ブラインド・ゲーム

 

 

「なぁ、ちょっとおとなしくしててくんねぇか」

 夕方、たまたま近くを通りかかった僕は彼の部屋で小休止を取っていた。シャワーを借りた後は、その場にいるだけで、お互いに構うこともない静かな時間だった。

「何で」

 折角機嫌が悪くなかったのに、水を差されたようで自然と眉根が寄る。それを見た君が怖じ気付くのはわかるけど、だったら言い出さなければいいのに。

「いや、その…ちょっとした遊びなんだけどな、これ付けてみてくれよ」

 手にしているのは、ただの白い布に見える。何でそれを身に付けるのか、そもそも何処に付けるのか意図が読めない。

「嫌」

 目を合わせないように、顔を横向ける。阿呆顔を眺めていると、つい殴ってしまいそうになるから。

「…だよな」

 苦笑と共に溜め息をついたのが、見ないでも分かる。何を期待していたのか知らないけど、また余計なことでも企んでいたんだろう。そうそう付き合っていられるほど僕は暇じゃない。

「何する気だったの」

 一応聞くだけは聞いてみる。下らないことなら一撃を食らわせてやるだけで。

「……目隠し」

 遠慮がちに呟いたのを聞いた瞬間、僕の左手のトンファーが閃いた。鈍い感触と短い悲鳴がいっそ心地良い。

「何だって?」

 床に転がった体を一蔑し、僕はソファに座ったまま肩に足を掛けた。踏み潰してやろうかとは思うけど、まだそれはしない。

「なんでもねぇよ」

 聞き返しても素直に答えるわけがない。けれど言っても言わなくても僕の機嫌に変わりはなく。

「君にそんな趣味があるとは思わなかったよ」

「…趣味じゃねぇって」

 言い訳するのにも、目を合わせられないらしいから、顎を爪先で引き、こちらを向かせる。

「じゃあ、それを僕にさせてどうするつもりだったの」

 ぐっと言葉に詰まったのを見ると、やはり良からぬことを考えていたらしい。

「なんでも、ねぇよ」

 顔だけこちらを向いても、まだ視線は逃げていてばかりで、僕を苛つかせる。まぁいいよ、君がそのつもりなら僕にも考えがある。

「ふぅん…それじゃあ、」

 床に落ちた白い布を拾いあげ、彼の頭に巻き付けると、後頭部で結び目を作る。

「それをしたまま僕を満足させたら許してあげる」

「な…ッ!」

 他愛もない悪戯。でも君には十分な嫌がらせになるからね。

「どういう意味だよ…」

 困惑した表情も、目が隠れていては良く見えない。けれど、君が僕に逆らえないのは知ってるから、僕が外すまではきっとそのまま。

「どうとでも。好きにしてよ」

 素足でぐりぐりと頭を踏んでやれば、足首を捕えられた。

「好きに、な…」

 スイッチが入ったらしい。表情が読めなくても気配でわかる。
 捕えた足に、確かめるように頬を寄せ、唇を押し付け、足の裏を舐められる。

「――ッ」

 退廃的な光景と濡れた感触に、背筋に痺れが走った。

 湯上がりの柔らかくなった皮膚を舌が滑り、足の、指を舐め上げる。口に含まれ、一本一本を吸われると、自然に脚が震えた。
 この男は、僕の無茶な要求に従うなんてプライドがないのかと思えば、下らないことで張り合ってきて、単純なくせに理解できない。今も、足の甲に口付けたりして、まるで犬のように。

「…ヒバリ」

 怖じ気付いたりはしないけれど、瞳の色が読めないだけで何をされるかが分からない。体に手を添えながら覆い被さってくる影が、妙に重たかった。
 頬を捕えられ、探るような口付けを受ける。舌を絡められてからは、いつものように深く唇を合わせ、その間に服が緩められていく。口付けの間はいつも手探りだから変わらないはずが、今は何か違う。

「…ふ、…ん…」

 鼻に掛かった吐息が洩れる。息も閉じ込めるように容赦ない口付けは続き、舌先が痺れてくるようだった。

「…は…」

 ようやく唇が離れて、肺に空気を送り込む。急激な呼吸に胸が少し痛んだ。けれど、休む間もなく首筋に唇が押し当てられる。
 ちりちりと焼けるような痛み。いつも残すなと言ってるのに、君は印を付けたがった。

「そこは、駄目だよ…」

 鎖骨の窪んだところは、シャツの襟を緩めただけで見えてしまう。

「何処だか、見えねぇよ」

 意地悪な言い方をする顔を引き離そうと髪に手を掛けると、手首を強く掴まれた。

「俺の好きにしていいんだろ?」

 そのまま強引に手を頭の上で押さえられ、思い通りにならない歯痒さに僕は思わず唇を噛んだ。

「君、生意気だよ」

「そりゃどーも」

 皮肉は通じないようで、肌蹴たシャツの内側を手が滑り、胸元に唇が降りてくる。探るように辿る唇はやがて胸の先端を見付け、そこを口に含まれてしまう。

「――っ」

 肌に触れる髪も擽ったい。吸われたりする内にそこが敏感になっていくが、舌先で押し潰すように舐められると、それだけで刺激が滲む。その間にも開いてる手に衣服が緩められ、冷たい金属を纏う手に侵入を赦した。

「ぃ…ッ!」

 歯を立てられ、思わず体が跳ねた。甘噛みなんてものじゃなく、今のは明らかに攻撃だ。
 睨みつけても僕の視線など感じないのだろう。緩い刺激を与えてくるのをやめない。性質の悪い男だ。

「見えてない奴に好き勝手されてるのはどんな気分だ、ヒバリ」

 手を解放され、両手で探すように頬に触れられた。

「好きにしろと言ったのは僕だよ。君のすることなんてたかが知れてる」

「かもな。じゃ、好きに犯すぜ」

 触れ合う唇は甘く、しっとりと濡れていた。