多少寝不足で体はだるかったが、携帯の目覚ましで何とか片目を開けられた。手を伸ばして音を止めて、時間を確かめればいつもの起床時間で。

 ごろん、と体を転がした先に見えたものに、大きく心臓が跳ねる。

 そういえば、昨日は雲雀の家に泊まったんだった、と思い出すのと同時に夜遅くまで耽ってたあれこれを思い浮かべて落ち着かなくなる。

「…ん?」

 布団から半分だけ覗いた黒い頭に違和感を覚えて端を僅かに持ち上げてみると、そこには何の変哲もない雲雀の寝姿がある。

「……耳、ねぇのか」

 あることに慣れつつあったそれは見事に姿を消していて、そっと髪を撫でてみても隠れていそうにはなかった。

「なんだ、つまんねぇの」

 別にこだわりがあったわけでもないが、なくなってしまえば案外あっけなく、一日で消えるのならもう少し沢山触っておけば良かったかと小さな後悔だけが残った。

「ん…」

 つい触ったままに柔らかい髪を撫でていた手の下で、雲雀が身じろいだ。思わず手を引くと、同時に細い目がうっすらと開かれる。

「起きたかよ」

 シャワーも浴びないとならないから、時間は余りない。二度寝に落ちないように話しかけると、雲雀は一瞬目を見開いて、嫌な感じの笑みを浮かべた。

「おはよう」

 朝からきっちりキスを奪われ、ベッドを抜け出した雲雀の後を追う。
 俺がそれに気付いたのは、五分ほど経った後のことだった。

 

 

 

 

 

「10代目、おはようございます!」

 欠伸を噛み殺して玄関を出れば、すぐにいつもの笑顔を浮かべた獄寺君と顔を合わせる。そんなに尻尾振っちゃって、朝から元気だな。

 ん?尻尾?!

「獄寺君、それ…」

 指差した先には、幻ではなく明らかにふさふさな犬の尻尾があった。

 あらためて顔を上げれば、朝日を浴びてきらきらな銀髪の上に、同じ毛の色をした耳がぴんと立っている。

「朝起きたら生えてたんすよ。明日には消えると思いますんで」

 そう獄寺君はにこやかに言い切るけど、まぁ似合ってるから下手に隠すよりいいのかな?

 って、そんなわけはないよ!

 タイミングの悪いことに今日も朝から風紀委員が校門前に立って、服装検査をしてる。ただでさえ獄寺君は引っ掛かって毎回騒ぎになるんだから、耳と尻尾を堂々と着けていったらどうなっちゃうんだろう。周りの人たちも気にしてるみたいで視線が痛いんだけど、獄寺君は気にしてないみたいだし。

「委員長、来ました!」

 きょろきょろとしていた風紀委員の人が、こっちを見て視線を止めて、何か言ってる。多分獄寺君のことだと思うけど、流石にまずいよね。

「そう」

 人並みの向こうから、威圧感のある気配が近付いてくる。ヒバリさんだ。

「あれ?」

 現れたのはいつも通りのヒバリさん。昨日は頭に猫耳を乗せて、尻尾を揺らしていた気がするんだけど。

 そんなことを思いながらぼんやり観察していると、気付けばヒバリさんとの距離は近付いてしまっている。

「何か用かよ」

 警戒するように前に立つ獄寺君と数メートル離れた地点で立ち止まったヒバリさんは、獄寺君を上から下まで眺めている。

「ないとは言わないね。君は服装違反の常習者だし、今日も例外じゃない」

「うるせぇ。てめぇの物騒な趣味にそういつも付き合ってられっか。10代目、こんなやつほっといて行きましょう」

 さぁさぁと背中を押されて校舎の方に脚は進むけれど、顔だけ振り返ってみればまだヒバリさんはこっちを見ている。正確に言えば、獄寺君の方をだけれど。

「待ちなよ。尻尾を巻いて逃げる気?」

 ぴたりと足が止まって。獄寺君は眉間の皺を深くして、頭の上の耳はしっかりとヒバリさんの方に向いていた。

「おめーの相手してるほどヒマじゃねぇっつってんだろ!!」

 ヒバリさん相手に暴言を吐けるのは君だけだろうけど、これは下手したら俺まで巻き込まれかねない状況だ。

「そんなの知らないよ。ほら、こっちにおいで」

「誰が行くか!!」

 幸い、そろそろチャイムが鳴る時間になりそうで人目は減ってきている。それにしても、周りを気にしない二人にとってはどうでもいいことだろう。

「きゃんきゃんうるさいね。ご主人様ごと咬み殺されたいの、馬鹿犬」

「ひ…っ!」

 いつのまにか、ヒバリさんの片手には愛用のトンファーが握られていた。この場合、ご主人様ってやっぱり俺のことになると思う。

「てめぇ…10代目に手を出しやがったらただじゃおかねぇぞ」

「だったら、わかってるね。主人に尻尾を振るだけが能じゃないよ」

  獄寺君はヒバリさんに手招きされると、耳と尻尾を垂らして何度も俺の方を伺いながらもしぶしぶとそっちに向かう。まぁ、これ以上逆らうと俺にに危害が及びかねないから心配してるんだろうな。

 ここからは二人の会話は聞こえない。でも、ヒバリさんに何か耳打ちされた途端、獄寺君の耳と尻尾が落ち着き無く動き始めた。

 それはそわそわ、って表現がまさにぴったりで、不安だとか苛立ちとかは感じさせないから悪いことを言われたわけじゃないんだろう。じゃあ、ヒバリさんが楽しそうにしているのは何でかな。

 そりゃ、俺だって今の獄寺君の姿は似合ってて可愛いと思うし、できれば近くで観察したい。子犬だって苦手な俺だけど、獄寺君なら大丈夫だ。

「…あれ?」

 てっきりヒバリさんにそのまま連行されるかと思ったのに、獄寺君がこっちに戻ってくる。

「10代目、お待たせしました」

「いいの?俺はてっきりヒバリさんに指導されるかと思ったのに」

 ふさふさと尻尾を振ってるけど、まだヒバリさんの方を気にしているように耳は落ち着いてない。

「あ、と…それは後で行ってきます」

「そっか、じゃあ急がないと授業始まっちゃうね」

 予鈴はとっくに鳴ってる。俺達はとりあえず教室まで走り出した。



 この時、一瞬感じた寒気に振り返らなければ良かった。









 そこには、楽しそうな微笑みを浮かべるヒバリさんが、いた。

 

 

 

 

 


最後がほんのりホラーチック?

雲雀さんはごっきゅんを餌で釣っておきながら
わざとツナさんの元に返して観察しているのです

ふさふさ尻尾を振るごっきゅんをな!

それにしても猫耳ネタから即えろに走るのもどうかと思う