おまけ その後の10年後獄ヒバ捏造

 

 

side:H

「騙されたよな、てめぇには」

「なに、いきなり」

 久しぶりに情を交したベッドの上で、服も纏わないままに僕は君の髪の感触に浸っていた。昔に比べると短い前髪に、少し伸びた襟足。整髪料は、汗で余り役に立たなくなっている。

「10年経っても、うんともすんとも言やしねぇ…」

 苦々しく呟く言葉に、ようやく気付いた。10年前の君に見せた姿を、記憶力の悪くない彼はまだ覚えていたらしい。

「期待してたんだ」

 あんなにわざとらしく声を聞かせるなんて真似はあれきりだ。

「……うるせぇ」

 耳まで赤くしているから、並んだピアスの側に唇を寄せる。

「もっと上手になれば、聞けるかもね」

「くそ…っ!今に見てろ!」

 何度聞いたかわからない言葉だけれど、たまにはその通りに君が僕を見返すことはある。まぁ、身長のことは特に君は気にしていたから、差が覆ったときの喜びようと言ったら大変なものだった。余りに露骨に嬉しそうなので、あの時は思わず咬み殺してしまったけれど。

 僕が手を下すことなく君が何かを成し遂げるならそれは構わないけど、僕のことに関してはそう簡単だと思わせてはいけない。難攻不落の城塞のように手強いままでいないとね。

「楽しみにしてるよ」

「嘘臭ぇ」

 目を細めて、口の端を上げて君が笑う。小さい頃のように無邪気な笑顔は、自分を律するあまりに姿を隠してしまっている。

「…可愛くない」

「はぁ?なんだよいきなり」

「小さい君の方が可愛かったのに」

 ちょっとつつけば表情をころころ変えて、それこそ仔犬のように可愛かったのに、今では無駄に大型犬のような風格がある。

「またそれかよ…可愛いとか言うんじゃねぇ。てめぇは10年前でも変わらず可愛いげなかったくせに」

 そんなに苦々しい顔をするほどのことを僕がした記憶はないけど。

「僕が可愛かったら気持ち悪いでしょ」

「まぁな…ってそんなことはどうでもいいんだよ。とりあえず俺のことだ!」

 下らないことでむきになるのは子供っぽいけれど、僕に見せるのはそんなところばかりだ。

「君が、なに」

「俺だって可愛くねぇっつーんだよ。俺が身長負けてたからっていちいち小さいだの可愛いだの言いやがって…」

「ほんとのことだよ」

 髪をくしゃっと撫でれば、目を閉じる。長さは違うけど、毛並は変わらないね。

「俺に言わせりゃ、てめぇの方が…」

「僕が?」

 ひやりとした声に、君が口を噤む。可愛いとか言われるなんてごめんだよ。

「…可愛くねぇ」

「なにそれ」

 顔をそらして呟いた言葉に、思わず呆れた声が出た。前後の繋がりがないし、それはさっきも聞いたよ。

「てめぇはもうちょっと素直になれってんだ」

「僕は自分に嘘をついた覚えはない」

 そーゆー意味じゃなくて、と髪を掻き乱す手を取って、指を絡める。

「じゃあ、なに」

 君の言いたいことを引き出すのに僕がどれくらい苦労しているか、考えたことはないだろうね。
 触れ合った手の平がじわりと温かくなる。

「…くそっ」

 両手を塞げば、煙草に逃げることもできない。視線を外したままで、君は追い詰められているみたいに眉を寄せた。どうせ僕がそのうち興味をなくすとでも思っているんだろう、けれど、生憎今日の僕は君を追い詰めたい気分だった。

「隼人」

 ぎくり、と肩を揺らすのが伝わってくる。恐る恐る目が合わせられ、僕はようやく直視できた灰緑に、笑みを浮かべた。

「てめぇは…」

「ん」

 銀の髪に紛れても、耳まで赤いのはお見通しだよ。

「可愛いげなくて、怖いくらい綺麗で、性格は最悪だけどな」

 余りの言い方に、自然と眉が寄る。それくらいのことは言われ慣れてるけど。

「…そういう可愛くねぇとこも可愛いって思っちまうんだから仕方ねぇだろ」

「仕方なくないね」

 両手が使えないから、代わりに唇に噛みつく。言うに事欠いて可愛いなどと、僕が許すはずもない。

「ッつ……」

 血が滲む唇を舐めて、至近距離で睨みつける。離した手で両頬を包んで、間近で緑の瞳を覗いた。

「ボンゴレの医療技術では、その頭も目も治せないみたいだ。抉り取った方がいいかもね」

 宝石みたいに綺麗だろう、と呟いて瞼に唇を寄せる。君の背筋が冷えようと、表情が固まろうと、構うわけじゃない。ちゅ、と音を立てて唇を離し、代わりに銀の髪に触れる。こんなにも綺麗なのに、どうしてこんなに憎たらしいのか、まるで君の存在自体が僕に対する皮肉のようだ。

「怖ぇこと言うなよ」

「君が馬鹿なことを口走るからだ」

 背に回された腕に、抱き竦められる。僕が君の頭を抱いているからどちらが主導かわからないけれど、しばらくその温もりに体を預けていた。

「相変わらず、最凶最悪だぜ、てめぇは」

 下らない、と笑い飛ばすこともなく髪を撫でた。君が見ている僕は、10年前から余り変わってはいないのかもしれない。僕が触れている髪が色褪せないように、君と僕の距離が変わらないように。

「君は、変わらず馬鹿だしね」

「うるせぇ」

 鎖骨の辺りに、また痕が残される。君と寝た後はいつも肌に紅く痕跡が残されて、しばらくは消えないものだ。そうして君は僕に生きた記憶を残すけれど、銃弾に身を晒すような日々ではいつ終わりが来るとも知れない。君は、弱いから。

「君がもっと強くなれば良い」

 うなじを撫で、髪を掻き乱せば唇が降りてきた。

「皮肉か、そりゃ」

 指先に触れた鎖を引いて、僕からも口付ける。

「10年も言われ続けてるくせに、君が強くならないからね」

「成長はしてるっつの」

 まだ、足りない。君は優しすぎるから。

「何回も言わせんな」

「……ん」

 会話を終わらせるように口付けは深くなり、触れる手は、また僕に火を点けていく。絡められる舌を奪うようにして主導権を握り、濡れた熱を分け合った。

「何、またするの」

 指輪に飾られたその手が、あきらかに違う目的を持っている。

「しょーがねぇだろ、久しぶりなんだからよ…」

 否定はせず、止められないのをいいことに僕の上に圧し掛かってくる。

「君は、そうかもね」

「…てめぇがさせてくれねぇからな」

 当たり前。10年前の僕がその姿の君に許すはずもない。

「可愛いげが足りないからだよ」

 小さかった君が、いきなり育ったのを見ればむかつきもする。僕に断りもなくそうなるんだからね。あの頃の君は、仔犬のようであんなに可愛かったのに。

「てめぇはしっかり昔の俺を食べやがって…」

「ごちそうさま、と言えばいいの」

 釈然としていない顔を引き寄せて、頬を撫でる。まぁ、綺麗に育ったとは思うけど、少し育ちすぎたかもね。

「いらねぇ」

「何拗ねてるの、10年前の自分にやきもちやいてるわけでもなし」

「な…っ!妬いてねぇよ!!」

 相変わらず、こういうことは表情に良く出る。本人に赤くなっている自覚はないのだろうね。

「そういうことにしてあげてもいいけど」

 今の、君をいただくだけだし。

「なんだよ、その言い方は…」

「さぁね」

 引き付けて、君を組み敷いて立場を逆転させる。白いシーツに広がる銀色が、やけに綺麗。

「お前な…」

 文句ごと唇を塞いだ。無駄吠えは矯正しないとね。

「……ッ」

 10年前から君の眉間には深く皺が刻まれている。きっと、もっと昔から難しい顔をして生きてきたんだろう。誰かに聞いたことはあるけれど、そんなことはどうでもいい。

「隼人」

 舌に乗せ慣れた名を、呼び掛ける。そうしたときにふと和らぐ表情に、揺れる睫毛に、君には知られないように僕は見惚れていた。

 罪深き、綺麗な仔。



 僕の手で、煙から血の匂いに染め変えてあげよう。



 この手の武器を血に染め上げるように。

 

 

 

 

 


10年後獄ヒバは恋人設定

13日もあればさすがに大人雲雀さんが中学生隼人を食べちゃうかなーと
ほんとは傷だらけで血まみれなごっきゅんがいちばん食べごろなんだけど

ごっきゅんも大人雲雀さんの色気に圧倒されつつ
満更ではない気分になっちゃって自己嫌悪に陥るといい

逆に中学生雲雀に何も出来ないで帰ってくる大人獄はへたれです
可愛い隼人が勝手にこんなに育って苛立ってる雲雀さん相手に何か出来るとは思えないよ