エレベーターに飛び込んで、壊れるかというくらいにボタンを押せばすぐに扉は閉まった。外を確認はしなかったけれど、大丈夫、誰も追ってきてはいない。ただ、あの場にいたくなかった。その一心で駆けだしてしまったけれど、その判断が正しかったかはわからない。あのときのはらわたが煮えるような感覚はもうない。階下に降りるほどに僕の感情の温度も下がってきたようだ。けれど、もうあの場に戻る気は起こらない。そう、僕が用があったのは赤ん坊だけなのだから、またの機会でいいんだ。
地上に着いた。地に足が着けばもう怖いものなどない。いや、僕は何にも恐れなど感じてはいない。たとえあそこにいた人間たちが敵になったとて怯みはしない。トンファーを掴んできた男、ああ見えてかなりの熟練者だろう。この僕が武器を取られるなんて、今までにはなかったことだ。
無理に引いたせいだろうか、手首が少し痛んだ。