「それは、僕にお金を渡してでもしたいことなの?」
誤解、とは言えないだろう。実際そんなことをしてきたのだから。それは欲求を満たすための間違った手段なんだと、冷静になればわかるはずなのに直視せずに続けていた。
何故かなんて考えなくてもわかる。ヒバリに拒否されるのが怖かったからだ。金なら、もし拒まれたとしてもお互い傷を負わずにすむだろうと、そんなずるい考えが無意識にあった。そしてその通り、ヒバリは金ならば黙って受け取ったし、その代わりに俺の要求にはたまに文句を言いつつも応えてくれた。
単なる触れ合いや、ちょっとした悪戯を仕掛けてもまた次に会うことは拒まれなくて、自分でも何を求めているのかわからないまま金の介在する関係を続けていた。それも、ヒバリが断るまでだと決め込んで責任を自分にないとずるい逃げ方ばかりして、気付けば半年も経っていた。
「……そうじゃない。金なんて本当はどうでもいいんだ」
理由とも違う。言い訳、それもしっくりはこなくて。そう、まるで生け贄のように金というものを利用して、ヒバリを見ずにいた。
「ヒバリ」
初めて呼ぶ気がする。意識して本人に呼び掛けたのは実際初めてのようなもので。
「!」
座布団から膝を下ろして距離を詰める。そのまま腕を伸ばせば、散々バイクで逃げた後だというのに逃げはしなくて、抱き締めるのは拍子抜けするほど簡単だった。
「いろいろ、順番を間違ってたんだ」
考えるより先に感情ばかりが生まれて、近道や回り道ばかりに迷って何が正しいかもわからない。けれど、これだけは間違いはない。
「好きだ、ヒバリ」
腕の中の子供に、そっと告げた。
「……それは、もう聞いたよ」
やはり困ったような声音で、でも拒絶している風ではない。髪に半分埋もれた耳に唇を寄せると、くすぐったいのか身を捩るけれど。
「ヒバリ」
「っ!」
耳につんと鼻先が掠めただけで、ヒバリは身を固くする。つい悪戯したくなるのも仕方ないだろう?
「…っ、」
抱き締めた腕の中でヒバリの細身が跳ねる。常々思ってたが、随分敏感なようだ。唇で耳殻をくすぐるように何度も触れさせるだけで、噛み殺した息を漏らす。
「こ、れ以上は…お金、とるよ」
髪に絡む指はあくまでも軽く引き留めるばかりで、それ以上にはしてこない。
「欲しけりゃやるよ、いくらでもな」