side:G

 気付けば雲雀の思うように動かされてることはいつもだけれど、今日は勝手が違う。

「…ヒバリ」

「ん」

 組み敷いた体は、知っている雲雀よりもひとまわり違う。けれど、それは間違いなく雲雀で、服の下に隠された肌は白く、誘われるように、傷ひとつないそこに痕を残した。
 10年後も、俺と雲雀はこんな関係を続けているのだろうか。聞くことなんてできやしない。ただ、しばらくしていないと言った通りに、それらしい痕とかは見当たらなかった。

「隼人」

 俺の考えてることなんて全て見透かしたように雲雀が笑う。その顔も綺麗だから手に負えないんだ。

「…黙ってろよ」

 誤魔化すように口付けて、シャツに手を掛ける。舌を絡めているのかボタンを外しているのか混乱する脳の隅で、まだ理性が騒いでいた。
 考えたら敗けだと思ってるわけでもない。けれど、今は思考を投げ出してしまいたかった。

「…っ…」

 ベルトを外して前を寛がせるだけで、妙に気恥ずかしい。下着ごとズボンをずらすのも、直視はできない。

「脱ごうか」

「…いい」

 雲雀の声は明らかに笑みを含んでいて、余裕のない俺とは違う。さっきまでの欲に揺らいだ瞳とは違って、俺を堕とした後は終始楽しそうに観察しているようで、居心地が悪かった。
 白く長い足を全て晒させ、もう一度キスに耽る。今の雲雀にも下手だと言われるが、大人になった雲雀からすれば、俺のキスなんて児戯にも等しいんじゃないかとは思う。それでも、柔らかく濡れた唇の感触は離れられなくなる毒を持っていた。

「…は、…ん…」

 口付けの合間に雲雀が漏らす声がいやらしい。知っているそれよりは少し低く、さらに色を含んでいるように掠れた声で名前を呼ばれれば腰に直撃ものだ。

「…隼人」

 ほら、きた。黒い瞳にまっすぐ見つめられてそう呼ばれると、もう逆らう気さえ起きない。誘われるままに肌に唇を落として、骨ばった体を手で探った。

「ちゃんと食えって言ってんのによ…」

 細っこいのは10年前から変わりない。雲雀の左手に巻かれた包帯に気を付けながら指を滑らせて、痛みがないか確認する。

「うるさいよ」

 焦れたように眉を寄せた雲雀が、俺を睨みつける。その視線を受け止めながら、鎖骨に痕を残した。
 正直、すでに我慢とか限界とかそういうものは超越していて、酔わされたように不安定な足場に片足で立っているような状態で、それを雲雀に突き落とされそうになるのを甘受していた。
 軽く包み込んで擦るだけで屹立するそこに、唇で触れる。先端を舌で押すように舐め上げれば、ぴくりと反応がある。
 まずい。今更後悔が背後に立つ。それでも止められるわけでもなく、それを口に含んだ。

「…ん…」

 雲雀にされたように真似してみるが、そもそも混乱していて余り覚えていない。仕方なく、いつもしているように口の中で舌を這わせる。

「……っ」

 白い太股がぴくんと揺れる。わかりやすい反応に気を良くして、俺はそれを愛撫することに必死になっていった。
 手を添えて扱き上げながら、先端の窪みを舌先で刺激し、舌の腹で捏ねるように水音を立てて舐める。自らしているくせに、それに欲情してしまっている自分が疎ましいが、雲雀の控え目だが僅かに漏らす声に煽られているのは確かだった。

「…ハヤ、…ッ」

 限界を示すように声のトーンが上がる。それを無視して、唇を降ろし後ろを舌先で解し始める。

「…、ぁ…――」

 残念そうな声を出すな、とも言えず、微妙な罪悪感を胸に残しながらもそこを弄るのをやめない。舐めて濡らした指を少しずつ差し込めば、思ったよりも強い締め付けが襲った。

「きつ…」

「…久しぶり、だって言った」

 時折声を震わせながら、雲雀が眉を寄せる。並盛を離れていたとは聞いたけれど、完全に個人行動でもしていたらしい。いや、何かを疑ってるとかそういうわけじゃないが、10年後のことを詳しく聞いていない分不安があるのも確かだった。雲雀に言えばガキみたいな独占欲だと笑われるだろうか、それを聞くつもりもない。

「そーかよ…」

 だったらせめて優しく、とは思うけれど、さっきから気が急いて仕方ない。早くしたくてたまらなかった。

「もう、いいよ」

 俺の気持ちを見透かして雲雀が笑う。その誘いに乗れないほど俺は強くもない。脚を抱え上げ、そこにあてると雲雀の喉が僅かに上下するのが見えた。

「痛くても知らねぇからな…」

 ぐっと力を入れて押し込めば、強い抵抗には合うものの、ゆっくりとは中に進んでいく。そのきつさと熱さに眩暈を感じながら、雲雀の温度だと何故か懐かしいようなものが胸を刺した。

「ん、く…っ」

 苦しそうに眉を寄せながら、雲雀の表情には色が見える。知っている弱い箇所を擦り上げれば、白い体が跳ねる。

「ァ…っ!」

 まともに抱くだけではほとんど聞けもしなかった声を雲雀が上げていること、欲に濡れた瞳で俺を見上げてくること、全てが悪い夢のようで、抜け出せなくなる。
 そのまま情動にまかせて深く突き立て、体重を掛けて攻め立てる。

「ふぁ、ぁ…んぅ…ッ!」

 堪え間なく甘い声を紡ぐ唇を塞いで、最奥を掻き回す。俺の左腕の怪我を気にしてか、雲雀が自分で右足を支えているのに気付いたのは、その一瞬前だった。

「ヒバリ…」

「あぁ、っ…ハヤ…ト、」

 嵌められた。今更思い返してもどうにもならない。雲雀に誘われるようにして俺は中に全て吐き出し、雲雀も喉を仰のかせて白濁を放っていた。

 

 

 

 

side:H

「…くそっ」

 腕の中で、小さく君が悪態を吐くのを僕は良い気分で見ていた。彼なりに葛藤も躊躇いもあっただろうに、僕が捕まえて、罠に掛けて、引き擦り堕とした。

「嫌なら我慢すれば良いのに」

「わざとやってるくせにそういうこと言うんじゃねぇ!」

 真っ赤な顔に口付けて、僕は笑ったのだろう。彼は余計顔を赤くして、横を向いてしまった。
 頬の絆創膏も、全身の包帯もぐちゃぐちゃで、汗も含んでいるから取り替えなければならないだろうことはわかっている。けれど、もう少し泥のような温もりに浸っていたかった。

「隼人」

 愛しい名を呼んで、髪を撫でる。この頃の僕らの触れ合いはそんな優しいものではなかったから、君が戸惑うのもわかる。けれど、僕にとっては君が君であることには変わりない。それどころか、素直に自覚していなかった分、この姿の君にこうして触れられることは喜ばしいくらいだ。

「…なんだよ」

 少し長い前髪を梳いて額に口付けながら、目を細めた。

「さぁね」

 君に与えるのは小さなきっかけだけ。気付かなくても仕方ないくらいの棘を残して、僕は君が掛かるのを待つ。

「わけわかんねぇ」

 唇を尖らせる子供のような仕草。自然と笑みが浮かぶ。

「わからなくていいよ」

「馬鹿、俺が気にすんだよ」

 知ることの恐ろしさを知りながら、君はそれでも真実を求める。用意された答えを並べるのは得意な癖に、自分で答えを探すのは苦手な君が、何処まで手を伸ばすのか。

「わからないからこそ面白いのに」

 眉間の皺に口付け、頭ごと銀の髪を抱き締めた。

「…なんか、10年後のお前って怖ぇ」

「どういう意味、それ」

 知らないものを怖いと思うのか、それとも別の意味か。

「だってよ、たまに変に…優しいっつーか…」

 何だ、そんなこと。年月は人を変えると言うけれど、僕は変わっていない。変わったのは、君と僕の関係。

「隼人が可愛いからだよ」

「嘘臭ぇ!」

 子供っぽい笑顔は君の本質なのだろう。最近はあまり見せないそれを見たくて、僕は何度も君の髪を撫でた。
 気が付いたときには君は眠ってしまっていたから、仕方なく包帯を替えて部屋を後にした。そろそろだ、と赤ん坊は言っていた。彼も傷が癒え次第修行に入るつもりだと煩いくらいに言っていたし。

「仕方ない」

 僕の役割は彼の敬愛するボスを鍛えること。ならば、恨まれるくらいに残酷に、望まれる非情さでそれを行うだけ。
 やはり、と溜め息が口をついた。

「甘くなったね、僕も」

 赤ん坊に言われたからって、人のために何かするなんて、らしくない。動揺を突いたりするのが巧いから、都合良く動かされてしまっている。

 仕方ない。

 僕は与えられた役目の中で、それを全うすれば良い。もちろん、僕の個人的な感情のために。



 きっと君は僕を憎むだろう。






 ――それは、とても楽しそうだ。

 

 

 

おまけ その後の10年後獄ヒバ捏造