シャワーで済ませようとしたけれど、浴槽に腰を下ろして湯を浴びた。洗い流せない痕跡は体のあちこちにあって、ぴりぴりと軽く痛んだ。
欲に溺れるとはああいうことかと、昨晩の自分の様子を客観的に思い出して、ついでに彼の顔も思い出す。
まるで恋人を抱くように名前を繰り返して、そんなことじゃ誤解されるのも仕方ないだろうに。遊びで抱いた女が勘違いして恋人を気取ることくらい、軽く想像がつく。
逆に僕は、遊びを演じられただろうか。平気で男をくわえ込む、そう見えただろうか。
彼の名を一度も呼ばなかった。最後に残した理性はそれだけは守っていられた。
「獄寺隼人」
営業統括部室長補佐、兼システム開発部主任、兼次期社長のボディーガード。現会長が寄越した情報は表向きの肩書きと実質の役割だけだ。書類に添えられた写真は小さくて、彼の瞳の色など判別できなかったけれど。
「どんな顔をするかな」
彼の上司の社長就任の内定、同時に組まれる新しい幹部組織の頂点の六名のうち二人が、君と僕だ。
同僚に振られて一人で飲み屋に入るなんて暇はもう与えられない。
辞令が出るのは、次の月曜だった。