それ、重くない?と訪ねたら、両手の指から全部の指輪を外して、渡された。
 まとめて持つと、ずっしりと重い。試しに指を通してみると少し緩くて、くるんと廻ってしまった。
 僕の代わりに身軽になった彼の手が、それを掬う。アルコールのせいか、火照った体温が指先で混ざって。
 気が付いた時には、彼を床に押し倒していた。
 灰緑の瞳が驚きに見開かれる。けれど、唇を塞いだら目蓋の下に隠された。どちらともなく唇から迷い出た舌が触れ合わされて、絡み合った。
 アルコールと銀色のせいだ。間違いを犯すのは。



 心地好い重みが体の上にある。柔らかさの代わりにしなやかさをもつ体に手を這わせれば、首筋に吐息が落ちてくる。
 何で、欲情しちまってんだ。
 胸もない、細いばかりの体。それが密着していれば、自分と同じ雄の部分が反応しているのがスーツ越しにわかる。なのに、背中が床にごつごつと痛いのに、押し退ける気にならない。それどころかスーツの生地を撫でる手が止まる気配もなくて、背中から腰へと愛撫するように往復を繰り返してる。
「…ん」
 何度目かわからないくらいに、唇を押し付け合う。男同士なんだから、これ以上は何の間違いも起こるはずないだろう?
 そんな考えはすぐに打ち砕かれた。

「ぁ…ん、んぅ」
 すかした顔をしていたはずの雲雀が、えろい顔して俺の性器を咥えている。しかも、やたらと上手いときてる。
「すげ…」
 腰にぞくぞくとくる快感に、思わず唇を舐める。男だからこそだろうか、確実に弱いところを狙ってくるし、欲しいと思ったところを間違いなく刺激してくる。
「ん、んぐ…ぅ」
 喉に届いちまうんじゃないかってくらいに深くくわえられた上に、手はサボらずに袋まで揉んで、しかも、ちょっと涙目になってるところが男心をくすぐりやがる。
「ちょ、マジやべぇ…っ」
 我慢とか理性とか、吹き飛ぶのはもうすぐだって自分でもわかる。男に咥えられてそれってどうなのかと思うが、即物的なのもまた男なんだから仕方ない。気持ち良いのは確かなんだ。
「れ、そう?」
 半分口に入れたまま喋んな、と文句の代わりに頭に手を添えて、腰を使って喉奥に突き立てる。
「んぐ、んん!」
 苦しそうな雲雀の顔を見て余計に興奮するってのは、随分やばい。アルコールが回りすぎたか、それでも理性を失うほどに飲んだつもりはなかったんだが。
「出す、ぞ…っ」
 言った瞬間、促されるように強く吸われて、そんなことをされたら我慢できるわけもなく、雲雀の口の中に全部ぶちまけてしまう。
「…っはぁ…」
 床に背を預けると、熱が抜けたせいか頭が少し冷静になってきた。状況を分析、理解しようと試みるが、動機については腑に落ちないことばかりだ。触られて欲情した、それは確かだけれどそもそも雲雀がそれをする理由がないじゃないか。
 その雲雀は、テーブルの上からミネラルウォーターのボトルを手に取り、それに口を付けている。そのごく自然なはずの動作に、つい目が行ってしまうのはどうしたことか。
「ねぇ」
 視線が絡まる。無意識に捕らわれたのは一瞬のことだ。けれど、逸らす気にもなれずに紅い舌が濡れた唇を舐めるのを見つめている。
「ベッドに行かない?」
 その言葉に、ついに俺も食われちまうのかと、半ば諦めのような感情のまま頷きを返していた。

 

 

→ ※R18