警戒している表情ではあった。それが一気に強張ったのは、こちらを認識してからに間違いはない。声が、震えているようにすら聴こえた。直視することも出来ず目を伏せたのは間違いだったかもしれない。そのときのヒバリの感情を汲んでやることすらできなかったのだから。
「子供だと思って、馬鹿にして楽しいかい」
　聴いたことのないような、押し殺した声だった。
「…っ、ヒバリ」
　手にしているのは一般市民が持つには余りに不似合いな武器で、けれど今の少年にはその凶悪とも言える牙が必要なのだろう。そうして距離を開けなければならない理由を作ったのは俺だ。
「寄るな」
　動く前に制された。裏社会を渡り歩いてきた自分たちのような汚い大人と、吊り合うまでは行かなくともそれに近い殺気を纏っている。まだ年端も行かない子供だというのに。10代目の家庭教師であるリボーンさんが呼びつけたのは、こちらの世界へ招き入れるためだろうと理解はしたけれど受け入れることはできなかった。
　今まで、この少年が自分に見せていたのは年相応の部分ばかりだ。それは少なからず俺に心を開いていてくれたからじゃないのか。
「ヒバリ、話を……」
「煩い！」
　激しい音と共に、ローテーブルがひしゃげた。この細腕のどこにそんな力が、と思ったけれど明らかに過剰な力はそれを振るう肉体をも傷つけかねない。だが自分にそれが止められるのか、躊躇ううちに隣の気配が動いた。
「10代目！」
　その場に振り下ろされそうになっていた二撃目は、10代目の手を包むグローブに阻まれた。掴まれたトンファーを引こうと雲雀が力を込めてもびくともしない。それもそのはず、細身の体に似合わず10代目は自らの肉体を武器として戦い、生き延びてきたのだ。純粋な力の勝負ならわからないが、今の雲雀には何より冷静さが足りない。武器を取られまいと必死に抵抗する姿は見ていられやしない。
「聞いて下さい、ヒバリさん。獄寺君は…」
「──ッ！！」
　形振りを構わない、そんな勢いで振り払い、身を翻す。その場にいる誰よりも早く動いたのはヒバリだった。止める間などありはしない。一瞬の後には部屋から少年の姿は消えていた。

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