恵比寿笑い(パキポディウム属)
Pachypodium brevicaule

仙太郎は昭和40年代からずっとブレビカウレ(和名:恵比寿笑い)を持っていて、特に小苗が好きなので大きくなったら手放し、また再び小苗を育てると言う事をずっと繰り返しています。
この苗で多分4代目になると思います。

昭和30年代後半の神戸カクタスクラブのある日の例会に、時々西ドイツのカール・ハインツ・ウーリッヒ(ひょろ高い眼鏡のオッサンでした)から輸入される珍しい植物を持って来て見せて下さる山口翁が、この日は「生姜/ショウガ」が植えられた植木鉢を持って来て見せて下さいました。
生姜に見えたその植物はマダガスカル島から始めて日本に渡来した珍しい多肉植物で、パキポディウムのブレビカウレと言いました。
生姜の芋からかわいい丸い葉っぱがちょこんと出ている姿が実に面白く、いっぺんで虜になってしまいましたが、その後、作家の龍胆寺氏が恵比寿笑いという和名を命名し、実際に苗が市販されて入手出来るようになったのはそれから5年くらい経てからだったと思います。
それ以来、今に至るまでずっと栽培を続けています。

90年代までは小苗を買っては育てていたのですが、2000年代前半に原産地球を何本か手に入れることが出来たので、以来毎年採種して実生を楽しんでいます。



 

恵比寿笑い/原産地球(パキポディウム属)
Pachypodium brevicaule

栽培を初めて丁度10年になる恵比寿笑いの原産地球。
購入当時は7cm前後の小球でしたが、現在は5倍程度に体重が増えたでしょうか。でも10年栽培してたったのこれだけなので、成長はパキポの中では最も遅い方だと思います。種も実生苗もパキポの中では最小ですし。
購入当初は焦げ茶色に汚れた肌でしたが、成長するにつれて内地球と同様の明るい茶色になりました・・・とは言っても夏の姿で葉に覆われていますから殆ど分かりませんね。
春から秋までは外で過ごさせているのは内地実生と同じで、ただ、実生苗ほど勢いよく根を伸ばしませんから、成長期の水やりは切らさないようには気をつけていますが、実生苗ほど多くは与えていません。

面白いのは今ある現地球は全て単独に購入し、購入時は開花時期も肌色も葉の形もそれぞれに個性があったのですが、10年経たら全て同じ肌色と葉になり、開花時期も内地球と同じとなった事です。
原産地の環境でも個性が出るのかも知れません。
この中には山堀ではなくて現地実生かも知れない整った姿の球もありましたし。

<追記・種の採種方法>

交配しても種が採れないという質問をよく受けますので、仙太郎の交配方法を追記しておきます。

パキポはたまに自家受粉する株があるのですが(我が家にも毎年自家受粉する株が1本ありますが、発芽率が非常に悪いです/一旦発芽すれば普通に育つ)、基本的には自家受粉は難しいので、複数の株同士での交配が基本です。
おしべは花の入り口にありますが、めしべは細長い花の奥にあります。
具体的には、恵比寿笑いの場合はおしべの先端から奥に4mm前後の位置にあります。
本来、蝶のような長〜いクチバシを持った昆虫に交配してもらうようになっているのではないかと想像します。
デンシフロラムのような大きな花でめしべまでのロートが浅い品種なら交配は容易ですが、恵比寿笑いの花は小さい上に花の根本のロートが細くて長いので、特殊な交配道具が必要です。
仙太郎は先を極細に長く削った竹串を使っていましたが、めしべを壊すことが多かったので、現在はナイロン製のテグス糸を竹ぐしの先にくくりつけた自家製治具を使っています。
これを使って、花の奥に差し込み、めしべをつぶさないようにそっと交配します。
差し込むときにおしべを通過するので自然に道具の先には花粉が付きますから、これを複数の苗に何回か繰り返して交配すれば種が実ります。
注意するのはめしべをつぶさないよういそっと交配することでしょうかね。案外ごしごしやってめしべをつぶしてしまう人が多いのではないでしょうか。
開花1日目はまだおしべの花粉が出ていないようなので、交配は2日目以降の花同士でに行っています。

5弁ある花の2弁をちぎって取り外し、一斉に出てくる樹液をティッシュで吸い取り、おしべも2片ほど取り外してめしべを露出させて交配している方もおられるようですが、その方がやり易いかも知れませんね。

もう一つ気を付けるのは、パキポの種はタンポポだと言うことです。
そのまま放置していると実った種はそよ風に乗ってさよなら〜、です。
サヤが大きく育ってきたら、網をかぶせて種が飛んで行かない工夫をしておく必要があります。
仙太郎は網戸の網をさやが隠れる程度に切って二つ折りにしてホチキスで留めています。

 


 

恵比寿笑い(パキポディウム属)
Pachypodium brevicaule

恵比寿笑いの実生苗の写真を載せてみました。
小さい方から実生2ヶ月、1年2ヶ月、2年2ヶ月です。
2年目まではまさにまん丸で、この時期までが一番姿が可愛いかも。
3年目からはご覧のように中央以外からも葉が出始め、こぶも横3方向に出るようになって次第にショウガの姿に変化していきます。こぶの出方は苗毎に大いに個性があって、何本置いてあっても楽しめます。

恵比寿笑いと付き合い始めてもう50年になるのですが、恵比寿笑いという名前が受けるのか、いまだに日本では人気種のようで、2年2ヶ月の苗はこれ以外は全てお好きな方達が持って行かれました。
3年以上の苗は何本かの採種用の原産地球を除いてもう1本も残っていません。
小さなフレーム栽培ですから、1年に5〜60株程度しか実生しないもんですからね。

1年を過ぎる頃から次第に成長に加速がつき、3年目で開花する苗が出てきます。
ただし種を採るなら最低5年は経過しないと苗の体力を極端に弱めます。

 


 

<ひとくち栽培メモ>

マダガスカル島の標高2,500メートルの高地に自生しており、パキポディウム属の中では最も高山性の植物です。
このため、パキポディウムの中では夏の暑さが最も苦手な品種のようで、、夏の間に温室に置き放しにすると枯死に至るダメージを受けやすく、ダメージを受けた株は秋になっても成長が進まず、冬の前あたりから翌年の春にかけて枯死します。
ダメージを受けてもすぐにはその影響が現れないので、枯れた原因が夏の暑さと気づく人は少ないかも知れません。

と言う事で、春から秋まではとにかくお外が大好きな植物で、5月から10月まではずっと日は当たっても雨の当たらない軒下のシンビジウムの葉陰などに置いてあげると嬉々として過ごします。
最近は黒のプラ鉢を使う人が多いと思いますが、夏の直射日光が当たると高温になって根を傷め易いですから、鉢には直射日光が当たらないようにするか、夏の間だけ白のプラ鉢にはめておくなどするとより良いと思います。

極端な寒さも苦手で、冬は
5℃以下にすると春からの成長が鈍ったり止まったりし易いですから、加温設備がない場合は冬の間だけ人間が加温設備の代わりになる寝室の窓際などに置くなどすると良いと思います。
仙太郎は最低温度8℃を保つファーマット加熱設備のあるフレームに取り込んでいます。

春から秋までの成長期の水やりは普通の草花と同じで、切らさないように常にたっぷり与えます。途中で水を切らすと乾期と勘違いするのか、成長期でも葉を落としてしまうことがあり、その場合は当然、成長が鈍ります。
仙太郎が昭和時代に恵比寿笑いの小苗をよく買っていた五十鈴園主さんは雨ざらしで構わないと言っており、実際雨ざらしで土の表面にこけが生えている状況も見ていますが、仙太郎は今でも6月の長雨に曝すほどの勇気はありません。ただしこれは実生5年目までの栽培方法で、それを過ぎてからは成長期の水やりは過湿が続くのを避けるようにします。

大きくなっても根は丈夫ですから、培養土は普通のサボテン用で何も問題はありません。