「委員長、これは?」
机に置かれたのは、中学生には些か重すぎるくらいの札束だった。
「委員会の活動資金だよ。足しておいて」
そう言いながらも、どこかぼんやりと視線は漂っている。このところ委員長の様子がおかしいと思うことは幾らかあったけれど、今日は輪をかけて不自然だった。
「わかりました」
けれど、委員長の意向に一風紀委員の自分が意見することはできない。帳簿に委員長の私財と記して、金庫にしまうことにする。
「それと委員長、携帯電話に連絡してみたところ繋がらなかったのですが、どうかなさいましたか」
「……あぁ、それならそこにあるよ」
「は…?」
視線で示されたのは少ししなびた花の活けてある花瓶だった。意図が汲めずとりあえず覗いてみれば、委員長のものであろう携帯電話が底に沈んでいた。
「処分しておいて」
「では、新しいものを手配いたしますか」
提案は首を振って断られた。花瓶を引き取って退室しながら、閉めるドアの隙間から深いため息を聞いた。これはどうも、重傷らしい。副委員長として自分にできることはあまりにも少ないが、水に沈んだ携帯電話をハンカチで拭って修理に出すことを心密かに検討していた。