■子供の本気(3)■
「ん……はっ……あ」
ビジネスホテルの狭い部屋に、幼い喘ぎ声が密やかに漏れる。
ボタンを外されたシャツをはだけ、服部の舌が小さな小さな胸の突起をねっとりと舐める。
「あ、ん……」
びくりと跳ねる小さな身体を見下ろしながら、服部がそっと半ズボンに手をかけた。ホックを外しファスナーを下ろし、小さな下着ごと一気に脚から抜き取る。
「やっ……!」
性器を──しかも本来の自分のものではないそれを見られる、その恥ずかしさに顔が赤くなる。なのに、服部の動きから目が離せない。
服部が、未熟な性器をそっと指で擦り、口に含んだ。凹凸の少ないそれを、舌で包むように舐め上げる。それはほとんど反応せず、だが舌が動くたびに、コナンの身体が震える。その動きは確かに覚えのある快楽を脳に伝え、だが逃げ場の無いそれはただただ体内に渦巻くばかりだ。
「あ、や、はっとり……っ」
行き場のない熱が苦しくて、涙が滲む。
「ちょお、待っててな」
頬にキスをひとつ残し、服部はベッドから離れた。手早く服を脱ぎ捨てる、その浅黒く引き締まった体に、コナンの喉が鳴る。すぐに戻ったその手には、タオルとローションがあった。タオルはおそらくホテルの備え付け、ローションは服部が準備したものだろう。
服部は手早く、腰の下にタオルを敷いた。ローションを手に取り、温めながら指を濡らす。
指が、そっと奥に触れた。
「ん……」
ゆるゆるとそこを解すように、指が入口の周りに触れる。その間にも、体内に渦巻く熱がコナンの脳を焼く。
「……平気か?」
服部が心配そうに、だが明らかに情欲を含んだ目で、コナンの顔を伺う。
逃げ場のない快楽が苦しくて涙が止まらない。それでも精一杯、コナンは笑った。
「大丈夫だから……さっさと……いれ……ろよ」
その言葉に、温かい質量がゆっくりと侵入してくる。たったの指一本、それが子供の身体で受け入れられる限界だ。
「んッ……ア……」
優しく内壁を擦られる、その感覚が、かつて経験した快楽の信号を伝える。服部の指が優しくそこを刺激する。
「あ、い……い……」
脳が快楽を捉え、白く霞む。びりびりとした刺激が電流のように背中を駆け上がる。
「あ、あ、はっとり……っ」
コナンは精一杯、腕を伸ばした。服部が指をいれたまま、身体をずり上げた。鍛えた胸が荒く上下している。熱を孕んだ瞳と切なそうな表情で熱い息を吐く、それを見た瞬間、コナンの脳は天国へと飛んだ。
「あ、いく、はっとり、……!」
必死に服部の腕に縋り、コナンはびくびくと身体を震わせた。目が焦点を失う。
工藤、と囁く低い声が聞こえ、熱い身体が覆いかぶさる。
やがてゆっくりと、コナンの目は焦点を取り戻した。服部がコナンを見下ろしている。その顔は、どこか決まりが悪そうだ。
「あ……はっとり……?」
上半身を起こし、手を伸ばそうとして、コナンは下腹部の違和感に気付いた。いくら脳内が飛ぼうとも、自分の性器は何も吐き出しはしないはずだ。それなのに、腹の上が白濁した液で汚れている。
「……スマン」
「え……これって……」
「言うとくけど、俺のせいだけやないからな! 工藤があんまりエロい顔でイくから……まあ、俺も油断しとったけど……」
「え、じゃあこれ、お前の?」
「ああもう、スマンて。すぐ拭くから……」
慌ててタオルを手に取る服部の腕を、コナンは掴んだ。
「服部……」
「せやから、スマンて……」
「……今、一緒にいったんだよな……それ、嬉しいけど悔しい……」
「は?」
コナンは泣きそうな顔で笑った。
「一緒にいけたのは嬉しいけど、それに気づかなかったのが悔しい」
「……工藤……お前なあ……」
服部はニヤリと笑った。
「なら、もう一度、一緒にいくか?」
「え?」
服部はコナンの身体をころんと後ろに倒し、両膝をしっかりと揃えて持ち上げた。
「おい、何するんだよ!?」
「工藤、脚、しっかり閉じとけや」
訳も分からずコナンは腿が開かないよう力をいれた。棒のような子供の脚は、ぴったりと閉じたつもりでも、間に隙間ができる。
持ち上げられた膝の向こう側で、服部がその部分を覗き込んでいる。やがて、その隙間に何かが押し当てられた。
「入れるで、工藤」
「え、入れるって、え?……あ、なにして……っ!?」
ずるりとした感触が股間を伝った。
「あ、なんだよ……これ……っ」
熱いものが、性器の裏に触れる。後ろの孔から会陰、袋、性器までを余すところなく擦り上げる。
「あ、あ、そこ、や……っ」
会陰が押され、中が勝手に蠢く。それはかつて一度だけ、新一の身体で平次を受け入れた、甘い感覚に似ていた。
服部の身体が次第に覆いかぶさり、閉じた膝が胸につくほど折り曲げられる。熱く硬く滑る服部の雄が、激しく性器の裏側を擦りあげる。服部の欲情した顔がコナンを見下ろす。滴る汗が、コナンの顔を濡らす。
──ああ、今、俺は──
快楽に翻弄されながら、ぼんやりとコナンは思った。
──俺は、服部に、抱かれているんだ──
そう思った瞬間、快楽の波が一気に脳を焼いた。
「あ、あ……ぁ」
名前を呼ぶ間も無く、コナンの身体はそのままベッドに堕ちた。同時に服部が呻き声を上げ、コナンの腹に液を撒き散らす。
意識を失った小さな身体を服部はそっと抱き締めた。
「……まったく、たまらんわ」
本人は気付いているのだろうか。小学生の身体を持つこの探偵が、抱かれている時に放つ色香は子供のものではない。それは十七歳の、工藤新一のものだ。
眠るコナンの額にそっと口づけ、服部は後始末のために洗面所へと向かった。
ゆっくりと意識が浮上する。
目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。数秒の後、ここがビジネスホテルで、隣で寝ている男が服部であることを思い出す。
先刻までの言動を思い出し、今更のようにコナンは赤面した。情交の跡は可能な限り片付けられ、コナン自身は新しい下着とパジャマを着せられている。パジャマの下、下腹部にそっと触れてみるが、液体の痕跡は無かった。
「なんや……工藤、起きたんか」
隣でもぞもぞと服部が動く。ちらりと見た時計は深夜を差している。
「今日はこのまま寝たらええ。後始末はしといたから。シャワーは明日の朝でええやろ」
ふわあ、と欠伸をし、服部はベッドの中でコナンを引き寄せた。
「……服部」
「ん……なんや?」
「今日は……ありがとうな」
「なんや、珍しくしおらしいな」
「……珍しくは余計だ」
むくれるコナンに苦笑し、服部はその小さな身体を包み込むように抱き締めた。
「礼を言うことちゃうやろ。恋人と、お茶飲んで買い物して映画見て晩飯食うて、最後にセックス。当たり前のことや。どっちが奢ったわけでなし」
「……なあ、服部。本当は、無理にセックスなんてしなくていいんだ。この身体じゃどうしたって色々面倒がある。俺はただ、お前と楽しく過ごせたらそれでいいんだ、本当は」
「工藤?」
ベッドの中で、コナンは自嘲気味に笑った。
「……って、そう言えたら、楽なんだろうな。でも実際には、やり方はどうあれお前とセックスしたいし、するからにはお前に気持ちよくなって欲しい。……どうしてなんだろうな」
服部はコナンの髪をそっと撫でた。
「どうしてって……そら、工藤が男で、俺のこと好きやからやろ。やりたいのも気持ちよくなって欲しいのも、当たり前の感情や」
「……そうか?」
「そうやろ。俺かて、本当はどうしても工藤を抱きたいわけやない。ただ工藤が好きやから、一緒に楽しく過ごして、あとは一時でもお前が『工藤新一』として過ごせるならそれでええ。それができるのが俺だけやっていうんなら、そらもう男冥利に尽きるわ」
「……」
「って言えたら、カッコええんやろうけどな。でも実際は、俺は工藤に気持ちよくなって欲しいし、工藤が感じまくってるエロい顔も見たい……って、おい痛いやないか、布団の中で殴るなや」
「……うるさい」
「工藤、好きやで」
服部の唇が、そっとコナンに重なった。
「俺も……好きだ」
コナンが服部に唇を重ねた。
「なあ、服部。寝る前に……名前を呼んでくれ」
「名前って……新一?」
「……そっちじゃなくて……」
ああ、と服部は納得した。明日、この部屋を出たら、工藤はまた江戸川コナンとして生きていくのだ。
服部はそっと、工藤の手に指を絡めた。
「おやすみ。工藤」
「……ああ、おやすみ、服部」
工藤は恋人の指を握り返し、そうしてゆっくりと目を閉じた。
END
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