■白濁の骨(2)■
島田さんの腕が後ろから伸びてくる。骨ばった指がファスナーを下ろし、下着の中から僕のものを取り出した。
「……っ……」
他人にそこを握られたのは初めてだった。自分のものではない親指が、ゆっくりと、でも迷いなく、先端の窪みをなぞる。
「楽にしてろよ。気持ち悪かったら目をつぶっていていいからな」
落ち着いた声が、後ろから聞こえた。胸に身体を預けるように、身体が軽く後ろに引き寄せられる。島田さんの声が振動になって、僕の背中から握られている部分にまで伝わる。
恥かしさと、理由の分からない罪悪感で、頭の中がぐらぐらする。
「んっ……」
息があがる。その息の音を聞かれるのが恥ずかしくて、でも恥ずかしいと思っていることも知られたくなくて、僕は必死に息を殺した。
後ろから抱きかかえられているから、僕に見えるのは島田さんの手だけだ。
「あ……」
島田さんの骨ばった指が、僕の溢れ出るもので汚れていく。蛍光灯の明りの下で、白く血の気のない指が、ぬらぬらと光る。
肉の薄い手のひらが、包み込むように擦り上げる。
時に静かに、時に激しく、命を振り絞るように駒を指すあの指を、僕の恥ずかしい液体が穢している。
その事実に、僕はひどく興奮した。
「あ、や……島田さ……っ……」
手の置き場がなくて、島田さんの膝に縋りつく。
とめどなく溢れる液体が、島田さんの指から手のひらを伝い、シャツから覗く白く細い手首の骨に滴る。その様子に、僕の喉が鳴る。
──なんだ、これ……っ──
擦られる直接的な刺激に、頭が真っ白になる。その白い世界の中に、島田さんの骨ばった指が、手が、手首が浮かぶ。骨のイメージはそのまま、島田さんの鎖骨、肩甲骨へとつながっていく。着替えを手伝った時に見たことがある、細い体に最低限しっかりとついた筋肉、そしてそこから浮き出る白い骨。そのひとつひとつが、自分の液体に濡れていく。イメージは留まらず、肋骨、腰骨へと続き、そして──
「……っ……んっ!……」
最期を促すように強く擦り上げられ、白い世界が弾けた。
目の前にある島田さんの手が、僕を握ったまま、白濁した液体に濡れていた。
「あー、ティッシュ、間に合わなかったか」
背後からぐいっと腕が延びて、棚の上のボックスティッシュを引き寄せる。
僕は慌てて、自分のものを拭いた。
島田さんが立ち上がる気配がした。
「ちょっと、手、洗ってくる」
下着とズボンを直しながら、僕の頭は混乱したままだった。
──さっき僕は、何を想像した?──
どうしようもない罪悪感が襲いかかる。なんとか座りなおしたところへ、島田さんが戻ってきた。
「あの、お手数おかけしました……」
自分でも呆れるほど、小さな声しか出ない。
島田さんは穏やかに、でも少し照れくさそうに笑った。
「まあ、気にすんなよ。……忘れてもいいぞ」
忘れることなんてできるはずがない。そう言おうとした僕の肩を、島田さんの手が優しくぽんぽんと叩いた。
肩に乗せられた手から繋がる、シャツの袖口の中に、白い手首の骨が見えた。
僕は自分の喉が、ごくりと鳴る音を聞いた。
END
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