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ASEANの政治経済PARTII
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ASEANの政治経済PARTI(2005年まで)



12. 2006年初、ドル安進み東南アジアは異常株高でスタート(06年1月9日)

11. 米国の輸入では中国が 1人勝ち だが東南アジアも健闘(05年11月7日)

10. 2005年のASEAN経済の展望ー景気減速は昨年秋から始まっている(05年1月5日)

9. ラオスのASEANサミットで対中国警戒論出る(04年11月29日)

 

1.通貨・経済危機後のアジア経済(01年9月16日)

 1997年7月の通貨危機とその後の経済危機から東南アジアの経済は立ち直ったのであろうか?私は「内需」にかんしては本格回復は長期間望めないという見方をしてきた。

私は、今回の経済危機は固定相場制に起因する一過性の現象だとは考えていない。資本主義化がようやく本格的に始まりつつあった東南アジアがはじめて経験する本格的な「経済恐慌」であったという視点から 見ている。

19世紀にイギリスが初めて経験した恐慌(1825年)はほぼ10年サイクルで一巡するパターンを示した。今回の、東南アジア恐慌も放置しておけばそのようなサイクルをたどったかも知れない。

しかし、現実にはIMFが金融機関の強制整理をやらせたことによって国内の金融機関が機能を果たさなくなり、当初は「不動産」関係でとどまるべき不良債権が瞬く間に全産業に影響してしまい、いまや製造業向けの不良債権が不動産業のそれを遥かに上回ることになってしまた。

もちろん、国によって「恐慌」のていどは異なるがIMFの影響を直接受けたインドネシアとタイはダメッジが極めて大きかった。

マレーシアは国家資本(国営銀行など)が不良債権を抱えており、問題は必ずしも表面化していないが実態はかなり深刻である。

フィリピンは1990年ころのアキノ政権に対するクーデター事件が再三起こり、90年代の初めにゼロ成長が続いたため、結果的にバブルの膨張が小さかった。それがフィリピンには幸いしたが、やはり96年ごろまで建設バブルが膨らんでいたことは 間違いない。

どこの国も不動産投資とそれに関連する建設業や建設材料(鉄鋼、セメントなど)産業の過大投資が進んでいたのである。その主役は地元資本主に華人資本(マレーシアはブミプトラ資本)であった。華人資本はそのネット・ワークを使ってバブルを拡大させていったのであった。

(輸出が経済の徹底的崩壊を食い止めた)

バブル崩壊とIMFの失策による金融恐慌によって国内市場は大打撃を受けたが、それを救ったのは「輸出」であった。その輸出も長期間にわたるアメリカの好況に支えられたものであった。

その輸出を支えたのは85年9月の「プラザ合意」以降の急激な円高によて輸出基地を東南アジアに移した日系企業が主役であった。地元資本(華僑資本が主体)は輸出能力があったところも資金不足による原材料の輸入が思うに任せず、 当初あまり輸出できなかった。

外資が経済危機(通貨危機)の原因だとする説(タクシンほか)意外に根深いが、輸出企業にとっては、タイやマレーシアで建設するていどの設備はいくらやったところで実質的に「過剰投資」というようなものにはなりえない。なぜなら彼等の市場は世界全体にまたがっていて、国内の狭い市場とは異なるからである。

たとえば、12億人の市場があるなどという幻想にかられて中国に進出した日系企業の多くは、中国国内市場ではさまざまな制約条件(売掛金が回収できない、省をまたがっての商売が難しい、意外に購買力がない等など)があって結局日本に持ち帰っている(中国から見れば対日輸出)ケースが少なくない。

輸出が経済を下支えしているうちに、国内需要(消費や投資)が回復してくれば問題は自然に解消されるのであるが、そうはならないうちに、今回アメリカ経済がおかしくなり東南アジアにそれが直接響いてきているというのが現状である。

(やはり輸出はアメリカ次第であった)

つい最近まで「東アジア経済の自立(自律)循環論」なる議論が横行していたが、結局アメリカ向け輸出が減少しつつある今こそその議論の真価(偽者か本物か)が問われるであろう。

私は、この「東アジア経済の自立循環論」は1990年代の議論としては大いなる間違い(かなり遠い将来はいずれ実現するかもしれないが)であると主張してきたが、不幸にも実際その通りになってしまった。

要するに、東南アジアで生産されるエレクトロニクスなどの最終製品の輸出先はアメリカなど先進諸国なのである。域内貿易が増えたというのは「部品」の国別相互取引によるものであり、最終製品的「実需」ではなかったのである。

 

2.最近の動向と展望(2001年秋)

今現在(2001年9月)東南アジアで最も不況感が強いのはどこかといえば、私の印象ではシンガポールである。ついで、マレーシアが厳しく、タイやインドネシアも不況には違いないがその深刻さはさほどではない。フィリピンについてはこれから不況の深刻さが増してくるがいまのところは何とか浮上している ようである。

全ては、アメリカの今回のITバブル崩壊を基点とする不況の程度と期間(マグニチュード)次第だが、今それを読むのは難しい。2002年の後半からアメリカの景気は』回復し、それに伴ってアジアの経済も良くなるという説がなぜか蔓延しつつある。

私はそうなることを望むが、逆に1929年の世界恐慌とは比べ物にならないが「山高ければ谷深し」という日本古来の諺を 忘れてはならないと思う。

要する米国経済は「軟着陸」などという楽観的シナリオは描きにくいということである。特に、製造業を軽視してきたとがめが必ず出てくるはずである。幸い政府財政に余裕があるのが唯一の希望であろう。

9月11日に起こった同時多発テロ事件はさらに米国経済のみならず、米国への輸出を経済成長の維持の頼みの綱としていたアジア諸国にとってはさらなる不安要因として重くのしかかっている。しかし、ITバブルの崩壊やテロ事件のみが今回の米国の不況の原因だという見方をすると、ことの本質を見誤るであろう。

クリントン政権下で8年間も続いた米国の好況は基本的に「消費景気」が底流にあり、それにITブームが重なった一種のバブル経済であった。その全体構造が崩れつつあるとという見方を私はしたい。したがって、今回の不況は自然回復が簡単に起こるとは私は見ていない。

ニュー・エコノミー論は日本の経済学者にはなお支持者が多いようだが、年間4,000億ドルを超える貿易赤字を記録しても「平気な顔」をしていられる米国にしてはじめて成り立つ議論であり、日本は貿易黒字が少しでも減ると、たちどころに「製造業は競争力を失ってしまった」ので将来は暗いなどというエコノミストが幅を利かしている世界である。

日本で駄目になったのは銀行である。それもバブルがあったからだけではない。日本は高度成長以降、基本的に「金余り」経済で、実は銀行の「出番」は80年代の中頃から大分減ってきたのである。

今回「不良債権の処理」が万一めでたく終了したところで(額が多すぎてするはずも無いが)、次ぎに日本の銀行は何をやるのであろうか。昔のような「役回り」は最早回ってきそうも無い。中小企業に資金を回したいのなら、そういう機関に政府・日銀は資金を回せばよいだけのことである。

とすれば、国民に過大な痛みを強いる「不良債権」の処理などは本来慌ててやる意味があるのだろうか?それが「構造改革」だとすれば変な話である。

経営が苦しい銀行が可哀想だから「公的資金」と称する国民の汗の結晶を銀行に恵んでやるというのが目的ならば最初から政府もそう言えば良いのである。なんだか持って回ったような「芝居がかった」パフォーマンスの目立つ政治家が出てきたものである。

今回、アジアの不況を観察していて思うことは、たとえ3%ていどの成長であれプラス成長を達成している国はいずれも「個人消費」がかなり寄与している(韓国、タイ、インドネシア、フィリピン)。米国の景気の支えも個人消費であった。

勿論、米国も日本も不況が続けば輸出の停滞が続き、「個人消費」の原資が失われてしまうので長続きはしそうも無いが、翻って日本のことを考えると「失われた10年」あるいはそれ以上の長期にわたって「個人消費」対策は政策としてとられたことがあったであろうか?

小渕内閣の時に「金持ち減税」をやって、一握りの高額所得者は大いに恩恵を受けたが、それが景気対策になったとは到底思えない。何十万円の御節料理が年末飛ぶように売れたというのがそれかなとは思うが、問題は近年最高の失業者や借金苦にあえぐ一般国民である。

@シンガポール

私は先の議論で輸出産業には本質的に「過剰投資」はないと述べたが半導体やコンピューター部品などはIT関連製品ブームに乗って世界的に過剰投資となってしまった。いくら「世界市場を相手」といっても、明らかに行き過ぎ であった。

IT関連企業とその輸出比率が高いのが東南アジアではシンガポール、マレーシアおよびフィリピンである。東アジアでは台湾と韓国である。表1は米国商務省統計による国別輸入金額であるがそのような事情を反映している。

2001年の1‐10月実績を2000年平均値と比較すると、フィリピン、シンガポール、台湾、マレーシア、タイ、韓国の準に落ち込み幅が大きい。

私は最近(2001年7月)シンガポールを1年振りに訪れてその変貌振りに驚いた。日本の丸の内ともいうべきシェントン・ウエイがやたらに静かなのである。オーチャード・ロードの日系デパートは相変わらずの混雑であったが、買い物袋を下げている人はさほど多くない。(一旅行者のこのような観察以上に実態は深刻であった)

シンガポールの経済は明らかアメリカのIT不況の打撃を受けている。ただし、それだけではない。建設関係も極度に不振である。政府は財政的にゆとりがあるらしいので、公共住宅のアップ・グレード投資などやっていこうとしている。 しかし、国民の購買意欲は予想外に低く、新規の建設は見送られている。

(インドネシアとの関係は悪化)

シンガポールにとっては本質的にもっと困った問題が他にもある。それはインドネシアとの関係である。97年のインドネシアの通貨危機の際、インドネシア華僑資本が巨額の資本逃避(キャピタル・フライト)を行い、一説に よれば800億ドルの外貨が持ち出されたという。

もちろん全ての華僑資本ではなくスハルト・ファミリーに絡んだクロー・ニー(サリム一族など)などが主体であり、インドネシアに根を下ろして地道にやっている華人はシンガポールに一旦は逃亡してもすぐに戻っていった。

インドネシア経済の再建に当たり、ワヒド前大統領は、はじめはシンガポールに逃亡した華僑資本に戻ってきて欲しいと考えていた。そのために手を尽くしたといっても過言ではない。しかし、それは幻想だと後で気がついた。

先ず、シンガポールに逃亡した資金は多かれ少なかれ不正な手段(汚職、ゴマカシなど)で手に入れたものであった。また、インドネシアの会社を借金漬けにし、外貨のみを懐に入れシンガポール(香港や米国にもあるが)に持ち出したケースが非常に多かったのである。

彼等は、その資金でルピア投機(ルピア売り−ドル買い)すら行っていた。 そのためルピアは異常ともいえる過小評価になっている(2002年2月はじめ1ドル=10,400ルピアであるが、実際は7,000ルピア程度であってもおかしくない)。

彼等がインドネシアにもどって以前のように事業を再開しようとすれば、先ず借金の返済を迫られることは自明である。従って、彼等は戻るに戻れないのである。

また、インドネシア国民にとっても、インドネシアを経済的混乱と貧困に追いこんだのはスハルト一族とクローニー華僑であるという思いが強いであろう。

このような華僑資本家はシンガポールにいる彼等のパートナーと組んで、密輸(関税のごまかしを含む)などの不正なビジネスを行っていた(る)ものが少なくない。

しかし、経済危機以降、インドネシアとシンガポールの華僑資本間の「取引」が減ってしまったことは明らかである。それに代って台頭してきているのが他の外国企業(日系など)である。

このような事情が明らかになってきた時からインドネシアとシンガポールの関係は急速に冷え込んだと見るべきであろう。ワヒドは政権末期にはシンガポールの政府要人に対しあからさまな嫌悪感すら表明していた。

シンガポール政府はインドネシアに対し、約束した経済援助をやらなかったとか、リー・クワンユーがマレー系民族を侮るような発言をしたというような理由も挙げられるかも知れないが、本当の理由は上に挙げたようなことであろう。

そうなると、シンガポールはインドネシアとの取引で過去のような「美味い汁」は吸えなくなってくるであろう。

一方、シンガポールのリー・クワンユーは最近「宿敵」マレーシアのマハティール首相と急速にヨリを戻しつつある。これはインドネシアとの間ががうまく行かなくなった反映かもしれない。しかし、インドネシアとまともな取引を行ってきた企業にとっては今後とも何の問題もないであろう。

それ以外に人件費がこの地域で最も高いこと、事務所の費用も高いことなどから、すでに製造業は極めて仕事がやりにくくなってきている。IT化が進むとシンガポールからクアラルンプールやバンコクに事務所を移す会社も増えつつある。

2001年は大幅なマイナス成長(−2.2%)になった。これはシンガポール 独立(1965年8月9日)以来最低の成長率である。2002年は−2〜+2%というのが政府の見通しである。米国経済の急回復がなければマイナス成長を続けるものと見られる。最近の見通し改正で+1〜3%に修正。

政府は急遽緊急財政支援策(名目113億シンガポール・ドル=実質約65億Sドル)を決定した(10月12日)。そのうち35億Sドルは公共事業追加である。その他は消費者への税金還元などである。

これとは別に「新シンガポール株式」(New Singapore Shares)なるものが最近国民の福祉対策として発表された。これは額面1Sドルの株券をシンガポール国民に対して11月1日に27億Sドル発売し、3分配当を政府が保証し、後はGDPの成長率分を上乗せ配当するというものである。

これは一種の高利回り「国債」ともいうべきものであろう。ただし、高齢者と国家公務員に対してはいくらか無償で(ボーナスとして)支給される。(シンガポール・ビジネス・タイムズ2001年10月13日号)

失業率は昨年末で4.7%と15年ぶりの高水準に達した。シンガポールは人口300万人台の狭い都市国家である。あまりに都市化、ハイテク化が進みすぎて国民の間にユトリがなくなってきており、「逃げ場」が少ない。

不況・失業ということになると「生活の中で息をつける場所」が一般庶民にあまり残されていないのでる。不況の一般国民に与える打撃は周辺諸国より深刻である。

またIT不況が終わってもシンガポールにかってのような繁栄が戻ってくる保証はない。 最近、シンガポールから撤退する企業は急増している。

Aマレーシア;

マレーシアもシンガポール同様IT関連産業の輸出が多かった。かなりの打撃を受けつつあるが、通信用の電機機器(テレビ、ラジカセなど)などの輸出も多く、シンガポールよりはややマシであるが打撃は大きいことは間違いない。

マレーシアは98年9月から1米ドル=3.8リンギに為替を固定し、今まで比較的順調にやってきた。しかし、最近になって政治経済上のあまりに多くの問題が表面化しつつある(この問題については後日詳論する)。

経済問題に限って言えば、人件費が割高であり、電機関係の労働集約的製品(あるいは部品)はタイやインドネシアやヴェトナムに移らざるを得ないところに差しかかっている。人件費の安い外国人労働者を使いしのいできたがインドネシアの投資環境が整備されると工場の移転が急増するであろう。

2001年は恐らくゼロ成長に近い姿になるであろう。マハティール首相は通年では何とかプラス成長になると主張している。3Qの実質成長率は前年同期比−1.3%(1Q=3.1%、2Q=0.5%)であり、1〜3Q通算で0.7%の成長になっている。

4Qの数字いかんでは2001年合計でプラスになりうるが、名目GDPでみると1Q=1.3%、2Q=−2.4%、3Q=−4.4%と急激に落ち込んでいる。今のところ4Qは3Qより悪化するとみられており、名目値では−3%ていどにはなるであろう。名目値と実績値の逆転乖離(普通は名目値の成長率が実質成長率よりも高い)をどう説明するのであろうか?

10月の工業生産は前年比−9%、1〜10月累計では‐3.5%、製造業のみでは−8.8%(前年比)である。

10月の輸出は288億リンギ(75.8億ドル)と前年同月比−12.7%、1〜10月では2,799億リンギ(736.6億ドル)と前年比−9.8%となっている。

2002年の成長率についてはマハティール首相は3%を予想している。一部の取り巻きエコノミストは前半は73億リンギの財政テコ入れが利いてくるし、後半は米国の景気回復が期待できるので3〜4%は行けそうだとしている。そういう前提なら確かにそうなるであろう。このての予測はたいして意味があるとは思えない。

急増する不良債権)

RENONGやMAS(航空会社)などのブミプトラ系大企業の経営状況の極端な悪化が最近表面化してきているが、2001年9月の銀行の不良債権比率が17.9%にも達している。国際的格付け会社のFinchはやがて不良債権比率は20%を超すとみている。

また、国営試算管理会社であるDanahartaの管理下で不良債権処理を進めているものを入れるとマレーシアの不良債権の総額は約855億リンギ(約2兆7225億円)、GDPの23.4%に達すると見られている。(2001年11月15日、シンガポールのBusiness Time)

だいたい不良債権比率が15%を超えるとその銀行は機能不全に陥るといわれているが、まさにその水準をマレーシアの銀行は平均的に超えてしまっているようである。別に今に始まったことではな いが、90年代に入ってからUMNOの幹部とそのクローニーがかかわるブミプトラ企業(官製マレー資本)の経営には問題があるところが目立ってきた。(例、鉄鋼会社ペルワジャ他)

その原因は経営能力の欠如と放漫経営に求められたる。1997年の通貨・経済危機の折、当時副首相兼財務相であったイブラヒム・アヌワール(現在は獄中にある)はそれら不良ブミプトラ企業のウミをある程度出そうとしたがマ ハティール首相の 認めるところとならず、全てが「救済」された。そのシワは主に国営金融機関などが背負わされている。しかし、やがて問題が表面化するのは明らかである。

Bタイ;

タイは輸出品目のバラエティが多いので、IT不況の直撃はさほどないはずであるが、世界同時不況になるとやはりどうにもならない。2001年はGDPは速報ベースで+1.5%、輸出は −7%であったが民間消費が+2.7%であったため何とかプラス成長を維持できた。

2002年は米国の景気回復を前提とすれば2〜3%の成長を見込めるとしている。公共投資を前倒しに発注して景気崩落を避けたいとしている。(大きく落ち込んだ後にテコ入れしても遅い)ただし、公的債務はGDP比60〜65%に達しており、これ以上の大幅な財政出動は困難になりつつある。

バンコク銀行(民間最大の調査機関を持つ)の見通しでは、せいぜい2%成長がよいところだという。

タクシン首相が反外資的な政策をとらなければ今回の不況は比較的うまく乗り切る可能性が強い。

トヨタ自動車は1トン・ピックアップ車(小型トラック)の生産をタイに集中(日本での生産をやめて)しようという動きにある(既に三菱自工はタイ集中生産を実施している)。このような動きが具体化するとタイには展望が開けてくる。

タクシンは一時期、高金利政策で民間消費を拡大し「景気浮揚」を狙っていたが、米国の金利引下げの動きを受けて急遽逆に金利を下げる方向転換を行った。朝令暮改これまたタイらしくて良い。

そのタクシン政権は今度は「テレコム事業」への外資の出資比率を25%に制限するという、およそ時代遅れとしか言いようのない「法案」を下院で可決してしまった。

民主党は反対したが276対76の大差であった。ただし、既存の合弁会社に対しては規制が及ばないということには一応なっているようである。外資の持ち株の上限はその後49%にまで引き上げられた。

テレコム事業はいわば「タクシン家の事業」である。このような露骨なことを平気でやるのがタクシンのやり方である。 タクシンは自分のビジネスと国家のあるべき政策とを混同しているという見方がされている。

C インドネシア

インドネシアは表1.に見られるように対米向けは微減にとどまった。これは同国の工業化の遅れの「賜物」(?)である。インドネシアに本格的な外資系電機メーカー、コンピューター部品メーカーの進出が始まったのは93、94年頃からである。それまでに進出していた電機メーカーは 数は少なくないが、どちらかというと「国内市場向け」の企業進出であった。

輸出をインドネシアからやるには、同国の「ハイ・コスト」体質が障害になっていたのである。人件費は中国並み(現在は中国の半分ていど)であったが、汚職体質がひどく、かつ外資に対する規制が強かったからである。タイ並みに規制が緩和されたのは94年になってからであった。

しかし、現在は95年前後に設立された比較的新しい外資系エレクトロニクス工場が生産を急増させ輸出と雇用に大いに貢献している。石油などは価格が落ちてきて全体的には苦しいながらも経済は意外に活況を呈している。

シンガポールに資本逃避した華僑・人資本が戻らなければインドネシアの経済発展は望めないという説がまことしやかに語られてきたが、シンガポールに逃げる必要のあまり無かった「まともな」華人企業はかなり良くやっている。

加えて、日本、韓国などのエレクトロニクス・メーカーが輸出に貢献し出した現在、スハルト時代の大物クローニー資本家はいなくとも、新しいインドネシア経済の担い手は着実に育ってきている。(真面目な華人資本と外資系企業)

日本ではサリムなどの古いクローニー華人資本家がいなくなって「空洞化」がすすむ恐れがあるなどというまことしやかな議論が依然横行している(日経2002年2月4日付け、佐藤百合氏談話)。

もともとクローニー資本は国内の独占的ビジネス(製粉事業など)で巨富をなしていたのであり、輸出市場ではさほど活躍はしていなかった。悪徳大資本家がいなくなった(なりつつある)ことでインドネシア経済には将来に明るい展望が開けてきたというのが私の見方である。

インドネシア政府に望まれることは、伝統的な「ナショナリズム」にしばらくの間、蓋をして外資にきてもらって工業化の水準を上げてもらい、雇用も増やしてもらうのが得策ではないか?経済の「水漏れ」が無くなるだけでも、インドネシアはかなり「イイ線」行けるはずである。

メガワティ大統領も訪日の際、「投資環境を整備」するから是非日系企業に投資をしてもらいたいと強調していた。事実、労働集約的な電機・コンピューター部品メーカーは相当インドネシアに移住していく可能性が強い。

現在のインドネシアは失業者が非常に多く、ジャカルタの治安はお世辞にも良いとはいえない。しかし、政治家、官僚もスハルト時代とは明らかに違う頑張りを示してきており、インドネシアは目に見えて良くなっていくであろう。

債権国会議の事務局を勤める世銀の幹部は発足100日余のメガワティ政権を評して「改革の遅れ」を論難しているが、自らのスハルト政権に対する32年間のテコ入れの「成果」がいかなる物であったかをまず率直に反省すべきであろう。

投資環境が悪いという一般的な評価に反して投資実績(後に述べる承認額よりも実施ベースが重要)が比較的多いのは、過去が悪すぎた反動もあるであろうが、その労賃の安さが評価されている可能性も有る。

ただし、外国資本の投資認可額は2001年は90.2億ドルと前年同期比−41.5%であった。過去の実績は1998年=136億ドル、1999年=109.8億ドル、2000年=154.2億ドルであった。1997年は実に4,339億ドルであったが、その実行率は通貨危機の年であったことを考えると極めて低かったはずである。

国内投資(BKPM=投資調整委員会が承認したもののみ)は58.67兆ルピア(約56億ドル)であり、前年の92.41兆ルピアと比べると−36.5%であった。やはり、ワヒド政権の崩壊をめぐる政治危機が影響したのかもしれない。

今年はメガワティ政権が安定すれば不況下ながら投資は増加すると見られ、ホンダは早くも新しい自動車組み立て工場(年産4万台)の投資計画を発表している。

JETROの調査(2000年12月末)によればジャカルタ地域のワーカーの月額賃金は30〜214ドルであり、最低部分は中国の約2分の1という低さである。(大連=51〜149、深セン=70〜135)

2002年年頭に発表された政府の2001年のGDP成長率は3.5%(実績見込)であった。インフレ率は12.5%とこの地域では最も高かった。成長に寄与したのは国内消費と国内企業の投資であった。

2002年の政府予測はまだ発表されていないが、インドネシア銀行は3.5〜4%の成長を予測している。他のエコノミストは現状および短期の見通しについては悲観的見方が多い。

(フィリピンとの関係強化)

フィリピンのアロヨ大統領が11月12、13日にジャカルタを訪問し、メガワティ大統領と会談した両国の経済関係を強化することで一致した。具体的に天然ガス、石炭、肥料などをインドネシアが好意的に供与し、フィリピンは医薬品やIT関係の技術供与などを取り決め、投資に関しても両国の相互協力を約束した。

「経済的弱者同志の取り決めにはさほど意味は無い」と一蹴されるかも知れないがASEAN内部の両国の関係緊密化には注意を要する。

日本がシンガポールと自由貿易協定を締結するとのニュースに当時のワヒド大統領は激怒し、オーストラリアなどとの「南太平洋FTA」構想を急遽打ち上げたが、今回このような形の動きが出てきたとみても良いであろう。

それより先にタイのタクシン首相は中国ータイーシンガポールの「チャイニーズ枢軸」構想めいたものを具体化させようと躍起になっていた(る)が、それに対する反発もマレーシアやインドネシアやフィリピンから出てくることは予想される。

日本とシンガポールの自由貿易協定も周辺諸国からはかなり「冷たい目」で見られている。そもそもASEAN内部でシンガポールは何かにつけ「リーダー面」するという反感が根強く存在するのである。それと、シンガポールには農産品がないから日本と手を組めるという見方がされている。

同時多発テロ事件以降、世界で最大のイスラク教徒を持つ国としてインドネシアは世界の注目を集めている。メガワティ大統領は「テロには反対だが、アメリカの報復爆撃にはしばらく静観」という基本的スタンスを取ってきた。

しかし、世界のイスラク諸国がアメリカのタリバンに対する軍事攻撃に反対の動きが拡大しつつあり、マレーシアのマハティール首相もついに反対の声明を出すにいたり、また議会勢力も軍事行動批判を強めておりメガワティ大統領としても「旗幟を鮮明に」(軍事行動反対)せざるを得なくなってきている。

マカッサルではインドネシア・イスラム大学の学生数百人が「日本政府は米国のアフガン侵攻支持を撤回せよ」というスローガンを掲げて日本総領事館にデモをかけ「国旗を引き摺り下ろし、建物の一部を破壊した」と伝えられている。(ジャカルタ・ポスト  2001年10月12日)

Dフィリピン

フィリピンは今のところ何とか水面上に顔を出している状態である。輸出は不振であるが国内消費と農業生産の好調が経済を支えているというのが政府筋の説明である。消費の好調は海外の出稼ぎ労働者からの送金によって支えられている (しかし、それは急速に減少しつつある)。

しかし、8月の輸出は26.21億ドルと前年同月(35.29億ドル)比25.7%の激しい落ち込みとなった。同国の場合対米輸出が全体の約30%を占め、エレクトロニクス関連(半導体、パソコン部品などを含む)が全輸出の60%という偏った形になっており、今後とも当分悪い状態が続くであろう。

2001年トータルでは輸出の落ち込みは17%ていどが見込まれる。

2001年の経済成長は3.4%であったと政府は 発表した。農業の4.01%、サービス部門の4.2%が製造業の1.6%という低成長(輸出減による)をカバーしたという発表である。

筆者はフィリピンの輸出の落ちが大きいため3%台の成長は無理とみていたが内需でカバーされたという政府の説明である。

2002年については4〜4.5%の成長を政府の社会経済計画相兼国民経済発展庁長官のダンテ・カンラスは述べている。(2002年1月19日、The Manila Bulletin)

フィリピンは海外出稼ぎ労働者からの送金も急減しており、輸出も激減しているという事実をみれば、あたかも「無風状態」であるかの政府発表の数字にどうも釈然としないものが残る。

不況が着実に進行している証拠に銀行の不良債権がこのところ急増しており、7月末には17.7%(2784億ペソ=約6470億円)と6月末に比べ4.2%ポイントも増加している。

不況を反映して消費者物価も9月は前年同月比6.1%と8月の6.3%に比べ低下している。

ただし、株式市場はこのところ異常な活況をしめしている。外国からの投資によるものであるが理由はよくわからない。近い将来ピリピン経済がよくなる根拠は見当たらない。

E 台湾(2001年11月17日新規掲載、12月9日追加)

台湾経済はシンガポール同様、目下大変な不況に苦しんでいる。その大きな要因は二つある。一つは90年代に入ってから中国大陸に労働集約的産業を大幅に移転した結果、産業の「空洞化」が進んだためである。その二はIT不況による輸出不振である。

IT不況の内容としては得意とするパソコンの輸出減である。しかし、それ以上に無視できないのは半導体不況である。台湾は従来、民間企業の堅実経営が経済を支える基盤となっており、韓国と異なり、大規模設備投資を要する巨大輸出産業はあまり手がけてこなかったが半導体産業は別であった。

周辺から「安い部品を集めてきて世界一安いパソコンを組み立てて輸出する」という堅実な行き方だけには満足できなくなったとしか考えられない。ITバブルの傷は半導体産業の打撃も加わって一層の重傷となった。今後の台湾経済の回復は極めて困難なものになるであろう。

一方、中国は台湾からの中小企業の大量移転に加え、日本、韓国、欧米からの投資が加わり、世界的な大輸出国になった。政治的にも台湾は中国に対し、かなりの劣勢に陥った。

WTOに加盟を果たした中国は世界市場において「市民権」を獲得し、「アジアの成長センター」などと呼ばれ得意満面である。中国経済の実態は極めて問題含みであるが、表面的には中国は独り勝ちの感がある。しかし、中国経済のひずみは着実に進行している。

昨年の台湾のGDP成長率は−1.98%であった。これは26年来の大きなマイナスである。台湾経済研究所(政府系シンクタンク)の見通しでは今年は+2.38%とされている。昨年末にパソコンや半導体の輸出がやや回復したことに明るさを見ている。

失業率は2000年12月3.3%から急上昇し、2001年10月には過去最高の5.33%に達した後、12月末には5.22%とやや好転している。

11月の輸出はさらに急減し、102億ドルと前年同月比−19.7%も落込んだ(1〜11月累計では−17.3%)。輸入は79億ドルと実に−33.5%の激減である。

12月1日に総選挙が行われ、与党の民進党が225議席中87議席(前65議席)を獲得し、第1党になった。国民党は110議席から68議席へと大きく後退した。民進党としては他の政党との連立を模索しているが、はかばかしく進んではいない。ただし、中国への急接近を図った国民党にたいしては選挙民の拒否反応が明確に現れた。

台湾政府は 中国への投資基準の緩和などの自由化を進めているが、基本的に中国共産党との関係はギクシャクしたままである。経済関係の緊密化は進んでいるが、それが台湾経済の空洞化につながるとう現実的な問題は 解決の道が見当たらない(日本の方が経済の懐が深いだけまだマシである)。

台湾の資本家の論理(中国に投資し、低賃金労働を使って輸出をする)と一般大衆の利害(失業増加)の対立は深まりつつある。中国で働く台湾人も賃金格差から徐々に現地(中国)で職を中国人に奪われつつあるという。中国は「7%も成長して景気が良い」とのことだが、香港も 台湾同様に高失業率に苦しんでいる。

香港と台湾と共通した問題(製造業を中国に奪われる)があるが、その解決策は見当たらない。現実には、経済の論理にしたがって「台湾人の大量失業=賃金切り下げ=生活水準の切り下げ」が進んでいくであろう。

台湾資本家もどこかで自らブレーキをかけなければ台湾を出て行くことになるであろう。そうなっても構わないという資本家もかなり出てくるに違いないが、根無し草になった台湾資本家は中国において将来どういう処遇を受けることになるのであろうか?

金利水準は2.25%まで引き下げているが、総合的な景気対策は12月1日の総選挙が終わったばかりであり、与党民進党の多数派工作が成立するまではしばらく手が打てない状態である。

F韓国(2001年12月9日掲載、2002年2月17日、5月30日加筆)

韓国経済は実績GDPの成長率が1Q=3.7%、2Q=2.7%、3Q=1.8%と次第に低下してきているが2001年通年では2.8%、2002年は3.9%になると韓国銀行は見ている。2002年の後半から米国の景気も回復するという見通しにたっている。このところ半導体価格が少し値戻しをしたことが強気材料なのであろう。

台湾と同様に、輸出も減っているはずなのに僅かとはいえ依然プラス成長を続けている理由が率直に言って良く判らない。韓国銀行の説明では建設需要と個人消費が旺盛であるとのことである。

部門別では製造業=‐1.6%、農林水産=‐0.4%であるが、電気・ガス・水道=4.1%、建設=7.3%、サービス=3.8%。

支出項目でみると個人消費=3.4%、建設投資=8.3%、機械設備投資=‐15.4%、輸出=‐4.3%、輸入=‐8.0%。

韓国も台湾同様「空洞化」現象も見られ、輸出も激減しているのになお3%近い成長を続けている理由が「内需要因」(建設、個人消費)であるとするならば、そのよってきたるところが何なのかもう少し調べてみる必要がある。

最新のBusiness Week(12月17日号、P20) や識者からの情報を総合すると、金融機関の再編・構造改革と資本注入(1150億ドル)によって銀行の貸し出し余力が増加し、金利も大幅に低下した。そのため中産階級 の自家保有意欲があ高まり、また賃貸住宅の建設が活発化している。住宅建設に対する規制が緩和されたことも影響しているとのことである。

また、中産階級以上の人達は金利が下がったことによって、資金を高級消費財(自動車、輸入品など)に回し始めたことによる。 平均10%の所得税減税も利いている(平均所帯で年間30万ウオン=約3万円)。

韓国の政府筋は早くも「不況脱出」宣言を出しているが根拠はいまいちはっきりしない。韓国政府の強気見通しは毎度のことで97年の通貨危機の直前までそうだった。しかし、今回は少し雰囲気が違う点もある。

たとえば、韓国は確かに今のところ住宅建設ブームではあるが、個人に対する銀行貸付の異常な膨張に対する警戒が出ている。金融監視機構=FSS(Financial Supervisory Service)は住宅融資に対する貸付限度額を引き下げるように指導していく方針を打ち出した(Korea Herald 2月17日)。

銀行も個人向け融資をまかなうために相次いで社債を発行するなど確かに異常な雰囲気である。

しかし、輸出の落込みにより投資や生産活動は低下しつつある。金利低下の要因だけでいつまでこの「好調」が支えられるか疑問である。これは一種のバブル的「花見酒の経済」ではないのだろうか?

(5月30日加筆)

5月30日のコりア・ヘラルドの記事によると、2001年のGDPは実質成長率は3%であったが2002年の1Qは5.7%の成長となり、2002年では5%はいくであろうと国民統計局ではみている。シティ・バンクはもっと強気で6.5%は堅いとみている。工業生産は2001年は1.8%(2000年は16.8%)の低い伸びにとどまった。

ともかく、国内も輸出も好調で、韓国経済は全面的な回復局面にあるらしい。4月の工業生産は対前年同月比で7.3%も増加した。これは3月の4.4%をさらに上回る伸びである。輸出は13.2%伸びた(3月5.7%)。向上の稼働率は77.6%で2000年8月の80.3%に近づきつつある。

半導体、自動車、テレコム機器、機械設備が特に好調であるという。4月の自動車生産は内外需ともに好調で前年比16.7%も増加した。テレコム機器も好調で携帯電話、ファクシミリなどの増産により、14.7%のプラスとなった。機械設備は14%、半導体は10%とそれぞれ伸びた。

一方、石油化学・石油精製は12.3%のマイナスとなり、造船および航空機部品は7.3%、繊維は3.7%それぞれマイナスになったという。

国内要因をみると、卸売りと小売を合わせて4月は7.7%増(3月は8.3%増)と好調そのものである。特にすごいのが自動車の受注で29.8%増、建設受注は31.3%増(3月147.1%増、2月144.1%増、1月142.3%増)だというのだから、ただただ恐れ入るほかない。

しかし、不思議なことに株式市場はまったく無反応で5月29日はマイナス1.6%の835.19ポイントと下げた。理由は経済指標が期待以下だったためであるという。

「不思議な現象だ」などといっていてはプロのエコノミストとしては失格だが、今後の韓国経済を見ていくうえで注目すべきはやはり、@アメリカ経済の回復動向、A企業業績(無理な輸出や国内販売をしていないか)、B政府の景気刺激策(自動車の減税は8月まで)の動向、C金利水準(住宅、個人消費のバブル的増加への警戒)などであろう。

(参考)1997年通貨危機後の韓国の金融機関対策と個人消費ローンの拡大

IMFから580億ドルの融資を受け、同時にIMFの厳しい融資条件(コンディショナリティ)を受け入れ、韓国経済は大混乱に陥った。韓国政府は直ちにKamco(Korea Asset Management Co=韓国資産管理公社)を設置し、額面価格810億ドルの不良債権を310億ドルで買い取った。

また、韓国政府は1,200億ドルの政府資金を金融機関に投入し、8行の銀行を買い取り合併を強行した。その結果、金融機関の不良債権比率は16.4%から3.4%に軽減され、銀行は一挙に身軽になった(その分政府の負担は増えた)。

銀行は、その後個人消費ローンに重点を移し、現在この分野で3,000億ドルの融資残高に達している。これが、現在の個人消費バブルの資金的源泉になっている。(6月8日加筆)

 

3. 2002年8月の状況(02年8月18日)

アジア経済にとって頼みの綱の米国経済がすこぶる変調である。ITバブルの崩壊は2001年の初め頃から急に目立ち始めたが、最近は企業業績にインチキが蔓延していたという話である。アメリカ人は1997年のアジアの経済危機のときに何をいっていたか?

グローバル・スタンダードをもっと尊重しろとかアメリカ経済やアメリカの経営方式を見習えとかコーポレート・ガバナンスがお前達はまるでなってないとかさんざいっていたではないか?

それが最近では米国では証券取引委員会に各社の経営責任者は会社経理が正しいことを誓約させるという事態に立ち至った。これはインドネシアの話ではなく「エクセレント・カンパニー」が軒を連ねる米国の話である。 インチキ経理がこれほど米国に蔓延していたとは・・・。

やはりアメリカは「強盗男爵(Robber Baron)」の国だったのである。自社の従業員の首切りを遠慮会釈なくやって、自分は億円単位の高給を食み、あまつさえ「ストック・オプション」なる制度を導入して、株価を吊り上げ大もうけをしていたのである。

株価吊り上げのために見せかけの利益を計上し、売上を水増しし、会社は株主のものだなどとうそぶいていたのである。401Kなどで自社株を買い「老後の安心」を夢見ていた従業員こそいい面の皮である。アメリカはやはり病んでいたのである。

ブッシュ大統領は最近テキサス州のWacoのBaylor大学に仲間うちを集めての経済フォーラムで虚空の一点をにらみながら「アメリカ経済は大丈夫だ」といって大見得を切ったそうだが、本当によろしくお願いしたいものである。

タクシンもマハティールもリー・シェン・ロンも自分の国の「将来展望は明るい」などと口をそろえていっているが皆さん頑張って欲しいものだ。

極東の某経済大国の首相もそうだが経済のことを知らない政治リーダーが余りに多すぎる。アメリカの安っぽい経済学の教科書を見ながら政策を考えているような インチキ経済通や学者に取り囲まれていてはどうにもならない。

景気浮揚については米国依存が強すぎ、どこの国も要するに決め手がないのだ。日本だけは個人消費を中心に景気を浮上させる余地が残っている。公共投資は資金効率が悪すぎる。減税をやるが「企業減税を優先」などと的外れなことを依然考えているようだ。 企業減税などイボリ先生には悪いが何の効き目もない。

これでは利益を上げている企業にしか減税のメリットは生じない。問題は不況からいかに脱出するかである。日本の場合は国民を威嚇するような政治をやめることが先決である。 弱者に手厚い政策を明確にすることが何より必要である。その上でやるべきことはいろいろある。

閑話休題、本論に戻ると要するにアジア経済はここ1、2年はどうにもならない。中国が7%成長などといっているが内容的には米国向け輸出を独りでかっさらっているだけである。中国はやたらに失業者が多く、国営銀行の不良債権は50%にも達しているなど内実は多事多難である。

中国の輸出が好調なわけは日本、台湾、韓国からの進出企業が自国やASEANからの輸出を犠牲にして中国からの輸出に集中しているからである。新しく投資をした工場をまず動かす必要があるからである。

中国自身の企業も輸出を増やしており、エレクトロニクス製品の輸出が急増しているが、実はそれだけではたいしたことはない。ただし、ロー・エンド(安物)の輸出品は中国が大いにやっている。

東南アジアから中国への輸出が増えているなどといって「タイコを叩いている」メディアや学者もいるが、その中身は中国が完成品を輸出するための「部品」供給が主体である。

韓国も2002年の上期は好況であったが、これは住宅、自動車などの内需中心の「ミニ・バブル」ともいうべきものであった。 個人向けクレジット・カードの乱発も消費バブルを煽った。数年前はせいぜい10%ていどだった買い物時のカードの使用比率が、いまや50%を超えているという。

輸出は不振であった。ただし、中国には繊維や鉄鋼などの中間材料はでていた。

他の国々も内需中心の成長をやれるような条件はない。公共投資を盛大にやれるような財政的な余力がないのである。ただし、個人消費を中心としたささやかな(3%以下)の成長は今年は可能であるかも知れないが2003年にはそれとて息切れしそうである。

米国の景気しだいということになるが、米国はさらに経済不振が悪化する可能性が高い。ブッシュ政権は乾坤一擲イラク侵略戦争を開始するかも知れない。どうも血を見るのがお好きな方のようで恐ろしい。「イラク戦争をやるかどうかは俺が決断する」などといきまいておられる。

こんなすごいことを平気でいう大統領が出てくるアメリカというのは恐ろしい国だ。国連の行動や国際世論を尊重して、武力による国家主権の侵害はやめて欲しいものだ。

米国の2002年の上期の輸入状況をみると表2.の通りである。米国全体ではやはり不況を反映して前年同期比マイナス5.1%となっているが、中国のみはプラス15.4%と大きく伸びている。マレーシアも+4.1%であったが他は軒並みマイナスであった。

日本は-11.0%、シンガポールは-12.0%、台湾は-10.3%と大きく落ち込んだ。フィリピン、インドネシア、香港もマイナス10%に近いが韓国-4.6%、タイ-5.1%はほぼ平均波の落ち込みであった。

一見、中国の独り勝ちのようにみえるが、内実は日本、台湾の現地法人が相当中国からの輸出を伸ばしたものであり、中国が日本に追いつくなどというトンチンカンなコメントをする必要はない。

なお、中国は2002年5月から米国の輸入相手国として日本を追い抜き3位に浮上した。1位はカナダ、2位はメキシコ、3位は中国、4位は日本ということになった。

これをもって「日本の凋落振りが著しく、日本はアンシャン・レジーム(旧体制)から脱却しないと大変だ」などという議論はまったくおかしい。日本企業は中国から輸出する量が増えたのである。

(03年2月21日追加)

表1.米国の国別輸入(アジア主要国)実績(単位:100万ドル、%)

        日本  中国      台湾  韓国    SIN    MLY    THI      PHI      Indon     HK   米国全体

2000年    146,577 100,063  40,514 40,300 19,186  25,564  16,389  13,937  10,386 11,452   1,218,022

2001年    126,602 102,260  33,391 35,185 14,979  22,336  14,729  11,331  10,105    9,650   1,140,999

2002年    121,494  125,168   32,199   35,575  14,793   24,010   14,799   10,983     9,644    9,328   1,163,621

'01/00(%)  ‐13.6     +2.2  ‐17.6   ‐12.7    ‐21.9    ‐12.6    ‐10.1   ‐18.7     -2.7     -15.7     -6.3

'02/01       -3.9      +22.4     -3.5     +1.1       -1.4       +7.5       +0.5     -3.0       -4.6      -3.3     +2.0

資料出所=http://www.census.gov/foreign-trade

 

米国の中国からの輸入品目を2002年の1−7月を年率に換算し、2001年の輸入額と比較してみると

表2. 米国の中国からの主要輸入品の動向(SITC2桁分類、単位:100万ドル、%)

                      2001年  ’02・1-7年率   伸び率

SITC60製造業品(原料別)      11,920       13,567     13.8%

SITC70機械・輸送機械         36,537    42,175     15.4

SITC75事務用機器(含CPU)     11,134        13,932           25.1

SITC76通信・音響機器                   10,454       11,784          12.7

SITC77電機・家電                9,605          9,273          -3.5

SITC80その他工業品         55,066    55,863     1.4

SITC84衣類                9,725          8,589        -11.7

SITC85履物               10,284        10,636            3.4

SITC89雑製品(玩具など)       21,449        20,366         -5.1

合計                   109,392       117,951          7.8

上の表で見るとおり、中国の対米輸出は衣類や雑貨といった伝統的輸出品はむしろ低調で、コンピューター関連製品通信・音響機器(ラジカセ、テレビなど)の比較的ハイテク型製品が伸びている。これらの製品の多くは日本や台湾などの外資系企業の製品が多いのではないかと考えれれる。

その分、これらの「組立て製品」を従来輸出していたマレーシアやタイなどの輸出がへり、それらの国々は中国への「部品輸出」が多くなってきた。それは「中国への依存度が増した」というより、中国に「組立て製品の輸出が奪われた」と見るべきであろう。

中国ブランドのテレビや冷蔵庫なども著しい躍進を遂げているが、いまの段階では日本などの有名ブランドには一歩遅れをとっているのではないかと考えられるが、その点の検証はしていない。

 

4. 2003年のアジア経済(03年1月12日)

今年の東南アジアの経済は昨年より悪くなるものと考えられる。というのはアメリカの景気回復がはかばかしいものではないからである。昨年はアメリカは住宅投資ブームが続き、失業者が増えた割りには消費の落ち込みが少なかった。2001年のITバブルの崩壊から多少の回復も見られた。

しかし、今年は違う。アメリカの失業者は増え続けている。企業業績もいまいちパッとしない。昨年末のクリスマス・セールは不振であった。株価は現在ニューヨーク・ダウで8,700ドル近辺にあるが、上向きの圧力は感じられない。株式配当を無税にするというようなブッシュ一流の金持ち優先減税で現在の水準がいじされているとしか思えない。

昨年はアジアから米国への輸出は中国が主役で、マレーシア、フィリピン、タイなどは中国に半導体やコンピューター部品の輸出増加でやや潤った。しかし、中国にも半導体の製造設備が着々と整備されつつあり、東南アジアからのエレクトロニクス部品の輸出はこれから着実に減ってくる。

そのかわり、中国からの電機製品やモーター・バイクのダンピング輸出により、東南アジアのメーカーはきりきり舞いさせられるであろう。その現象はインドネシアでは昨年からはっきり出ている。ASEANと中国のFTA(自由貿易圏)構想などは次第に熱が冷めていくことになるであろう。

タイのタクシン首相とシンガポールのゴーチョクトン首相は1月11日からプーケット島で善後策を協議している。彼らが考えている「華人枢軸」構想を強く打ち出せばインドネシア、マレーシア、フィリピンの反発は必至である。

実際のところASEAN内部の関係はかなりギクシャクしたものになりつつある。そのおおもとはタクシンの過剰なまでの「華人意識」である。こういう問題はすぐに周辺の人間(特にマレー系)には敏感に感じとられてしまう。

インドネシアにおいてもラクサマナ・スカルディがこのところ急に国内で叩かれ始めたのも「華人」問題と関係がある。まず、インドサットという国営海外電話会社の株をシンガポールに売ったことや、中国重視発言や、サリム・グループ(スハルトの最大の華人クローニー)の復権許容発言などである。ラクサマナ自身はジャワの生まれであり、彼の父親はスカルノと親しい新聞 記者であったが華人系の血筋である。

インドネシア人の反華人意識は強烈なものがあり、スハルトと悪徳華人に国の富を食い尽くされたという思いはかなり根強い。ラクサマナはタウフィク(メガワティの夫)が華人クローニーと親しいこともあって、インドネシアの悪徳華人 に免罪符を与えることに同意しているが、国民の反発は強い。

タウフィクはもともと金の臭いに対する嗅覚がするどい人物であるが、ラクサマナは次代のインドネシアの政界を背負って立つべき逸材である。最近のラクサマナへの個人攻撃の激しさはただ事ではない雰囲気である。

輸出が日米欧いずれもダメ、中国向けも頭打ちということになれば、内需に頼るしかないが政府も金がない以上これにも大きな期待はできない。となるとせいぜい3〜4%の成長を達成できれば御の字ということになろう。(この項続く)

 

5. バリのASEANサミット(03年10月11日)

バリ島におけるASEANサミットは各国首脳と日本、中国、韓国の首脳が参加して華々しくおこなわれ、マレーシアのマハティール首相にとって最後の出席となり、メガワティ大統領がASEAN議長として涙ながらに送辞をのべるなどのおまけも付いた。

中国はASEANと「中国・ASEAN平和と繁栄のための戦略的パートナーシップ宣言」に署名した。これはタいとシンガポールの「華人枢軸」のお膳立てが功を奏したという見方もできよう。(10月8日)

貿易面では2005年までに双方の年間貿易1,000億ドルを達成し、2010年までに自由貿易地域協定を確立することが織り込まれた。

中国は2005年までに、「早期の収穫」をASEAN諸国にもたらすために、前倒しで、農産物などの関税引き下げを実施するという気前のいいところをみせた。

これは、先に中国とタイで結ばれた農産物貿易協定と同じ発想である。中国は農産品についてはほぼ全面的に輸入依存になりつつあるので、どうころんでも「痛くも痒くもない」といったところである。

日本はとうていそんな芸当はできない。多くの農産品をがんじがらめの保護関税でハリネズミのごとく武装しているのが日本の姿である。鳴り物入りではじめたメキシコとのFTA交渉も、「豚肉の関税でトン座」しているなど シャレにもならない。(03年10月16日に交渉は決裂した)

ジェトロのいいぶんでは、メキシコとFTAを結んでいないために4,000億円の注文がとれなかったはずではなかったのか。確かにブタを飼っている農民の手をかりなければ自民党政権は維持できないということなのであろう。

また、インドもASEANに接近してきた。「ASEAN・インド包括的経済協力に関する枠組み合意」というものを締結した。これはFTAを結ぶということではなく、貿易と投資促進のためのルール作りから入っていこうという穏健なものである。

その上で、FTA交渉も考えていこうということのようである。もともと、古代から東南アジアはインドと中国の東西貿易の中継基地であったことを思えば歴史的にも自然な流れであろう。

ASEANとしては、中国のみを強調する危険を察してインドとも貿易・投資協定を結ぼうということだとの解説もされているが、それは中国ータイーシンガポールの華人枢軸にたいする煙幕に過ぎない。

今回のバリ・サミットで目立ったのがタイとシンガポールの突出した動きである。「タイとシンガポールがタンゴを踊ってみせるから、他の国もフロアに出て踊れ」などと露骨なアピールを両国は臆面もなくしていた。

こうした派手な動きに幻惑されるのは、日本のメディア関係者の悪い癖であるが、結局誰もフロアに降りてタンゴを踊りだすものはいなかった。要するに両国がハシャゲばハシャグほど他のメンバー国は白けるのである。

もともとシンガポールはASEANのなかで浮いた存在であったが、今回はタクシンのタイがそれに一枚加わっただけである。

ASEANの地域統合どころの話しではない。ASEAN内部の結束が水面下で揺らいできているのである。

 

6. 2004年のアジア経済の展望(04年1月2日)

昨年のアジア経済はややマシであった。その最大の要因は中国経済のバブル拡大による需要増である。アメリカもイラク戦争による一時的な好況が見られ、輸入を拡大してくれた。

今年はどうかということだが、アジア経済にとっては、基本的には中国のバブルがいつまで続くかが最大のポイントである。2008年の北京オリンピックまでもつであろうか?それは気の遠くなうような話である。

中国の昨年の8.5%成長は、輸出の好調と国内需要によるものである。輸出については米国向けが極めて好調であり、おかげでASEAN  諸国のみならず、NAFTA 体制下にあるメキシコまでもが大打撃を受けていた。

しかし、中国の輸出は米国だけにとどまらず、EUなどにも大きく伸びていることに注目したい。しかし、米国の経済は回復過程にあるといわれながら、雇用は伸びず、したがって今後個人消費が伸び悩むことが予想される。 昨年末のクリスマス商戦も不調であった。

中国の内需は個人消費と民間投資および政府投資とが昨年は極めて好調であり、不動産バブルが形成されていた。個人消費は「好況心理」を反映した過剰消費の側面が強い。

中国では過去にもこういう動きがあった。群衆心理的な消費拡大現象である。今は、携帯電話と自動車ブームである。また、不動産投機も起こっている。

また、中国人の食生活の向上は世界の穀物市場にも好影響をもたらしている。タイからの果物類の輸出も増えているという。インド経済の好調も世界の食料需給を好転させる(慢性的過剰から不足気味へ)であろう。

問題は、中国政府による投資である。具体的には地方への道路網の拡張などである。これはかなり財政負担を増加させているものと思われる。 その行き過ぎが鉄鋼生産の実力以上の増産となって現れている。

中国の鉄鋼生産は2003年では2億トンを超えているが、国際的な製鉄所は宝山製鉄所のみといって過言ではなく、せいぜい2,000万トンどまりである。

残りはすべてといっていいほど旧式製鉄所であり、最近では小型高炉が林立しているが、それらはいずれ「負の遺産」として将来の中国経済に重くのしかかるであろう。

中国経済の高度成長は次の3点でこれからの世界経済に大きなインパクトを与えるであろう。

@輸出の集中豪雨的急増は世界的に失業を増加させる原因となりつつある。特に、先進国と中進国とが打撃を受ける。

A中国の自動車生産の拡大や電力などのエネルギー消費の拡大が世界的なセネルギー市場(特に石油)に大きな影響を及ぼし、原油価格の高止まり(30ドル/バーレル以上)となるであろう。

B中国人の食生活の向上は穀物価格の上昇の原因となる。特に肉類の消費増は家畜用飼料(とうもろこし、小麦など)の需給関係を圧迫する。

東南アジア諸国は対米輸出を中国に食われながらも、中国への部品輸出やバブルに支えられて、一時的に中国向け輸出が急増している。しかし、これはいずれ終息に向かうことは間違いない。すでにその兆候は昨年11月ころから現れてきている。

タイ;民間消費が好調で昨年は6%成長を遂げたなどといってタクシン首相は浮かれているが、輸出という後ろ盾があって雇用が安定し、民間消費も好調だったわけで今年もそれが続く保証はまったく無い。

クレジット・カードによる過剰消費もあり、これは韓国に見るごとくいずれ問題を起こす。タイの株式市場は大ブームを迎えているが、これはこれは外国投資家の思惑買いに国内の投資家が悪乗りしただけで、いずれパニック的暴落が起こるであろう。

インドネシア;4%前後の成長で推移するであろう。この程度の成長率では失業問題は解決されない。 インドネシアは石油価格の上昇傾向が経済に好影響を及ぼす。スハルト時代と違い原油価格の上昇はほぼストレートに国庫を潤す。

シンガポール;経済はやはり、中国向け輸出に左右されるが、国内の建設がひどすぎる。インドネシア華僑が不動産を買わなくなったことが尾を引いている。3%程度の成長がやっとであろう。

マレーシア;良くも悪くも無い状態が続くであろう。 産油国として石油価格の上昇のメリットは享受できるが、マハティール時代の「負の遺産」も少ずつ表面化してくる。やはり、4%程度の成長にとどまるであろう。

フィリピン;経済上昇のきっかけがつかめない。 輸出も03年11月から落ち始めた。エストラダは特にひどかったがアロヨも明らかに力不足であった。今年の大統領選挙でまた映画俳優が勝ったりしたら大変なことになる。

年間70億ドルにものぼる海外出稼ぎ労働者の仕送りが国民経済の支えのごとき観を呈している。

世界のIT産業がどうなるかもアジア経済に与える影響が大きいことはいうまでもない。今のところは楽観論が支配的である。多分、価格が著しく下がったパソコンはもっと売れるであろう。液晶パネルのテレビなどの新製品ももっと売れることは間違いない。

これらの商品とその関連産業が世界全体でどの程度の成長を遂げるかが今年の経済を占う鍵であることは間違いない。しかし、アメリカがアフガンとイランの泥沼から足が抜けないと米国経済自身がおかしくなる。

半導体チップは2004年は18%伸びるという説もある(WSJ、04年1月1日号)ようだが、昨年末の動きを単純に延長した数字が根拠になっているようであり、あまり当てにはできない。

しかし、米国の03年11月の「工場受注」は商務省の発表によれば−1.4%(前月比)下がっている。これはコンピューター関連の需要の落ち込みによるものであるという。

もう少し推移を見ないとわからないが、2001年不況のようなマイナス成長にはならないであろう。

要するに全体的に2003年並みの成長が維持できるかどうかといったところである。中国のバブルの進行から目を離せない。

 

7. アジア株の大暴落とその要因(04年5月17日、18日)

5月17日はアジア株式市場にとって記念すべき(?)日となった。それはインドのボンベイ株式市場が先週末に比べ564.71ルピー下げ、4505.16ルピーにまで暴落したことである。実に11.1%もたった1日で下がったことになる。

その主な理由は、ここ数年年間インド経済を「開放体制」にして、自由化と民営化を推し進め、経済発展に大きく貢献してきたと見られていたバジアパイ首相の率いる国民民主同盟が、野党の国民会議派に選挙でまさかの敗北を喫したためであるといわれる。

確かに、バンガロールのようなIT産業の発展にうまく乗れた都市やその住民には良かったかも知れないが、国民の大多数を占める貧しい農民にとっては、一部の大都会の繁栄はかえって反感の種であったのかもしれない。

インド内外の投資家・資本化たちにとっては国民会議派の復活は「改革の後退」につながるとして、失望の余り株を売ったというとかも知れない。

しかし、要因は選挙結果にだけあるとも思えない。他のアジア諸国もここ1ヶ月ほど株式市場は下がり続けているのである。

実はアジア諸国の株式市場の下落は4月から始まっていたのである。最近特に目立ったのが4月末に中国政府が、国内景気の加熱傾向に水を差す動きが出てきたことに影響されている面が強い。

それだけここ数年のアジア景気は中国の高度成長に支えられてきた側面が強い。中国がくしゃみをすればアジアが風を引くといったような現象すら起こっている。

輸出の動向を見ても各国とも、米国向けよりも中国向けのほうが伸び率が高いという傾向が現れている。それには2つの要因がある。

1つは、中国が米国への輸出を急増させ、アジア諸国は中国への部品供給国になってしまったことである。中国は周辺諸国から部品を輸入し、それを組み立てて世界に輸出するという「国際分業」体制が一時的に生じていることである。

タイを例にとって見ると、タイの対米輸出は2001年から毎年僅かではあるがマイナスになっている。一方中国向け輸出の伸び率は2000年で60.5%、01年には12.3%、02年には85.6%、03年には54.6%という激しい増加率である。

ただし、輸出シェアで見ると2003年には対米向け17.0%、対日向け14.2%、対中向け7.1%である。ただし、香港向けが5.4%あるのでこれを対中向けに合算すると12.5%となる。

2つ目は中国の内需が急増している点である。外国企業の投資に触発されて、国内で大建設ブームが起こっていることと、中国政府が地方経済活性化のために公共投資をかなりやってきたことが建設需要を大いに高めている。

さらに、雇用が増加したことを契機に一大消費ブームが起こっていることである。それは自動車の爆発的な売れ行き増加となって現れている。もちろん携帯電話や家電製品も大ブームである。

現在の中国経済について言えば4月末以降の中国首脳の「バブルを抑制するために金融引き締めなどの必要な措置を採る」という発言に外国の投資家が過大に反応しすぎている面は否定できない。

確かに鋼材価格は値下がりしている。とはいえそれは鉄筋棒鋼に限られた現象であることに注目する必要がある。中国政府は地方の公共投資を既に抑制し始めているようである。そのために建設用資材の代表とも言うべき棒鋼(線材ではない)価格は下がり始めた。

しかし、自動車や家電の材料である薄板類は何の影響も受けていない。棒鋼価格が下がったから鉄鋼ブームは終わったなどというのは無知の産物である。一部の不勉強な新聞記者や証券アナリストは別の場所で過去にさんざ同様なミスを繰り返してきた。

ところで最近のアジア株の動きをみてみると下表のようになっている。

表 7−1 アジア諸国の株価指数の推移

   タイ インドネシア マレーシア シンガポール  フィリピン  韓国 台湾 香港 日本
4月4,5日頃  709.9 771.5 889.6 1890.2 1516.8 906.2  6683  12887  12080
4月27日 681.0 818.2 868.3 1853.6 1596.9 915.5 6647 12155 12045
4月28日 672.3 817.9 861.6 1847.8 1610.3 901.8 6575 12165 12004
5月13日 611.2 739.1 803.1 1778.6 1526.5 790.1 5918 11357 10825
5月14日 600.7 722.7 794.0 1755.0 1521.6 768.5 5777 11277 10850
5月17日 581.6 668.5 781.1 1700.3 1487.0 729.0 5483 10968 10525
5.17/4.27 -14.6 -18.3 -10.0 -8.3 -6.9 -20.4 -17.5 -9.8 -12.6
5.17/5.14 -3.2 -7.5 -1.6 -3.1 -2.3 -5.1 -5.1 -2.7 -3.0

 

上の表をみてまず気がつくことは確かに中国貿易の拡大によって景気を支えて来た国々は4月27日以降の株価の下落幅が非常に大きいということである。韓国、台湾、タイ、日本、マレーシアなどである。

インドネシアも-18.3%と大きいが、これは政権交代(メガワティ落選のの可能性)を予測して、ルピア売りと株価下落が重なった要因がかなり大きいのではないかと思われる。

タイの下落幅が大きいのは最近の南タイのイスラム教徒とのトラブルをタクシン政権が不必要に拡大した政治的要因が含まれている。タイの景気そのものは決して悪くはない。

全体的にアメリカの投資家が手を引き始めたという要因が中国問題と重なっていることは間違いない。米国でも景気回復が明らかになったといわれながら、イラク情勢の混迷(ブッシュ政権の失敗)が投資家の自信を失わせている。

石油価格の上昇もその一部に含まれるであろうことは確かである。

単に景気上昇による金利引き上げ懸念からこのように株価が大幅に下げ続けるというのは以上である。投資家の心理をゆるがせる不安状態の産物である。このような状態が長続きするとは思えない。

アジアの実体経済は今のところさほど悪くはなっていない。中国も公共投資の引き締めと過剰投資抑制のために金融引き締めに入ったことは、ある意味ではバブルの過剰な膨らみを抑えた措置であり、逆に比較的高い成長(7〜8%)を維持できる可能性が開けたとも見ることができる。

中国は「市場に全てを委ねる」などという最近日本で流行しているような馬鹿げた経済政策は採るはずもない。しかし、民間需要の暴発をいかに抑えるかが今後の課題である。

 

8. ASEANの自由貿易体制は3年前倒し(04年8月24日)

ASEANは2020年を目標にEU並みの域内自由貿易体制(AEC=ASEAN Economic Community)を構築し、2010年までにAFTA(ASEAN Free Trade Area)を完成させる計画で進んできた。

先ごろバンコクで開かれていた実務者協議で8月23日にとりあえずASEAN先行6カ国(インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、ブルネイ)の間では2010年の本格関税引き下げを3年間前倒しし、2007年から実施する方針を確認した。

それは自動車部品、エレクトロニクス製品、繊維、衣類、魚類、木材、農産品、ゴム製品など数千項目の関税をゼロにするというものである。

ベトナム、ビルマ(ミヤンマー)、カンボジア、ラオスンの後発グループも2015年からの目標を2012年からに前倒しする。

しかし、いつものことながら各国の個別事情があり非関税障壁や国内物品税んの取り扱いなどで、必要なものには必要な対策を講じることは明らかであり、また「制限項目=センシティブ・イッシュー」は当然存在する。

実体はどうなるかは蓋を開けてみないと判らないが、相互間ではお互いにやる気が出てきたような印象は受ける。一歩前進であることは間違いのないところであろう。

少なくともASEAN−中国のFTAよりはうまくいくであろう。

 

9. ラオスのASEANサミットで対中国警戒論出る(04年11月29日)

ラオスのビエンチャンで開催されたASEANサミットは恒例により、ASEAN10カ国だけの会議に加え、プラス・スリーすなわち日本、中国、韓国が加わる拡大会議とのいわば2本立てで行われた。

また、今回初めてオーストラリアとニュージーランドも貿易協定締結目的で招待された。特に、オーストラリアのハワード首相はASEANとの「非軍事協定=不可侵協定」に調印を拒否し、ASEAN諸国の反発を買った。

オーストラリアが不可侵条約を拒否した理由は、ハワード首相は「先制攻撃」主義の信奉者だからである。すなわち、「テロの危険があれば、いつでも先制攻撃をかける」という、ブッシュがイラクに侵攻した考えを共有しているのである。

アメリカのブッシュ大統領が加わっていたら、「テロ・テロ」の連呼でまともな会議にならなかったであろうが、こちらのほうは比較的静かに終わりつつある。

ASEAN10カ国会議は域内貿易協定を前倒しで進めようという意識がいっそう強まったようである。 まず、ASEANとしてのマトマリを強化することが先決だという考え方である。

これには自動車問題(国民車プロトンの保護)にこだわり続け、ASEAN内部で立場が悪かったマレーシアのバダウィ首相がついに自由化やむなしという腹を決めた ことも影響しているようである。

まだ、最終的にはっきりしないがバダウィ首相の域内自由化への積極発言が目立つところをみると、ある程度は自国の利害を犠牲にしても域内の結束を強化すべきであると言う意見が 大勢を占めたようである。

その理由は何かというと、中国とインドに対する警戒感が急速に高まってきたためである。それはインドネシアとマレーシアに特に強い。タイとシンガポールは「華人枢軸」的な雰囲気が強くて、中国と手を結ぶのが先決であるということでASEANをリードしてきた。

ここにきて、なぜ雰囲気が違ってきたかというと、今回はASEANは中国と包括的な自由貿易協定を結び、各論のつめ の段階に入りつつあるが、このままいくととんでもないことになるということに遅ればせながら彼らは気がついたのである。

それは、やたらに現地の華人資本家がはしゃぎ始めたことにもよるが、中国製のオートバイやテレビをはじめとしてあらゆる電気製品がとてつもない安値で流れ込み始めたからである。

特に、インドネシアは密輸天国であり、主にシンガポール経由で現地の華人資本家がそれらのものを大量に持ち込み、市場を席巻し始めたのである。そうなると日本や韓国の家電メーカーは馬鹿馬鹿しくてインドネシアに投資などできなくなる。

中国だけでなくインドに対する警戒感も出てきている。そうなると、いくらタイとシンガポールが頑張っても、これまでのようにムード先行型で話が進まなくなる。

また、タイのタクシン首相の発言力もガタ落ちになってしまった。その理由はASEANサミットの直前になって「南タイのイスラム教徒虐殺事件が会議で話題になったらワシは席を立って帰ってくる」と公言してしまったのである。

これを聞いて、インドネシアやマレーシアがどう感じたかは言うまでもない。ただただ、唖然といったところであろう。

しかも、タクシンは事態の収拾が困難になったと見るや、外国勢力に支援された分離独立派(タイのイスラム教徒)が今回の事件の首謀者であるなどという世論作りをタイ国内で始めた。

そうなると、穏やかでないのはマレーシアである。マレーシアとしては同じ種族で同じイスラム教徒が 「家畜以下の扱いを受けて」タイ国軍兵士に大量に虐殺されたという意識がある。

しかも、タイ政府からは陰でマレーシア(政府とはいていない)がタイ領内イスラム教徒を操っているとわれてはたまったものではない。

今回の一連の事件とタクシンの言動によってASEAN内部の雰囲気は一挙におかしくなった。あえて求心力を求めるとするならば、経済的な地域協力を推進し、中国やインド(今現在はたいした脅威になっていないが)に対抗していくことしかない。

安全保障問題などといってもタイとシンガポールが相互に空軍基地を貸しあう協定を結んでしまった。これは明らかにマレーシアに対する敵対行動であると解釈されても仕方がない。

タイやシンガポールも潮流が変わったことを認めないわけにはいかない。ふたりのタンゴは終わったもである。すなわち、親中国路線をこれ以上強引に推進できなくなってしまった。

そこで、やはり頼りになるのは日本だということになる。各国に積極的に投資をして、80年代末からの「工業化」を推進してくれたのは日本である。その上意外におとなしい。

その日本はどういうスタンスでるかというと、WTOやAPECに背を向けて、シコシコと自分の目先の関心事であるタイやフィリピンとの2国間貿易締結に夢中になっている。ブッシュですらWTO中心に切り替えなければならないと最近は発言しているという時代にである。

おまけに、大日本帝国時代の「大東亜共栄圏」の幻影にノスタルジャーなど感じているようなのでいっそう始末が悪い。右翼的思想にとらわれた政治家が首相だの外相だの産業経済相だのやっているものだからどうしようもない。

東アジア経済圏をつくろうなどと大学の偉い先生方も声援を送るものだから、もうどうにもとまらないという雰囲気になっている。おまけに新聞が提灯持ちをして、お囃子を入れている。まさに大政翼賛体制の デキアガリである。こんなことで本当に良いんですか?

余談だが、日本の新聞はこういう世界貿易秩序問題やアジア問題になるときわめて非力でデクノボーみたいな記事ばかり書いているように私には見える。

世界貿易のネット・ワークにがっちり組み込まれているアジア諸国がここで第3のブロックを作ったら、世界市場が分裂の方向に向かうことは自明であろう。

ASEANのような途上国がいくら集まって何をしようが問題にはならないが、日本や中国や韓国といった1本立ちをしている国々も加わって経済ブロックうを作れば欧米の反発は必至である。特にEUとの関係は相当悪化する。

しかし、よくよく考えると肝心のASEAN諸国が「小泉構想」などについてこない。これで一安心である。ASEANは対等なお付き合いは希望するが他国の支配下には入りたくない。大きな顔もされたくない。

マレーシアのバダウィ首相が、第1回の「東アジア・サミット」はぜひクアラ・ルンプールでなどと調子のいいことを言っている。日本の政治家や役人や御用学者や大新聞はそれ行けとばかり調子に乗るであろう。

しかし、マレーシアでさえも日本政府の「東アジア共同体構想」の底流に大東亜戦争時代のイデオロギーが息を潜めて横たわっているのを知ったら仰天するに相違ない。

中国が入るから、安心(日本の暴走は抑えられる)だというのは間違いである。中国は中国でアジアの覇権を目指している。実力のあるなしにかかわらず「覇権主義」的思想が随所に見え隠れする。スパトレー諸島にまで領有権を主張していることをみても明らかである。

なぜ中国が東南アジアの盟主にならなければ気がすまないのか?私には理解できないがそこは大国意識であろう。こんなものを作ると日本と中国は東南アジアをめぐって政治的な喧嘩になるに決まっている。争いの種は作らないほうが良い。

それよりもWTOに結集(とりあえずはAPECでも良い)して世界全体の貿易秩序を安定的なものにしていくことが、超経済大国日本の勤めである。残念なのはそれにふさわしい政治家も役人も日本にはいないようだ。まさに「役者不足」である。

ASEANはASEANとして世界に認知され、自立して生きていけるようになったのである。日本がASEANを取り込む必要性は日本の国民経済上もないし、中国とて同じである。

日中に共通してあるのはイヤラシイ大国意識であろう。そんなものはASEAN諸国にとっては迷惑至極である。

 

10. 2005年のASEAN経済の展望ー景気減速は昨年秋から始まっている(05年1月5日)

2004年のASEAN経済は5-6%の成長を達成した。比較的好況のうちに推移した1年であったといえよう。しかし、04年10月ぐらいから各国とも景気にかげりが出てきた。それは 主に輸出の伸び率の鈍化によるものである。

2005年は東南アジア諸国は前年よりも平均1%くらい低く4-5%というところに収斂するであろう。台湾も4%(04年は6%弱)くらいになるであろう。韓国は3%前後に落ち込む可能性がある。

昨年末のスマトラ沖地震とインド洋津波の経済的影響は吸う地面では比較的少ないであろう。ただし、タイは観光業がGDPに占める比率が6%程度と比較的高く、プーケット周辺が壊滅した影響は小さくはない。

(中国要因)

特に、中国向け輸出の鈍化が秋頃から徐々に始まっている。05年は中国経済は減速することは間違いない。04年は9.2%程度の成長を遂げたが、既にイロイロなところで矛盾が露呈し始めている。

中国経済は輸出、内需ともに好調で高度成長が支えられているのであるが、輸出についてはそろそろ頭打ちに近づいている。主な市場である米国も今まで以上のペースで中国製品を買うことは難しい。

米国経済自体、イラク戦争によって財政赤字が拡大し、それが膨大な貿易赤字に直結している。このままではドルに対する信任が薄れ、アジア諸国でも手持ち外貨をユーロや円に切り替える動きが進んでいる。

ということは、ブッシュ大統領の「強いドル」という願望とは裏腹に、ドルの流通範囲が次第に狭まる傾向にあることを意味している。既に、EU はユーロという共通通貨をもった。世界にものづくりの中心であるアジアがドルから離れたらドルの行き場所がなくなってしまう。

米国にとってはアジアが頼りなのである。アル・カイダの影響下にあると称するジェマー・イスラミアというテロリスト集団がいるから米国は東南アジアに軍隊を置いておかなければならないなどというのは口実でアジアでの軍事的影響力を維持、拡大したいというのが米国の 狙いである。

中国の内需は個人消費と設備投資と不動産投資である。中国でも自動車の販売は自動車ローンの拡大によって図られてきた。それがいまや頓挫しかかっているといのは本ホーム・ページの「中国編」で見たとおりである。

自動車販売は今までのような伸びは期待できない。家電関係も既に飽和状態ある。住宅はまだまだ絶対的なレベルが低いから伸びる余地はかなりあるが問題は個人の資金 が少ないことである。そうは行っても、中レベル以下の住宅はあるていど伸びそうであう。

しかし、ハイ・レベルの住宅は「投機目的」で売れているに過ぎず、いずれ反動がくることは間違いがない。1990年代後半の東南アジアの通貨危機前夜とよく似ている。

通貨危機の直前まで、高級住宅はよく売れるので心配ないなどと言われていたが、砂上の楼閣に過ぎなかった。

設備投資はどうかというと、外国資本の設備投資は質の面からはあまり問題がない。一応、輸出を念頭に置いた投資が多いので、世界レベルの機械設備が輸入され、設置されている。

問題は中国企業が独自で行う設備投資である。特に問題となっているのは鉄鋼業の投資である。世界のトップ水準から見ると大幅に遅れた小型の旧式設備を大量に設置している。

高炉(溶鉱炉)の規模ひとつをとっても日本では1基あたり、内容積5,000立方メートルが標準だが、中国ではせいぜい2,000立方メートルであり、大多数が500立方メートル以下である。これは高炉というより「低炉」である。

中国経済がブームのうちはこういう設備でも「作れば売れる」が、いったんバブルがはじけた暁にはひどいことになるのは自明である。こんな設備で作った製品がまともに輸出できるわけもない。せいぜい鉄筋棒鋼を周辺諸国にダンピング輸出する以外に手はない。

一般消費財は、過去の消費レベルが低かった分、まだまだ成長の余地はある。服飾品や化粧品やレストラン業界も好調が続くであろう。しかし、バブルがはじければ賃金水準も上がらなくなり、個人消費も低迷する。

政府関連の公共投資は内陸部と沿海部との格差縮小のためにもぜひ続けなければなるまい。特に交通網(鉄道、道路)も充実は引き続く行われるであろう。問題は政府がどの程度まで資金を投入できるかである。

(中国企業の採算悪化ー不良債権の増加ー株価の低迷)

中国経済の大きな問題点は「不良債権」である。これはやみ雲に資金を借り入れ、設備投資したツケが今回ってきているのである。要するに資金繰りのために「赤字販売」を続けている企業が非常に多いのである。

電器メーカーの「長虹」の米国の代理店であるAPEXが500億円近いコゲ付きを出したという例でもわかるとおり、数量確保のための無理な「赤字販売」がゴク普通になっているのである。

赤字がたまれば、不良債権として銀行がかぶらざるを得ない。したがって、中国の国営銀行は見えざる不良債権が時々刻々増加していると見るべきであろう。

中国人はそれを知っているから株式など買おうとしないのである。高度成長期には通常株式市場は活性化し、株価も上昇すべきなのだが、中国の株式市場は最近一貫して下げ続けている。

これはタイの通貨危機直前の様子とよく似ている。タイの場合は株価のピークは1993年であり,それから通貨危機が起こる1997年7月まで、株式市場は一貫して下げ続けたのである。まったく同じ現象が中国にも起こっている。

それでは何時中国のバブルははじけるのか?それは私には判らないが着実に経済は下降線をたどり始めたということだけははっきりしている。2005年の中国経済の成長率は8%暗いだろうといわれているが、実態はもっと悪いであろう。

中国は政府が8%と一言いえば、地方からは8%前後の数字があがってくるので、必ず8%が「達成」される仕組みになっている。要するに経済指標は「経済の実態」とは 必ずしも関係なしに決定されるというのが今までの中国経済である。

(石油要因)

2004年後半に東南アジア経済にマクロ経済の数字以上に実質的、心理的に大きな影響を与えたものは、石油価格の異常な高騰である。1バーレル55ドルというような価格水準になってしまった。

これが各国の成長率にどのような影響を与えたかは、必ずしも明らかではないが、石油の輸入国が多いこの地域の国々は一応はたいした混乱もなく乗り切ったというもいのの、みえざる影響を受けた。

石油価格は沈静化に向かっているので、05年はその点はあまり心配ないであろうが、どのレベルで落ち着くかがこれまた大問題である。OPECの首脳が言うように30ドル水準で安定する かどうか疑念の残るところである。

悪くすると40ドル近辺で安定してしまうかもしれない。そうなると、マレーシアを除いて多くの国々が少なからぬ打撃を受けることは間違いない。インドネシアでも大幅な燃料油の上昇が予想される(一部品種については政府は値上げを決定している)。

 

11. 米国の輸入では中国が 1人勝ち だが東南アジアも健闘(05年11月7日)

米国が自国の生産以上に消費をしてくれている(GDPの5〜5.5%)おかげで、アジア諸国は何とか経済が回転しているというのが現状である。なかでも中国が米国向け輸出(米国から見れば輸入)で大幅な伸びを示している。

下の表(11-1)は米国の輸入相手国別の対前年伸び率を示すものである。これを見ると、2001年には米国がいわゆる「ITバブルの崩壊」で大きく輸入を減らした年である。2001年、2002年は各国とも多かれ少なかれ不況に苦しんだことは記憶に新しい。

その2001年に米国の輸入が前年比マーナス6.3%であったときにも中国はわずかではあるがプラス2%である。その後は中国の対米輸出の快進撃が続いており、周辺諸国は中国向け輸出で何とか一息ついた。

その後、2004年にはべ米国が輸入を16.9%も増加したおかげで、各国とも「中国向けプラス米国向け」輸出増加でこれまた大いに潤った年であった。とりわけ韓国は米国向けが24.0%も伸び、中国の29.0%に次ぐ勢いであった。

日本も4年ぶりに対米輸出が10%も伸びた。台湾も9.6%伸びた。ASEAN4カ国ではフィリピン以外は対米輸出が好調であった。

しかし、2005年に入ってから、やや景色が変わってきた。05年1〜8月の米国の貿易統計を前年の同じ時期に比較して見ると、中国は依然好調で25.8%の伸びを示しているが、NIEs諸国は対米輸出に急ブレーキがかかってしまったのである。

韓国は前年比-1.8%、台湾は+1.4%、シンガポールはもともと製造業の輸出競争力が落ちてきていたが、-3.8%である。

ところが、フィリピンを除くASEAN3国は伸び率は中国に比べ大分低いが、マレーシアは+19.1%、タイは+14.7%、インドネシアは+8.5%とかなり健闘している。

05年の1〜8月の実績だけであまり大胆な所見は述べられないが、05年に入り、韓国と台湾は米国向け輸出を中国に「奪われてしまった」とみることがいえるのではないか。

もしくは米国に進出している韓国や台湾の「企業」が本国をさておいて中国から直接に米国に輸出する部分が急増しているのではないかと思われる。

東南アジアは1次産品はもとから強いが、工業品についてはある程度中国と競争できているのではないかと推測される。さもないと、「ASEAN+中国の自由貿易体制」などという一見調子の良いうたい文句に踊らされている間に「東南アジアは 実質的に中国の経済的植民地」になってしまうおそれがある。(中国の2005年上期の貿易参照)

 

表11-1.米国の主要国別輸入の対前年伸び率(%)

00/99

01/00

02/01

03/02

04/03

05/04

Japan

12.0

-13.7

-4.0

-2.8

10.0

7.5

China

22.3

2.2

22.4

21.8

29.0

25.8

Taiwan

15.1

-17.6

-3.7

-1.7

9.6

1.4

S.Korea

29.3

-12.7

1.1

4.7

24.0

-1.8

H.Kong

8.8

-15.8

-3.3

-5.1

5.2

-10.0

Singapore

5.5

-21.8

-1.3

2.3

1.5

-3.8

NIEs4

17.2

-16.4

-1.5

1.1

13.6

-1.7

Malaysia

19.3

-12.6

7.5

6.0

10.8

19.1

Thailand

14.4

-10.1

0.4

2.6

15.8

14.7

Indonesia

9.0

-2.7

-4.6

-1.3

13.6

8.5

Philippine

12.8

-18.7

-3.1

-8.4

-9.2

-2.3

ASEAN4

15.0

-11.7

1.6

1.3

9.2

13.1

E.Asia Ttl

16.1

-10.3

4.6

6.4

17.5

13.3

Canada

15.3

-5.6

-3.3

6.0

15.7

8.9

Mexico

23.9

-3.4

2.5

2.6

12.9

8.4

NAFTA

18.4

-4.8

-1.1

4.6

14.6

8.7

Impots Ttl

18.9

-6.3

1.8

8.2

16.9

13.5

資料出所;米国対外貿易統計から筆者が作成

 

表11-2.米国輸入の主要国別シェア(%)

1990

1995

2000

2004

04/1-8

05/1-8

Japan

18.11

16.61

12.03

8.83

8.97

8.50

China

3.08

6.13

8.22

13.38

12.82

14.21

Taiwan

4.58

3.90

3.33

2.36

2.38

2.13

S.Korea

3.73

3.25

3.31

3.14

3.12

2.70

H.Kong

1.94

1.38

0.94

0.63

0.62

0.49

Singapore

1.98

2.50

1.58

1.05

1.08

0.91

NIEs4

12.23

11.03

9.15

7.18

7.20

6.24

Malaysia

1.06

2.35

2.10

1.92

1.90

1.99

Thailand

1.07

1.53

1.35

1.20

1.18

1.19

Indonesia

0.67

1.00

0.85

0.74

0.76

0.73

Philippine

0.68

0.94

1.14

0.62

0.64

0.56

ASEAN4

3.49

5.82

5.44

4.47

4.48

4.47

E.Asia Ttl

36.90

39.59

34.84

33.86

33.48

33.41

Canada

18.45

19.42

18.82

17.44

17.79

17.07

Mexico

6.09

8.30

11.16

10.61

10.71

10.23

NAFTA

24.54

27.72

29.98

28.05

28.50

27.30

輸入合計

100

100

100

100

100

100

 

 

12. 2006年初、ドル安進み東南アジアは異常株高でスタート(06年1月9日)

2006年のスタートは例年とかなり違った様相となっている。すなわち、1月9日までの東南アジアの通貨は軒並み対米ドル高となり、同時に株価も実力以上に(?)上昇しているのである。

また、日本円(1月9日は114.13円/ドル)も、韓国ウォンも台湾ドルも高くなり、株高は進んでいる。これは一体何事が起こっているのであろうか?推測できることは、アメリカの投資家が今年は米国経済と米ドルは「危ない」とみてアジア(おそらくEUにも)逃避し始めたのではないだろうか?

各国とも、程度の差こそあれ、外資の買いが株価や為替相場を押し上げているとみてよい。

アジア経済については2006年が2005年より「良い」という保証はどこにもない。多分悪くなる可能性のほうが強いと私はみている。その理由は、米国経済を支えてきた「住宅バブル」が今年は確実に沈静化していくであろうと考えるからである。

また、原油高の高止まりも、自動車社会の米国にはかなりの打撃を与えずにはおかない。そうなると、米国は中国や東南アジアからの輸入の伸びを落とさざるを得ない(自然に鈍化する)。

そうなると、中国経済は少なからぬ影響を蒙り、2001年のITバブルの崩壊時ほどではないにせよ、輸出が伸び悩むことも考えられる。となると、アジア諸国からの対中国輸出は鈍化する。

中国経済は、内需主導型に切り替えるといっているが、輸出主導で動いてきた経済で輸出が鈍化すれば、雇用に真っ先に影響が出てくる。そうなると、民間消費の伸びはあまり期待できない。

このようなシナリオが実現したら、中国経済は目標の8%成長すらおぼつかなくなる。耐久消費財(自動車、家電など)は既に過剰投資が明らかになっている。鉄鋼も大幅に需給バランスが崩れている。

となると、2008年の北京オリンピックに向けての「公共投資」だけで8%もの高い成長率が維持できるであろうか?もちろん「下駄はき効果」があるから成長率としての数字はそこそこ行くだろうが、実態としての好況感はかなり薄れるであろう。

中国がコケれば、アジア諸国もコケるということになる。特に東南アジアは打撃が大きい。ただでさえ、中国から東南アジアへの輸出は30%ものびて、逆に東南アジアから中国への輸出は15%(従来の30%ペースから)と低下してしまったのが2005年の姿である。

タイやマレーシアの電子部品産業などはかなりの影響を受けている。だから、東南アジアの2006年の経済は明るくはない。2005年並みの成長ができればメデタシ・メデタシといったところであろう。

にもかかわらず、下表に見るごとく、通貨高と株高である。例年1月の初めは各国とも株高になる傾向にあるが、今年は少し異常である。いつまで続くかが見ものである。

表12. 05年末と06年1月9日の株価指数と各国の為替相場(対米ドル)

  05年末の株式指数 06年1月9日の指数 05年末の対米ドル 06年1月9日の為替
韓国 1379.37 1408.33 1007.30 978.60
台湾 6548.34 6742.39 32.825 31.950
シンガポール 2347.34 2425.99 1.6628 1.6350
マレーシア 899.79 913.80 3.7792 3.7486
タイ 713.73 762.26 41.055 39.775
インドネシア 1162.64 1245.05 9830.5 9460.0
フィリピン 2096.04 2151.15 52.985 52.485
インド 9397.93 9583.45 45.04 44.33
中国(上海A株) 1220.93 1277.38 8.0702 8.0641