使い道がない訳じゃないけれど、気付いたら懐にはしまいきれなくなっていたそれが、引き出しの中に貯まっていく。
「今日の分な」
先に渡されることも、終わった後で渡されることもあるけれど、律儀なのかなんなのか、彼がそれを忘れることはない。彼は僕が受けとるのと同時にほっとしたような顔をするから、いらないと言う気分にもなれなかった。
「ねぇ」
「ん」
ベッドに横になっている男の髪を撫でながら、ぽつりと声を掛けた。
「ひゃくまん、今日の分合わせると」
もう二十回も繰り返しているのだと、自分でも呆れたけれど。一ヶ月空くことはあまりなくて、同じ週に二度会うことはたまにあった。まだ半年、もう半年、なのか。
「そんなもんか」
どうでもいいことのように言われてしまった。余程金に執着がないのか、身なりはいいけれど職業も、名前も知らない男は気にしないのか目を閉じてされるがままだ。
それを望んだのは彼で、僕がそれを行うだけなのに。躊躇いなく受け取っていたものが、積もり積もって邪魔になっていた。
だから、ではないけれど。
「ヒバリ」
名を、教えた。
「ひゃくまんのお祝い。僕の名前教えてあげる」
「……ヒバリ」
繰り返される。
「名字、名前?」
「さぁね。知りたかったら追加料金払いなよ」
彼の財布には現金は五万しか入っていなかったのは知っている。
「参ったな」
それは初めての、次の約束だった。