バックミラーに写った数台後ろの車があのとき見かけた黒の高級車のように見えて、まさかと思ったけれど、運転席に見違えようのないあの人の髪色が見えた。後部座席に誰かが乗っているようには見えなくて、けれどただの偶然と済ませるには僕の勘がそれを否定していた。スピードを上げてみれば案の定、邪魔な車を抜き去って追ってきた。
 何故か、考えてみてもわからない。彼の上司か組織からの命令か、ならば彼と僕が知り合いだということは知られているのだろう。いや、そもそもそのために近付いてきたのだとしたら?
 アクセルを捻る。風が顔に痛くて目も開けていられないけれど、その方が後ろに迫る車を、姿を見ることがなくていいような気すらした。
 街を駆け抜ける。何度か信号を無視した気がするけれど、郊外に向かっているせいか僕も、後ろの車も事故を起こしたりはしなくて、振り切ることができないままいつしか並盛山に登る道へと向かっていた。
 街灯のない山道を照らすのはヘッドライトばかりで、つかず離れず後ろから追ってくるライトも見える。どうして、疑問は怒りに変わっていった。言いたいことがあったのならあのときに言えばよかったのに。そうじゃないなら、追われる理由なんて僕にはない。
 そう、逃げる必要なんてないんだ。
 トンネルを抜けた先のカーブ、道を思い浮かべる。十分だ。後続の車から姿が見えなくなるタイミングを狙って、車体を大きく振る。足を軸にして振り返ればそこに、くる。