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チャイヤーの石仏について(2013-9-11)
チャイヤーにはWat Phra Borom That Chaiya大寺院に隣接して国立博物館がある。規模は大きくはないが展示物はなかなか見事なものがある。その目玉が石仏坐像(高さ104cmと完璧な姿のドーソン型青銅鼓である。問題はこの仏像がどこから来たか、または誰が作ったかである。実はこれは輸入品ではなかった。
これは扶南の支配者が6世紀の中ごろに真臘に敗れてタイ湾を隔てた盤盤国(バンドン湾の王国=チャイヤー)に亡命した際に、海軍ともども仏師などの技能者集団を連れてきた。彼らがそれまでアンコール・ボレイやオケオで制作していたのと同じタイプの仏像やヴィシュヌ神像を新天地で製作したのである。したがって6世紀中ごろからのチャイヤーやスラタニには従来にない新様式の彫像が出現するようになったのである。シュリヴィジャヤ様式ともいうべきものだが、もともとはアンコール・ボレイにあったものである。ヴィシュヌ神だけはシーテェープがオリジンである。模様の無い円筒形の帽子はシ-テェープのものがオケオやアンコール・ボレイに伝わり、それが海を越えてタイのバンドン湾地域に広がっていったと考えられる。
チャイヤー国立博物館(2011-5-7、アップロードは7-3)
ピリヤ博士の著書から拝借しました。 上の私の撮影した画像では仏像の表情が くすんでいてよく見えません。この仏像の特徴 は頭部にお椀を伏せたような髷がありません。 こういう形のものはインドにもほとんど実例が ありません。ところが扶南の都であったアンコール・ ボレイの博物館に同類のものがありました。 表情も柔和でクメール風です。 |
左上の石仏は6世紀中ごろの作とみられ、義浄も参拝した可能性がある。右上の青銅ドラムはドーソン・ドラムといって上のの国立博物館はガラスのケースの奥に厳重に保管してあるが、ここでは入口の右手の土間に転がしてある。指先で叩いてみるとボーンという深い響きがする。2000年の時を隔てた柔らかな音色である。ただし、叩いてはいけないことになっているので管理人のお嬢さんに御小言を頂戴した。
石佛の写真ももちろん撮影禁止であったが、英文の著書に乗せると言ったら取らせてくれた。ナコン・シ・タッマラートの博物館のアノン館長に電話で連絡してくれてOKを取ってくれた。こういうところがいかにも柔軟で愛嬌のあるタイらしいところである。
この石仏は6世紀の作とみられており、おそらくインドから運ばれてきたものであろうと当初は単純に考えていた。しかし、その後調べてみるとインドには類似の仏像は見当たらない。出版されている仏像の画像を見る限りはどれもこれも頭部にお椀を伏せたような「髷」が乗っかっているのである。
このように頭のてっぺんがほぼ平らな仏像はタイにもあまり見当たらない。不思議だと思ってカンボジアの仏像を調べてみるとアンコール・ボレイ(扶南の首都があったとされる)から出ている仏像に類似のものを見出した。これは私にとっては大発見であった。アンコール・ボレイからメコン川を67Kmほど下ると扶南の主要港のオケオ(Oc
Eo)である。オケオからはヴィシュヌ像も発見されている。
このことから想像を逞しくすると、真臘に追われた扶南の支配者が盤盤国(バンドン湾)に亡命したときに仏師を一緒に連れてきて、チャイヤーでこの石仏を製作させたのではないかという仮説が成立する。チャイヤーの石仏も6世紀半ばの作といわれ扶南王朝の亡命のタイミングと一致する。
上の私が撮影した写真からはよくわからないが仏像の表情も「クメール顔」なのである。唇は厚めで両端がやや上向きになっており、かすかな笑みを浮かべている(クメールの微笑)。黒くクスンではいるが屋内に保管されていたと見えて痛みもない。これはタイにとては大変貴重な仏像である。
671年暮れにこの地にたどりついた義浄も日常的に参拝した可能性ががる。そう思うと何とも厳粛な気分になる。この石仏は対国内でもなぜかあまり評価が高くないらしく、出版物にもほとんど紹介されていない。
わたしがみたのはハーバード大学で歴史学を学ばれた著名な歴史家であるピリヤ博士(Piriya Krairiksh)の”Art in Peninsular
Thailand prior to the 14th century AD"においてであった。何の飾りもない石仏ではあるが柔和な微笑をたたえたこの仏像はヨク見るとクメール仏の雰囲気を漂わせている名作である。これがバンコクの国立博物館に持っていかれないで済んだのはチャイヤーにとって幸運であった。まさに「国宝級」の石仏である。
Angkor Borei Museum ただし、現在は消息不明。 |
Angkor Borei Museum ただし、現在は消息不明。 |
ヴィシュヌ像はこちら
オケオのヴィシュヌ像6cハノイ国立博物館蔵