■My reason to be.(1)■


 いつだったかずいぶん昔、寝物語に尋ねられたことがある。
『なあ次元、お前なんで俺の相棒になったの?』
 
 
 
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 ルパンのアジトは世界中にある。大都会のど真ん中にも、鄙びた田舎町にも、太陽が降り注ぎ青い海がきらめくリゾート地にも、深い雪に抱かれた極寒の高山にも。それぞれの用途に応じて設備は豪華に、あるいはあえて質素に整えられている。
 そんな数多いアジトの中の一つ。深い森を抜けた先、小高い丘の小さな一軒家。
 ルパンは大きな仕事が終わると、稀にこのアジトを訪れた。リゾート地で英気を養い、大都会で刺激的な日々を過ごし、田園風景の中で緑と戯れ、それでも次の獲物が決まらない時、のんびりと果報を寝て待つのにちょうどいいのだと、ルパンは言った。
 仕事が終われば五ェ門は己の目的のために去っていく。不二子は仕事が終わる前に姿を消すことも多い。たまにリゾート地などへ同行することはあっても、次の獲物が決まらなければ一緒にいる理由は無い。そうして転々と移動しながら丘の上の一軒家にアジトを構える頃には、ルパンの同行者は相棒の次元だけになる。
 もちろん、果報を寝て待つためのアジトは他にもある。いつも同じアジトを使うわけではないし、そんな危険は冒さない。ただ比較的、ルパンはそのアジトを使うことが多かった。
 
 
 
 そんなアジトでの、ある夜のこと。
「なあ次元、お前なんで俺の相棒になったの?」
「ああ?」
 狭いパイプベッドの上で俯せに気怠く煙草を咥えたまま、次元は目線だけで隣に寝そべる男を見た。
「何年前の話だよ。相棒になれ、って言ったのは、ルパン、お前じゃねえか」
「それは俺様の都合。そうじゃなくってさ、次元が俺の相棒になった理由が知りたいなー、なんて」
 次元は呆れ顔で、ルパンの顔にふーっと煙を吹きかけた。
「うわっ、何すんだよっ」
「お前こそなにを今更、面倒くせえ女みたいなこと言ってんだ」
 灯りを消した二階の寝室。カーテンの無い窓から差し込む月明かりが、シーツの上に男二人の影を作る。
「面倒くせえ女、って何だよ」
 大げさにぷーっとむくれてみせるルパンに、次元は薄く笑った。
「てめえの質問は、女の『私のどこが好き?』と同じだ、って言ってんだよ」
 薄い唇から吐き出される煙が白い影となり、男の影の上を漂う。
「ふーん、『どこが好き』、ねえ?」
 ルパンの指が、次元の背中をつっと撫でる。全ての古傷の上に丁寧に散らされた赤い花弁、今夜つけたばかりのそれを、器用な指が順に辿る。
 思わず漏れた甘い声を喉の奥で殺し、次元はゆっくりと煙を吸い込んだ。くすくすと楽しそうに笑う声が、次元の耳を揺らす。
「俺様のどこが好きか、それはそれで聞いてみたいけど」
 頸部から肩骨へ、そこから胸の裏側を辿って腰骨へ、指がなぞったその痕を唇が追いかける。腰の古傷をぺろりと舐められて、次元の身体が堪えきれず跳ねる。
「っ……ぁ……」
 俯せたままの骨ばった背中に、ルパンは自分の身体を重ね、シーツに押し付けた。耳元に唇を寄せ、片手で器用に薄い双丘を割る。先ほどまでルパンを受け入れていた、その入り口に指をあてる。柔らかく蕩けたそこが誘い込むように蠢く。
「おい、待て……っ……煙草の一本くらい吸わせろ……っ……ぁ……」
「質問に答えろよ、次元」
 笑いながら耳元で囁き、そのまま耳朶を食むと、次元の身体が面白いように跳ねた。シーツに密着した部分が熱くなり、思わず腰が浮き上がる。その動きはまるで、ルパンの指を自ら咥えこもうとするかのようだ。
「クソ……ッ!」
 意地で最後まで吸いきった煙草を灰皿に押し付け、次元は首だけをルパンの方に向けた。僅かに潤んだ目で、それでも挑発するように次元は口の端を上げて笑った。
「お前とのセックスが好かったからだよ。そう思っておけば気分がいいだろ?」
「嬉しいこと言ってくれるねえ」
 でれっとルパンは笑ってみせた。その瞳の奥で、獲物を追いつめる光が揺れている。
「でも順序が違うぜ、次元。俺たちがセックスをしたのはお前が相棒になった後だ」
 チッ、と次元が小さく舌打ちをした。元より、この程度で誤魔化せるとは思っていない。
 ルパンの目が楽しそうに光っている。
──女よりめんどくせえ──と次元は思った。ルパンの興味はもはや、質問の答えそのものからは逸れている。ただ次元の真の答えを盗み出す、そのスリルに夢中になっている。そして狙った獲物は逃さない、それがルパンと言う男だ。
「……!」
 不意に、ルパンが次元の腕を引いた。強引に仰向けにされ、シーツに腕を押さえつけられる。月明かりの逆光中、楽しそうに獲物を狙う瞳が次元を射抜く。次元の奥がぞわりと震える。
 首筋から胸、下腹へと手を這わせながら、ルパンが甘く囁く。
「言えよ、次元」
 肌が熱くなるのを感じながら、次元は諦めとともに溜息をついた。ルパン相手に逃げ切れるはずがない。それは次元が一番良く知っている。そもそも、相棒になった理由など、隠すような答えでは無い。ただその答えがあまりにも平凡かつ現実的で──ルパン流に言うならロマンの欠片も無い答えなので──ベッドの中で言うのが恥ずかしかっただけだ。
「わかったわかった、言うよ。ただし、面白れえ話じゃねえからな」
 わくわくしながら答えを待つルパンに心の中で悪りぃと謝りながら、次元は自虐的に唇の端を吊り上げた。
「宿無しで文無しの俺が、世界一の大泥棒に誘われた。しかも雇われじゃなく相棒だ。となれば食いっぱぐれる心配は少ねえし、雨露も凌げる。こんな破格の条件、飛びつかねえ方がおかしいだろ」
 わざと皮肉っぽく笑いながら、次元はそっとルパンの様子を伺った。ルパンが望む答えはきっと「スリルがあって楽しそうだ」とか「お前となら退屈しなそうだ」とか──つまりルパンが泥棒である理由と同じ答えだろう。次元のつまらない答えにがっかりするか、もしかしたら興が冷めたとばかりにベッドから出て行ってしまうか──だが予想に反して、ルパンはきょとんとした顔をしていた。
「……おい、ルパン、俺は嘘はついてねえぞ。お前が聞きてえって言ったんだからな」
「ああ、うん、嘘じゃねえのは分かるし、っていうかその理由は最初っから知ってたし」
「はあ!?」
「答えは間違ってねえけど、俺が聞きたかったのはその答えじゃねえっていうか……あれ、俺、お前に何を聞いてたんだっけ?」
 きょとんとした顔のまま、ルパンが唇を近づける。
「知るか!!」
 ベッドに組み敷かれた体勢のまま、次元は怒鳴った。その怒鳴り声ごと、唇が塞がれる。
「んん!……っ……ん……」
 ルパンの舌が次元の声を絡め取る。怒鳴り声はあっという間に封じ込まれ、代わりに甘い声が溢れる。
「……ん……あ……このやろ……ッ」
 ルパンの手が下腹部を辿り、熱を持つその部分を優しく握り込む。
「ひッ……ア……」
 先程からさんざん焦らされていたそこから、あっと言う間に蜜が溢れ出す。ひくひくと待ち望む孔に指が差し込まれ、待ち望む場所が擦られる。
「あ、あ……」
 今夜、既に一度ルパンのものを受け入れている内壁は熱く蕩け、より奥へと刺激を導く。
「あ、ルパ……痛っ!」
 不意に左胸に歯を立てられ、次元は悲鳴をあげた。その痛みが去る間もなく、熱い舌がねっとりと胸を舐める。
「俺の勘だと、この下に答えがある気がするんだよなあ」
 僅かに息を荒げながら、ルパンが左胸の尖りから中央へと舌を這わせる。そのまま鼓動を確かめるように、胸の中央に耳をあてる。
「うん、動いてるよな」
「……あたりまえ……だろ……っ……動いてなきゃ、てめえのやってることは屍姦……だ……っ」
 荒い息を吐きながら、次元がルパンを睨んだ。月光を映す、その黒い瞳は情欲に濡れている。指を咥えこんだ孔が、早く、と蠢く。
 ルパンが指を引き抜いた。次元の脚を抱え上げ、自分の猛ったモノをあてがう。期待と緊張に、次元の身体がびくりと硬直する。ルパンは次元の額にそっと口づけた。
「愛してるぜ、次元」
 次元が幸せそうに笑った。
「……っ……お前が言うと……なんで……嘘くさく聞こえるんだろう……な……っ」
「ひでえなぁ、俺様は嘘なんかつかないぜ?」
「それが……嘘くせえ……ってんだよ」
 途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、次元の腕がルパンを引き寄せた。
「愛してるぜ、ルパン」
 ルパンは幸せそうに笑った。
「お前の言葉は、全部真実に聞こえるよ、次元」
 唇を重ね、ルパンは次元を貫いた。
 絡みつく内壁を突き上げる。次元の口から甘い悲鳴が溢れる。それは小さな死に向かう断末魔の悲鳴だ。
 達する直前、ルパンはもう一度、次元の耳元で真実の言葉を囁いた。



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