■依存症(2)■
「あ……くっ……ん……」
シーツの上で、サイトーの身体が絶え間なく跳ねる。
その全身を覆う柔らかい筋肉を、パズは指と唇と舌で貪った。汗ばむ肌がしっとりと手に吸い付く。
胸から腰、太腿を辿り、立ち上っているそれに舌を這わせると、サイトーが顔を背けるように枕を掴んだ。
「サイトー」
パズの声に、サイトーが潤んだ目線をこちらに向ける。パズはにやりと笑った。
「こっち見てろよ」
息を呑み、唇を噛みしめるその顔を確かめて、パズはサイトーを口に含んだ。
「ん……っ……!」
跳ねる腰を抑えつけ、裏側を舐め、溢れる液体を舌で掬い取る。独特の生臭さが口に広がる。味覚素子を切ることもできるが、そんなことはしたくなかった。この味は俺の物だと、俺しか知らないものだと、そう思うとパズの中で何かが震えた。
「あ……」
顔をあげると、真っ赤な顔のサイトーと視線がぶつかった。その黒い瞳をみつめたまま、パズはそっと、後ろの窪みに指を滑らせた。
「……ん……くっ……」
狭いそこに、オイルを使ってゆっくりと指を埋めていく。
サイトーが苦しそうに目をつぶり、眉根をよせる。それを宥めるように、パズは右眼の縁に舌を滑らせた。
「ん……ん……っ」
サイトーの中がきつく、パズの指を締め付ける。オイルを充分に中に塗りこめて、パズは指を引き抜いた。
「サイトー」
耳元で名前を呼ぶと、サイトーが薄く目を開けた。熱を孕んだ腕がパズの首に絡みつく。その腕の内側にそっと口づけ、パズは自分をサイトーの中に突き入れた。
「あっ……あ……」
熱いそこが、容赦なくパズを締め付ける。喉を仰け反らせながら、生身のそこがパズを飲みこんでいく。
目の前の白い喉に喰らいつくと、サイトーの口から小さな呻きが漏れた。その、悲鳴にも似た声に含まれる僅かな甘さに浸りながら、パズはその喉元に舌を這わせた。
無意識に逃れようとサイトーが身を捩る。その身体を押さえつけ、軽く歯を立てる。
サイトーの身体がぶるりと震えた。パズの右肩を掴む手に力が篭り、同時にパズ自身を飲み込んでいる部分が痙攣するように収縮する。
「く……っ」
その熱くきつい締め付けに、パズは思わず呻きを漏らした。
「サイトー、ちょっと緩めろ、これじゃあ動けない」
腰に絡みつく白い太腿を撫で上げながら囁くと、ベッドの上で黒い瞳が正面からパズを睨んだ。
「知るかよ……っ……テメエで何とかしろ……っ!」
言葉を発するその振動が、繋がっている部分からパズに伝わる。
潤んでなお光を失わない片眼に射抜かれて、パズの背中をぞくぞくとした快感が走り抜ける。
ああ、この眼だ。スコープ越しに標的を見つめるあの瞳が、今は自分だけを見ている。
──たまらねえな──
パズは薄く笑うと、サイトーの唇を強引に塞いだ。
「……んっ……!」
唇をこじ開け、肉厚な舌を絡め取る。蹂躙するように口腔内を舐めてやると、熱い吐息と共にサイトーの舌が追ってくる。
「ふ……っん……」
吐息が徐々に甘くなり、それと同時にサイトーの身体が柔らかくなっていく。夢中で舌を追っていたサイトーの腕が、無意識にパズの頭を引き寄せた。
舌を絡めたまま、パズはサイトーの太腿を抱え上げた。そのまま一気に、より深い場所へと自身を押し込む。
「ひ……っ……!」
サイトーの喉から悲鳴が漏れた。奥の部分がパズを銜え込んだまま、びくびくと痙攣する。黒い瞳が焦点を失う。
「……あ、あ……」
パズの目の前で、サイトーの背がしなる。筋肉を硬直させ、声にならない声で叫び、やがてサイトーの身体はゆっくりとベッドに沈んだ。
浅い呼吸を繰り返すその顔を眺めながら、パズはサイトーの下腹部に手を伸ばした。
立ち上がったまま、弾けることなく密を零すそれをそっと撫でる。
「……あ……」
焦点を取り戻したサイトーの眼が、ゆっくりとパズを捉えた。にやにやと笑うその顔を見た瞬間、サイトーは腕で自分の顔を覆った。隠し切れない耳が真っ赤になっている。
「馬鹿野郎……っ! このスケコマシがっ……!」
「何とかしろ、と言ったのはお前だろ」
ゆっくりと腰を引くと、サイトーの身体がぶるりと震える。
「あ……んっ」
声は甘さだけを含み、馴染んだそこがパズを引き留めるように絡みつく。突き入れると、もっとと引き込むように吸い付いてくる。
柔らかく溶けたそこを夢中で擦り上げる。そのたびに、サイトーの口から蕩けた喘ぎが漏れる。
互いの世界の中に、互いしかいないこの瞬間。
繋がっているのは電脳ではなく肉体で、なのに電脳よりずっと深い場所が確かに繋がっている。
サイトーが甘い悲鳴をあげ、パズをきつく包み込んだ。
頭の中が真っ白になる瞬間、パズは自分の中で、あの時と同じように何かが震えるのを感じた。
ベッドサイドに座り、パズは煙草を咥えた。隣ではサイトーがうつぶせになり眠っている。と言うか、気を失っている。
煙草に火をつけ、深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。サイトーが目を覚ます気配はない。
パズは煙草を灰皿に置き、サイトーの首筋に触れた。汗が冷え、肌はしっとりと冷たい。
インタフェースの縁を、パズはそっと指先で辿った。
ここにプラグを差し込んで、奥深くまで溶け合うほど潜って、そうして繋がるのはいったいどの部分なのだろう。身体で繋がるのとは全く別の場所なのだろうか。そこに、自分の知っているサイトーはいるのだろうか。
パズは煙草をもう一口だけ吸い、揉み消した。ベッドに潜り込み、サイトーを背中から抱きしめる。皮膚を通して、サイトーの鼓動が伝わってくる。
背中の少し左、心臓の裏側にそっと唇をつけ、パズはそのまま目を閉じた。
END
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