先刻までの情事の余韻が残る肌に、濡れた刺激。何のつもりかわからないが、問い正せば嫌がらせとでも答えられるだろう。

「ちょ…ッよせ、ヒバリ!」

 軽く押し離せば、いつもの馬鹿にする笑みを浮かべる濡れた唇。

「僕が、君の嫌がることをやめるわけないでしょ」

「てめ…ッ!!」

 むかっときて、目の前が真っ赤になって、気付いたら体勢が逆転していた。

「嫌なら、こうやって抵抗すれば?僕に敵うとは思えないけど」

「…黙れよ」

 生意気な唇を塞いで押さえ込む。時折薄い胸が襟首を絞める手の下で苦しげに上下するが、構わない。
 目を閉じず、互いに睨み合っての口付けは暫く続き、何度か角度を変える度に誘うように首に絡む指に、俺は堕ちていった。

 

 こいつの体は甘い毒のようだ。何処までも甘美な味覚に冒されて、捕われてしまう。

「……ッ…」

 どれだけ激しく突き上げても堪えられる声は、逆に俺の弱さを浮き上がらせた。
 けれど、確かに背に立てられた爪は、抑えることのできない何かを伝えてきて、それが俺をより駆り立てる。

「ヒバリ…っ」

 呼んだ狭間に合わせられた瞳は、長い睫毛が濡れるほど情欲に揺らめいていて、普段とは全く違う表情を見せていた。

 なんだ、こいつも感じてるんじゃねぇか。

 今更ながらにそう気付いたら、止められなかった。

「いい加減…っ」

「…わりぃ」

 力の入らない腕で体を押されても、従わずに両脚を抱え上げる。体重を掛けて柔らかくきつい奥まで犯せば、背中には血の滲むほど強く食い込んだ爪。男の勲章だってのはあながち間違ってはないと、妙に冷静に納得した。

「ゃ……!」

 掠れた声が耳を刺激する。押さえた吐息にも興奮して、もっとと求めたくなる。
 大した毒薬だと、皮肉にもならない言葉が浮かんだ。そんなことを言った日には、首と胴が別れるかもしれないが。

 次第に激しくなる行為に、思考が離散していく。吸い付く肌の感触と、心地良い髪に体を寄せ、しがみつかせる。

「ん…っく…」

 噛み締めて堪える唇に、自分のそれを重ねた。広がる血の味が野生を刺激するのか、興奮が高められる。

「もっと啼けよ…ッ!」

 体を離し、繋がるところだけ犯せば、行き場のなくなった手が自分の口を塞ぐ。その両手首を捉え、頭の上で押さえ付けた。

「……君、は…っ」

 雲雀は、つくづく征服欲を刺激するやつだと思う。決して心まで支配されないその潔白さは、深く溺れさせて、抜け出せなくさせる。
 性的な快楽と、精神的な欠乏が、俺を麻痺させた。

「ん、ぅ…ッ!」

 互いに限界は近く、どちらが先に果ててもおかしくない程高ぶっていた。
 刹那、合わせた瞳が細められる。

「…隼、人…っ」

 掠れた声で確かに呟いたそれは、全身の血液が逆流するほどに衝撃的で、それに合わせるように薄く開いた唇に、触れたいという衝動を呼び起こさせた。
 腕の拘束を外し、細い体を掻き抱く。欲望のままに口付ければ、躊躇いなく絡められる舌。汗で濡れた髪に指を滑らせ、熱い吐息ごと吸い上げる。

「ん…、く…っ」

 繋がりが深くなったせいか、より快楽を表面に滲ませるようなその姿が、焼き付くように目に残る。

「…は、…ん…ッ!」

「……っ!」

 かじりと、首筋に立てられた歯。堪えきれずにそうしたのはわかるが、雲雀のことだと思えば、わざとかもしれないと唇の端が上がる。

 ただ、このまま咬み殺されてもいいか、なんて考えが浮かんでしまったことは、こいつだけには言えないと思っていた。

 

 

「…………」

 朝、開いた目の先のその姿に、俺は何も言えず、動くこともできずにいた。

 確かに昨日のあの後、動けないと遠回しにわがままを言うこいつを部屋に連れてきて、汗やら何やらで汚れてるからと風呂に入らせ、ベッドで転がってる間に俺は寝ちまったようだったが、用が済んだら雲雀は帰っちまうものだと思っていた。それが、何だこの状況は。

 マジかよ、と心の中で呟いて、そのまま対象を観察することにする。
 薄く開いた唇と、微かに漏れ聞こえる吐息がやらしい。って言うか、エロい。何故こいつはそこにいるだけでえも言われぬ色気をかもしだしているのだろう。あれか、フェロモンでも出てるのか!
 思わず喉を鳴らしてしまい、慌てて口を塞ぐ。すこぶる悪いこいつの寝起きに遭遇するのは出来る限り後に回したい。

 その前に、初めて至近距離で見た寝顔をじっくり眺めておく。

(こうしてりゃ天使の寝顔だな)

 起きれば、天使どころじゃないことは良く知ってるが、こんなに無防備な姿は初めてで、驚きと共に妙な優越感を覚えていた。

(結局嵌っちまってるな、こいつに…)

 喧嘩と言うには殺伐した対立を続けていた関係が、肌を触れ合わせるものになったのはいつだったか。殺し合うよりも深く求め合って、気付けばもう抜け出せない。
 自分もこいつも、思い込んだらしつこい性質だし、飽きっぽいわけでもないから、当分はこのまま続くのだろう。俺がこいつに見放されない限りは。

「強く、ならねーとな…」

 最強最悪のこの男と、肩を並べるくらいに。

「…ん…」

 眠り姫が殺気を放って起き出す頃だ。
 俺は色々考えた末に、成す術もなく狸寝入りすることにした。寝顔を見ていた罪悪感とちょっとの幸福感を抱きながら。

 戦慄の目覚めまで、あと―――

 

 

 

 

 


嵌りたて=えろ
えろ=長い

ふたつの法則に従っているような気がする。

ごっきゅんはへたれ
ヒバリたんは女王様
っていうのが獄ヒバ的理想です。