体勢を崩さないように緩く腰を揺らしながら、尻尾と同じように前に指を絡めて握り込み、同時に愛撫を与える。

「…っ!」

 もどかしいほどの快楽にか、内股を震わせて内部は締め付けられ、俺も余裕を奪われそうになる。それを辛うじて堪えながら、珍しく戸惑うような表情を垣間見せる雲雀に見惚れていた。

「もう、いいから…っ」

 雲雀が首を振る度に柔らかな黒髪が乱れ、耳の内側を紅く熱らせて性感を示した。猫ってのも悪くねぇよな、なんて腐った思考に溺れるのも、余りに違和感無くそれを身に宿した雲雀のせいだと脳内で責任を擦り付け、強く腰を引き寄せた。

「――ッ!」

 びくん、と体を仰け反らせ、引き攣ったように締め付けてくる。一度快感の波をやり過ごすように細く息を吐き、視線を戻した雲雀はいつもの支配者の目をしていた。

「生意気だよ」

 危険を本能が告げる前に、雲雀の反撃が始まる。下腹部にぐっと手をついて体を持ち上げ、また落とし込んで行く。先刻の戸惑いなどなかったように尻尾を脚に絡み付けて淫靡に誘いを掛けて、触れようとした俺の手を捉えて指を絡み取られた。

 手の平に掛けられた体重を押し返すと、雲雀の体が揺れる。そういうことか、と心得てわざと押したり引いたりすると雲雀が悦に入りながら笑みを返してくる。一瞬ペースを奪えたかと思えばすぐ思う通りに巻き込まれ、結局雲雀の勝ちだ。まぁ、今更だし悪くはねぇけど。

「随分、えろい猫だよな…っ」

「生意気な犬を咬み殺すのは嫌いじゃないよ…」

 ぐっと前に体重を掛けて身を屈めて、唇を舐められる。体を揺らす度に漏れる水音や、シャツの間から見える白い胸元よりも、合わせられたままのその黒い瞳が何よりも官能的だと思う。

 そのまま、猫の舌に絡め取られる口付けを味わうけれど、結局両手を塞がれてはその体に触れることは叶わない。狙ってやっているだろうそれは、見事に効果はある。俺に対する嫌がらせに手段を選ばないのが雲雀なんだからな。

「こーゆーことして、面白いかよ?」

 性感に流されそうになる声を低く抑えながら呟いて、明確な主語を抜かしたことに気付いた。雲雀がどう取るかはわからないが、多分ろくな答えじゃないんだろうことは聞かなくてもわかる。自分の耳を塞ぐことも雲雀の口を塞ぐこともできず、俺は迂濶な発言を後悔した。

「君を犯して反応を見るのは、悪くない」

 こういう時の雲雀は無闇に色気を漂わせて性質が悪い。わざとではないだろうけれど、その紅い唇は誘うように笑みを浮かべ、漆黒の瞳には捕食者の余裕すらある。

「てめぇは…ッ」

 そんな表情に欲情する自分も大概だと思うが、そう好きにされてばかりではいられない。体を起こしながら指が絡められたままの手を引けば、自然と膝に乗った雲雀と体が密着することになる。

「ん…」

 中で当たる箇所が変わるせいか小さく体を震わせた雲雀は、しかしおとなしく体を寄せてきた。ついでに尻尾も擦り寄ってきたような気もするが、それは気にしないことにして目の前の雲雀の首筋に舌を這わせる。
 手を握り合って、すでにどちらが拘束しているのかもわからないけれど解くには惜しくて、手の平の熱を感じながら雲雀を見上げる。視線が合うと情けのように柔らかい唇が降りてきて、未だに追い越せない身長差を思い知らされた。

「隼人」

 唇が離れて1cmもないほど間近で急かすように呼ばれる。俺も、このままじゃ辛いことはわかってるから、絡んでいた指が去っていくのを黙認して解放された手で腰を抱いた。

「――ッ」

 大きく揺すり上げると、それだけで雲雀は背を反らす。同時にぴくんと尻尾を引き攣らせるから、本当に繋がってはいるんだろう。腰に手を這わせる振りをしてそれを掴めば、咎めるような眼差しが降りてくるが、気にしない。何故生えているかも分からないそれも今は雲雀の一部で、触れたくなるのは仕方のないことだからだ。

「…っ…!」

 上がる声を抑えようとしているんだろう。唇を噛んで、体を揺らす度に紛らわすように首を振った。深いところまで犯せば、快感に喉を反らすくせに声は出さない。いつものことにしたってやはり不満には思うわけで、雲雀が声を堪えるほどに行為は激しさを増した。

「猫なら、鳴いてみせろよ」

 肩に額を押し付けられた時に、側に来た耳に噛みついた。

「ゃ……ッ!」

 ぐっと強く締め付けられ、雲雀の中にある俺の一部が大きく脈打った気がする。試しに産毛の生えた耳の内側に舌を差し込むと、握ったままの尻尾が小さく震える。

「いい、加減…っ」

 苛立ち混じりに背中に爪を立てて、雲雀が上擦った声を上げた。それでも舌で耳を犯せば、我慢しきれないのか自ら腰を上げて動かし始める。

「ヒバリ」

 自分もどうしようもなく追い立てられていても、雲雀の乱れた姿が見たいという欲望のためには手段は選ばない。シャツの裾から素肌に手を滑らせ、いつもはさらりとした感触のきめの細かい肌が、滲んだ汗でしっとりとしているのを確かめる。

「――ッ!」

 がり、と肩口に立てられた歯がいつも以上に鋭く皮膚を抉った。そんな痛みさえ快楽に紛れてしまえばスパイスのひとつでしかなく、それに誘われるように律動を再開する。

「…ァ、…っ」

 性欲に忠実なのか、雲雀は行為に躊躇いもなく溺れる。気付いたときには俺までもそれに引き摺られて、快楽の檻に囚われていた。

 それも、悪くはねぇけど。

 次第に離散していく思考の中で、猫の鳴くような声が、僅かに聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

「ひでぇ…」

 溜め息と共に煙草の煙を吐き出す。まだ昼休みも前だってのに制服はぐちゃぐちゃで、とても10代目の前に顔を出せるような状況じゃない。主な原因である雲雀は、涼しい顔でグルーミングなぞしてやがる。

「すっかり猫が板についてるじゃねぇか」

 こっちは調子に乗って猫の耳なんぞ舐めたせいで、口の中が毛だらけで大変だったってのにだ。

「手入れしないとべたべたして気持ち悪いからね」

 かしかしと器用に歯で毛玉をほぐし、ざらざらな舌で毛並に沿って舐め上げると、俺が弄り倒して乱れた猫毛は綺麗に艶を取り戻す。見事なもんだ、と感心してみていたのはいいが、雲雀はどうも毛繕いに熱心になる余り俺が見ていることを忘れているのか元から気にしていないのか、立てた片足のせいで捲れたシャツの裾からあらぬところが見えている。

「…そーかよ」

 返す言葉もなく、誤魔化すように煙を吸い込んで視線を反らす。早々に脱ぎ捨てたお陰でてめぇの服は無事なんだから、さっさと着ちまえばいいのに。けれど、雲雀は今度は耳の手入れまで始めていて、相変わらず白い肌を無防備に晒している。

 散々やった後とは言え、見るものを見ればその気にならないとは言わないし、そんなのを雲雀に感付かれたらからかわれた挙げ句にまた満足するまで付き合わされる羽目になるんだ。冗談じゃねぇ、俺はてめぇのペットじゃねぇよ。

 心中毒づいても実際に言えるわけでもなく、気持ち良さに引き摺られてついその気になっちまってる俺も俺だった。

「ねぇ」

「な、んだよ」

 突然声を掛けられて、無意識に肩が跳ねる。動揺を悟られないように声を作ったが、ばれてはいないだろうか。

「今日泊まってきなよ」

「……っ!」

 紅い唇を舐めながら囁かれたそれは、間違いなく夜の誘いだった。

「ばーか、まだ昼にもなってねぇだろ」

 冗談のように笑い返しても、もちろん、機嫌良さそうに尻尾を揺らめかせる妖艶な黒猫の誘いを断ることなんてできるはずもなかった。