軽く意識が飛んでいる間に雲雀の指は離されていて、代わりに唇が胸元に触れている。
「――ッ」
時折ざらりと舐める舌がわざとらしく肌を伝って、下腹部に辿り着く。まずい、とか考える隙もなかった。緩く立ち上がり掛けているそれに軽く手を添えて、雲雀は何の躊躇いもなく口に含んだ。
聞こえるように水音を立てて舐め上げられる度に、赤い舌が覗く。それについ視線を囚われ、雲雀と目が合うことになる。
「く…っ」
いつもより数段強い刺激に襲われ、限界も近い。それをわかってか、ぴんと立った猫耳や、シャツの裾を捲り上げている尻尾がやたらと機嫌良さげに見える。
「もう少し我慢できないの」
「るせぇ…ッ」
生意気な口は、先端を吸ったり裏筋をなぞったり忙しいくせにそんなことを言いながら笑う。その間も爪の先まで整えられた指が握り込んで扱き上げてきて、正直やばい。
暴発寸前のそれを、ぱくり、と咥えて、唇がゆっくりと上下する。自分がするのはいい、だがされるのはいつまでたっても慣れはしなかった。それはこいつも同じなのか違う意味でなのか、その気になった雲雀ははっきり言って俺とは比べものにならないくらい性質が悪い。
「も、いいだろ…」
情けないことに俺は息も絶え絶えで、拘束された腕では抵抗することもままならない。発達した犬歯、牙が掠り、猫の舌が包み込むように舐めてくる。自覚はないかもしれないが、雲雀は存分に猫の武器を使って俺を追い立てていた。それでも口を離さないということは、このまま出せということか。雲雀の視線からは意図が読みきれなかった。
「――ッ…!!」
もう駄目だと思った瞬間、雲雀の口がそれを奥まで咥え込み、舌先を押し付けながら強く吸い上げてきた。
結局、俺は堪えきれず雲雀の口の中に出してしまったわけで。それを平気で飲み込み、溢れて濡れた唇を無感情に手の甲で拭うだけの雲雀を脱力したままぼんやりと見上げる。猫耳やら尻尾をつけたその姿は笑えるはずなのに、やたらとえろい上に違和感がないのはどういうことか。俺ももう慣れちまったんだろうか。
「…ヒバリ」
呼ぶと、まず耳が反応を返す。それからゆっくりと目が合わされて、濡れた唇に笑みが浮かんだ。
「参った、は聞かないよ。まだこれからなんだし」
それはそうだ。このままで終われば随分気は楽だけれど、俺も雲雀も満足などしてはいない。
「言わねぇよ。それより」
雲雀に、手が痛ぇと訴えても聞いてはもらえないだろう。それどころか、そんなことを言えば慈悲の欠片もないこいつに余計酷くされるのは目に見えている。
「自分でできんのかよ」
代わりに、挑発する。雲雀の目がすっと眇められ、その色が変わった。獲物を狙う眼差しで、牙の覗く紅い唇に笑みを浮かべる。
「できるよ」
体を跨いで膝で立ち、屈んで口付けてくる。鼻に付く臭いと味に眉をしかめつつも、噛みつくようなそれに酔わされてかち合った目線は外さない。けれど雲雀の手が伸ばされた先で何が行われているかは見えなくとも知っていた。
時折、不自然に呼吸が途切れる。眉を寄せながら、それでも懸命にキスは続けて、俺の視界を塞ぐ。
「…なぁ、ヒバリ」
「なに」
声色はほとんど変わらない。雲雀がどれだけしぶといのか計り知れないが、それより俺の方が限界だった。
「俺にさせろよ」
目の前で散々やらしい顔を見せられて、触りたくならずにはいられない。
「やだ」
ぷいと顔と耳が背けられる。まぁ、こいつが素直にさせるわけはないな。
「意地張ってんじゃねぇよ、おめーも辛いだろ」
そう言っても認めるはずはないのは知ってる。それどころか余計逆撫でするのをわかっていて、加減を探りながら太股に脚で触れる。
「…辛いのは君の方じゃないの」
俺の脚を押さえつつ体を起こし、熱に揺らぎながらも鋭い視線を向けてくる。確かにこっちも過度な期待に苦しいが、雲雀だって十分やばそうに見える。
「しょうがねぇだろ」
出したばかりだというのに、触れられもしないうちに勃ち上がったそれは元気に上を向いている。
「おとなしく出来ないなら、咬み殺すよ」
現状に気付いているからこそ、俺の上で雲雀は妖艶に笑う。どうすれば俺を煽れるか、知っていやがるんだ。
「くそ…っ」
特等席で見られるのはいいが、これでは生殺しだ。挑発は、見事に都合の悪い形で実っていた。
「君はそこで見てればいいよ」
人の体を跨いで膝立ちのまま、ヒバリが唯一身に付けている白いシャツをたくし上げて、手がその中に差し込まれる。自分を慰めるように何度か前を擦り、後ろへと指が伸ばされたようで。
「――っ」
雲雀が肩を震わせる。体を丸め、奥に向かう手が徐々に深くなっていく、それは。
「…おい」
微かに聞こえる水音。濡れた何かを掻き回すような音の度に、黒い尾が感能的に揺れる。それは酷く視界から刺激を与えてくるが故に、拷問のような残酷さを持っていた。
「なに」
目を合わせて、雲雀がわざとらしい笑みを浮かべる。俺が見ているのを意識して、挑発するようにもう片方の手を後ろへ運ぶ。シャツの裾から僅かに見え隠れする様子に、思わず目が奪われた。
強くなる水音。両手の指で、拡げるようにそこを弄っているせいか。雲雀の自身も、シャツを押し上げて先端を蜜に濡らしていた。まるで自慰のようなそれを見せ付けられ、心臓は倍の速さで胸を叩き、視界が赤く揺らぐ。
「隼人」
紅い唇から紡がれる声は、俺を死刑台へと誘う。
「……参った」
俺の上に乗る黒猫は、機嫌良さげにゆらりと尻尾を揺らした。
解放されたばかりの痺れた手で、細い腰を引き寄せる。十分に馴らされていたそこは、軽く先端を触れさせただけで期待するように収縮した。
「…ん…っ」
ぐりぐりと押し開いて、ゆっくりと差し込んでいく。中の熱さは予想以上で、発情期の猫みたいだと言ったのはあながち間違いじゃないかもしれないと頭の片隅が冷静に呟いた。
「誰が、猫だって…っ」
独り言が口に出ていたらしい。息を殺し、頬を染めながら雲雀が睨んでくる。
「おめーだよ」
到達した奥を抉れば、切なげに眉を寄せて、締め付ける。前を開いたシャツの下で、薄い胸が呼吸の度に小さく上下するのを見ながら、快楽に流されそうになるのを踏み止まった。
「…ムカツク」
つんと尖った唇を愛らしいと思ってしまう脳に危機を感じながら、腰に乗る白い体を揺すり上げ始める。途端に憎まれ口は噤まれ、声を殺すためか唇を噛み締める。
「…っ、…ん…」
それでも体は快楽に忠実で、自身は先走りに濡れ、内部は誘うように絡み付いてくる。
「ヒバリ…」
名を呼ぶと、しっとりと濡れた睫毛を揺らして目を開ける。平気そうな表情を取り繕うのに反して、耳は切なげに伏せられたままだ。
「なに」
声は、細く噛み締められている。腰に回した手を尻尾に伸ばすと、不自然に体が揺れた。
「…やだ」
手触りの良いそれを撫で上げると、上擦った声が制止してきた。慣れない感覚に戸惑っているのか、押さえようとする手は力が弱く、いつもの雲雀とは様子が違った。
「んなとこでも感じるのかよ」
尻から付け根を何度も撫で、滑らかな手触りを味わいながら指で輪を作って尻尾を撫で上げると、雲雀は背を反らす。それでも声は上げないところが流石だと思いつつも、悪戯心が湧き上がる。
「何、…っ!」