目は良い方だと自覚しているけれど、それ以上に彼の容姿は目立つものだから仕方ない。
 普段は気に止めることのない、大通りを行き来する車の群れ。信号で止まっているその横の歩道を歩いているその時だった。
「まさか」
 見違えようのない銀色の髪。いつも着ているのと同じ黒のスーツ。それが、黒塗りの高級車の運転席に座っている。後部座席に向かって笑顔を向けて、会話をして。相手は濃い色の窓ガラスに隠されて見えはしないけれど。
 ほどなく信号が変わる。車は流れに消えていって、僕はしばらくその場から動けなかった。
 わかっていたはずだ。
 彼は違う世界に生きている人間だと。

 知りたいとも思わなかったのに、だったら何故、見つけてしまったんだろう。

 それから、携帯の電池が切れてもどうしようという気にもなれず、僕は学校と家を最低限往復するだけの毎日に戻っていった。