帯びる。
産地はアルゼンチン Catamarca州、Mazanの近くであるから、魔天竜や華武者に近似したところもある。
又、五大州と一連につながっていて、その巾は相当広いように思える。
Backeberg2)はFricのリストKakteen Jager 6,1929を引用して、G.curvispinumとG.nigriareolatumとは同一ではないかという点に触れているが、現在日本にあるウィンター種子の実生によるG.curvispinum(黒菱玉)とは大部相違している。伊藤は5)( )に入れている。BackebergはKaktus ABC1)とDie Cactaceae,V2)に同じ写真をのせているが、その写真を複写したものがシャボテンの研究1936年2月号に出ており、新品種として紹介しているから、日本へ入ったのはこの頃(昭和11年頃)であろう。
今までの内地実生球はあまりタイプが良くない。中には相当いかがわしいものあったようだが、昨年の輸入球にはBackebergの記載したものと全く同じと思われるタイプのものもあったから、そういう苗から殖して行きたいものである。写真の球はその典型的なタイプである。
変種にG.nigriareolatum var. densispinum Backeberg 1936 があるが、標本球がないので別の機会に解説したい。

参考文献 1)Backeberg;Kaktus ABC,p292 (1935)
2)Backeberg;Die Cactaceae,V,1759(1959)
3)シャボテンの研究;1936年(昭和11年)2月号、p10
4)平尾秀一;原色シャボテン、p178 (1957)
5)伊藤芳夫;サボテン図説、p188(1957)
6)山名利三郎;大阪サボテンクラブ会報、No,29,30合併号 表紙裏(1961年12月号)
      々  ;サボテン日本、23、17、(1961)
々  ;シャボテン、35、26、(1961)
J.Borg;Cacti、p304 (1951) 


追加資料

 

燻装玉(くんそうぎょく)
Gymnocalyciumu nigriareolatum Backeberg 1934
写真の球の栽培者 西宮市 團上 和孝 氏 径8cm

燻装玉の内地球の例を載せました。
本文にもある通り、燻装玉の仲間は非常に個体差に富んでおり、どれが典型と言えるのかが未だに良く分かりません。従って、この球はあくまでも仙太郎自身の好みによってここに掲載しています。
学名はアレオレが黒く変色する事を示していますが、最近では原産地球でもそのようなものは殆どなく、たまたまアレオレが黒いカビに汚染されていた個体にそのような名前を付けてしまったらしいと考えられています。