「これ、返すよ」
予想以上の間抜け面に、つい笑みが溢れる。彼と上司の新しい職場にまさか僕がいるとは思っていなかったのだろう。ぽかんと開いたままの口に放り込んでやろうかと思ったけれど、差し出せば素直に受け取られた。不自然に空いた箇所にそれが収まるのを見て、そちらの方がいいと形良い指に並ぶ指輪を眺める。
「なんで、てめぇがいやがんだ。確か…」
「異動だよ。今日からここが僕の職場だ。掲示板に貼り出してあったと思うけど?」
見ていないからこその反応だとわかっていて、からかうように笑ってやる。上の老人どもをそっくり外して、新社長の直下には僕と同じくらいの歳の六人が就く。実力で選ばれたそこに君と僕が並ぶのは不思議ではないはずだけどね。
「これからよろしく、獄寺隼人」
差し出した僕の手を握り返した彼の手は、あの晩と同じ温かさだった。