■はじめの一歩でFSS妄想 凶竜と死神(7)■
ミーティングルームには、既に全ての騎士とファティマが集まっていた。
入り口近くの壁に沢村が凭れている。間柴は黙って沢村の隣に立った。沢村も、ちらりと間柴を見ただけで、何も言わない。
中央のスクリーンに、近郊の地図と、偵察用飛行カメラの映像が映し出される。砂漠の中、運搬用トレーラーが数台、無残に破壊されている。その向こう、砂埃の中に複数のMHが映っている。
スクリーンの脇で、会長の杖が大きな音をたてて床を突いた。
「王宮からの要請じゃ。荷運びのキャラバンが襲われた。敵は騎士崩れの盗賊団」
映像が切り替わり、MHが大きく映し出される。
「我が騎士団への要請は盗賊団の殲滅。ただし、首領だけは生け捕りが条件じゃ」
「理由は?」
鷹村が問う。スクリーンに、一人の男の顔が映し出された。
「こやつは隣国の騎士団の将校だった。隣国で裁判にかける必要がある」
椅子にふんぞり返り、鷹村が面倒くさそうに言った。
「将校が盗賊団ってことは、要するに何かやらかして脱走したんだろ? 裁判を受けてもどうせ処刑じゃねえか。今殺したって変わりねえだろうが」
会長がじろりと鷹村を睨んだ。
「これは王宮からの要請じゃ。外交が絡んでおる」
「へいへい」
会長の杖が、再び床を突いた。先ほどより大きな音が、スクリーンを震わせる。
「鷹村、指揮を取れ」
「了解」
鷹村が椅子から立ち上がる。その堂々たる体躯と風貌に、騎士とファティマは高揚感に沸き立つ。
「全機出撃!」
号令の後、鷹村はにやりと笑った。
「昼飯までに終わらせるぞ」
MHの格納庫で、騎士たちは慌しく出撃準備をした。昨日までの戦禍は、優秀な整備工たちの手によってメンテナンス済みだ。
沢村のMHのステップを登り、間柴はファティマ用コクピットを外側から覗き込んだ。知らない機器はない。全て操作可能だ。
「いけるか?」
沢村の声に、間柴は短く「ああ」と返事をした。
「間柴、一度降りて来い」
ステップを途中まで降りると、沢村が下から手を伸ばした。
「?」
意図が分からずそのまま降りる間柴の手を、沢村が掴んだ。
「手を出せ」
そこでようやく間柴は理解した。この騎士は、ファティマが降りる時にわざわざ手を貸そうとしたのだ。
「いらねえよ、ステップも降りられねえファティマなんているか!」
「そういう問題じゃねえんだよ」
強引に手を取り、沢村は間柴を床に降ろした。自然と手を掴まれたまま、間柴は沢村の前に立った。
──ああ、そうか──
間柴はにやりと嗤った。
「生きているてめえの顔を見るのは、これで最後だな。俺を降ろすなら、今のうちだぜ」
沢村もまた、にたりと嗤った。
「言ったはずだ、お前が死のうが生きようが、俺は死なねえ」
掴まれた手から、沢村の体温が伝わる。それは生きている人間のあたたかさだ。
その手を振りほどき、もう一度嗤い、間柴はコクピットへと載りこんだ。
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