「いい加減にしろ…っ!」
掴み掛かろうとした右手は空を切り、視界が回ったかと思うと俺は天井を、いや雲雀を見上げていた。
「それはこっちの台詞だよ。性欲処理に付き合ってあげてる僕に感謝こそすれ、噛みつこうなんて生意気だよ」
下腹部に重みを感じ気付けば、雲雀は俺の上に馬乗りになっていて、胸元にトンファーを押し付けている。
これは、まずい。いろんな意味でだ。「は…ってめぇに飼われたつもりもねぇし、俺は俺のしたいようにしてるだけだ」
強がってみても、状況は変わらない。どころか、負けん気が災いして売り言葉に買い言葉になってしまう。
「ふぅん…じゃあ、咬み殺されても文句言わない?」
「……っ誰が食われてやるかよ」
言葉とは裏腹に、背中に当たるソファは冷や汗で湿る。本物の殺気、と言うやつだ。
「君のつもりなんて知らないよ」
首筋に唇が降りてきて、かちりと金属の音がする。
恐る恐る視線を下げると、紅い唇から覗く白い歯が、銀の鎖を咥えていた。その様がえらい煽情的で、俺は思わず喉を鳴らした。「覚悟、したら?」
機嫌が良いのか悪いのか、その笑顔が怖い。
首筋に細い指が触れた瞬間、食われる、と本能が感じて目を閉じた。いつまで経っても、恐れていたような痛みはない。代わりに、唇に触れる柔らかい感触。続いて濡れた温かいそれが唇を割って侵入してきた。
体に感じる重みに、目を閉じていても瞼に映る影にも、必然的に欲情する。その体からくゆる薫りさえも、卑怯だと思う。「―――ッ!」
突然の火花が散るような痛みと血の味に目を開ければ、つまらなそうに自らの唇を舐める雲雀の姿。解放されたことに安堵と僅かなもうひとつの感情とで息を吐けば、見咎めたように柳眉が上がる。
「何、期待してたの?」
馬鹿にしたように、楽しそうに笑われる。その細い喉元がくつくつと上下するのを、俺は逃げ出したい気分で見つめていた。
「してねぇよ」
その気になってないとは言えないが、正直に言えるわけもなく、けれども体は正直で。
「君なんかに勃つわけないでしょ」
「い…ッ!!」
雲雀の尻の良い感触に元気になっていた息子をズボン越しに握り込まれ、痛みに全身がこわばる。
「君みたいに節操なしなわけじゃないし」
切り取っちゃおうか、なんて物騒な呟きを聞いて背中が冷たくなってくるが、握られたままのそこは熱いままだった。
「おい…いい加減」
離せ、と言い掛けた口が、引き攣った。
冷たい眼差しに見つめられながら、その細い指がゆっくりと上下して刺激を与えてくるのに耐えなければならない。どんな拷問だ、これは!「これぐらいも我慢できないの?」
我慢できなくなるようなことをしてるのはそっちだ、と文句を付けることもできず、俺は与えられる刺激にひたすら耐えた。
が、動けずにいる俺の上にまた雲雀がのしかかってきて、何をするかと思えば裸の胸元に舌を這わせ始める。「ちょ…っ!そりゃ反則…!」
手を掛けて止めようとすれば、痛いくらいに息子を握られて抵抗もままならない。またそれが気持ち良いときたら救いようもない。
目を細めて見れば、赤い舌が猫のようにちろちろと肌を舐めている。