馬鹿みたいだと、自分でも思う。
 浴室に灰皿を持ち込んで、煙草に火を点ける。まるでアロマの香のようだけれど、こんなものは体に悪いだけだ。
 シャワーから湯を出しながら、指に填めたシルバーリングに唇を寄せる。わざとじゃない、けれど無意識に持ってきてしまっていた。この指輪が填まっていた、あの指を思い出す。
 急いたように開けたローションのボトルは、昨日の夜と同じもの。わざわざこんなことのために買うなんてどうかしてる。それを、手の平に開けて温める。そっと、指を忍ばす。
「……っ!」
 昨日だってしたことなのに、それどころじゃなく敏感になっている。指なんかとは比べ物にならないものに、侵されたせいか。
「は…、ん」
 指輪に舌を這わせながら、自分の指を押し込んでいく。まずは中指、物足りなくて、もう一本人差し指を添えて。
 おかしいと思いながらも止められなかった。届かない奥を探るように、次第に掻き混ぜる指が、繰り返す速さが激しさを増していく。
「ん、…ん…!」
 緩かった指輪が、口の中に転がり込む。それを舌で捏ねるように味わいながら、空いた手で自身への愛撫を始める。傷つけないように歯を立てるのと、遠慮なく自分を責め立てる快感に脚が震える。誰に見られるわけでもないから足をはしたなく広げ、ローションが泡立つぐらいに掻き回す。目蓋の裏に昨夜の彼の顔を浮かべながら深く突けば、限界が近付いてくる。
「んん、く…ッ!」
 意識が白くなるのは一瞬だった。すぐに現実と、見慣れた浴室が見えてくる。
「…まぁ、こんなものだね」
 唾液にまみれた指輪を灰皿に落として、冷たいシャワーで汚れた手と汗を流してしまえばもう余韻どころか、先程までのゆだった思考は失せてしまっている。
「返さないとね、指輪」
 月曜になれば嫌でも顔を合わせるから、その時だろうか。忘れていなければいいけれどと、自嘲が口許に浮かぶのを止めはしなかった。