■告白(6)■
かろうじてベッドまで行き、宮田は木村を押し倒した。ベッドがギシリと沈むその音に、木村が僅かに緊張し息を詰める。
「ん……っ」
宮田は乱暴に唇を重ねた。境目を舌でなぞり、僅かに開いたそこから強引に舌を差し込む。
「……んーーッ!」
木村の悲鳴のような声が、喉の奥から聞こえる。それに構わず、宮田は舌を絡めとった。熱い口腔内に侵入し、掻き回す。
もう抑えることはできなかった。腕の中に、気が狂いそうになるほど欲しかった男がいる。
「きむら……さん……」
キスの合間に、名前を呼ぶ。これが現実であることを確かめるように、口腔内を貪る。上顎を舐めると、木村の身体が震えた。
「……っ……ふ……みや……た……ぁ」
木村の手が頭にまわり、髪の毛の中に差し入れられた。そのまま強く引き寄せられる。その強さが、宮田に伝えてくる。これは現実だと。夢ではないと。
絡み合う舌が熱くて溶けそうだ。木村の舌が、宮田を追う。唾液が零れ、口の端を流れ落ちる。
唇を離さないまま、宮田は木村の首筋に触れた。木村の身体がびくりと震える。シャツのボタンを外し、手を差し入れて胸に触れる。しっとりとした肌と、弾力のある筋肉が手に吸い付く。
「……っ」
身体に触れるたびに、木村が身をよじる。
宮田は身体を起こし、自分のシャツを脱ぎ捨てた。木村のシャツのボタンを全て外し、強引に引き抜く。
「あ……」
目の前に晒された白い身体に、宮田の喉がごくりと鳴った。
「……そんなに……見るなよっ……珍しくもねえだろっ」
少し顔を赤らめてそっぽを向く、その首筋に宮田は喰らいついた。
「痛っ……あ……」
歯を立て、舌で舐め上げ、きつく吸い付く。肌に残る赤い痕が、宮田を更に煽る。首筋から肩口、胸、腹、全ての場所に印をつけていく。そのたびに、木村の口から声が漏れる。痛みの中にも甘さを含むその声が、宮田の理性を溶かしていく。
宮田の手が、木村のズボンに触れた。そこが熱を持っていることが、布地の上からでも分かる。この人も興奮しているのだと──そう思った瞬間、宮田は木村のベルトを乱暴に解いた。
「ちょっと待って……自分でするから……っ」
木村の制止も聞かず、宮田は力任せにズボンと下着を引き抜いた。
「や……」
立ち上ったそれを視線に晒され、木村が反射的に横を向く。その足を捉えて開かせ、迷いなく宮田はそれを咥えた。
「え? ば、馬鹿っ、やめろって、そんなとこ……ひっ」
最後の言葉は甘い悲鳴にかき消された。
指で幹を擦り、裏側の境目を舐め上げる。木村の腰がびくびくと跳ねる。感じていることがダイレクトに伝わり、宮田の中に悦びが込み上げる。だらだらと流れる先走りを宮田は舌で掬い取った。
「……っ……く……」
苦しそうな声に気付き、宮田は顔をあげた。
木村は、自分の手で口を抑えていた。顔を真っ赤にして、涙の滲む目でこちらを見ている。必死に声を堪えるその表情に、宮田の中がぞくりと熱くなった。
「木村さん……」
宮田は手での刺激をやめないまま、木村の顔を覗き込んだ。
「……気持ち……いいですか?」
声を殺したまま、木村はこくこくと頷いた。快感に潤んだその目が、宮田を更に煽る。
宮田は片手で木村の腕を掴んだ。
「じゃあ、声、聞かせて」
強引に手を口から引きはがし、同時に先端を刺激する。
「あ、や、やだって……ひゃっ……」
木村の口から、堪えきれない嬌声が漏れた。
「俺、なんか声おかしいからっ……聞くな……よ……、頼むから……っ」
浮かされたように木村が叫ぶ。
宮田は滲む涙を舐め取った。手をシーツに押しつけると、木村の指が掴むものを求めて動き、枕を握りしめた。その間も、嬌声は止まらない。
宮田はそっと手を離し、ふたたびそれを口に含んだ。
「や……っ……だめだって、そこ……っ」
先端を舌で抉ると、ひときわ高い声が聞こえた。
「や、もう、い……く……」
身体を痙攣させて木村が放ったそれを、宮田は口で受け止めた。
ごくん、とそれを飲み込む。それは思った通りとても不味く、だがそれを飲み込むことは宮田にとって自然なことだった。セックスの時にしか表せないものは、全て自分のものにしたかった。それが液体でも声でも同じことだ。
「信じらんねえ……飲むなよ、そんなもん……」
木村の擦れた声に、宮田は優しく笑った。
ちゅっと口づけると、木村は「マズ……」と顔をしかめた。
「……俺、あんな声……ごめん……おかしいよな……」
気まずそうに、木村が言う。
その目を宮田は正面から見つめた。
「セックスの時に、気持ちよくて声が出るのって、おかしくないでしょう」
「いや、でもさ……」
「それがおかしいって言うなら」
宮田は自分の下半身を木村に押し付けた。限界近くまで硬くなったその熱に、木村がびくりと震える。
「アンタを犯したくてたまらないオレは、もっとおかしい」
宮田の指が、木村の後ろに触れた。指先をそっと、そこに埋める。
「……いれて、いいですよね?」
一瞬だけ、怯えのような表情が木村の顔に浮かんだ。だがそれはすぐに消え、木村は優しく笑って頷いた。
宮田はそのまま、指をゆっくりと進めた。後ろにまで滴った液体を塗りこめ、そこを開いていく。熱くて狭いその場所に、はやく入れたくてたまらない。情動を必死に堪えながら、宮田はそこを慣らした。
木村はさすがに、歯を喰いしばり、慣れない感覚に耐えている。
ようやくそこが緩み始める。耐え切れず、宮田は指を引き抜いた。ズボンと下着を脱ぎ捨て、自分のものをそこに押し当てる。
「木村さん……」
木村は宮田の身体に腕をまわし、目を閉じた。
─────
自分の中に入ってくるその感触に、木村は息を詰めた。
容赦なく熱くて硬い、それは冷静な仮面を捨てた剥き出しの本能だ。
宮田の荒い呼吸が、まるで悲鳴のように耳に届く。
腹の底から溢れる、いくら言葉にしても出し尽くせない、叫び。
それはまさに宮田自身だ。
犯されているのが、身体なのか心なのか、その区別は無意味だ、と木村は思った。
突き上げられ、擦られ、奥の奥まで自分の身体が宮田を咥えこんでいく。
ひとつになるのがこんなにキモチイイなんて、今まで知らなかった。
──ああそうか、今、俺は宮田を喰っているのか。宮田を征服しているのは俺の方なのか──
─────
「木村……さん……」
熱に浮かされた声で呼ばれ、木村は目を開けた。宮田の顔が近づき、舌が頬から口元を辿る。いつの間にか木村の口は開ききっていた、零れた唾液を、宮田の舌がねっとりと掬い取る。
「あ……」
宮田が腰を突き上げる。木村の口からは喘ぎだけが漏れる。悲鳴は擦れ、もはや音にならない。
「あっ……あ……ん……!」
木村の内側が、きつく甘く宮田を締め付ける。つい先ほど見つけた、その部分を狙って突くと、とめどなく蜜が零れ出る。
「あ……みや……た……ぁ……」
木村の目から涙が溢れた。背中に腕を伸ばし、縋りつく。
「も……たのむから……いかせて……あっ……」
「きむら……さ……ん……」
宮田は、蜜を漏らすそれに指をかけた。顔をみつめながら、いかせる、という意思をこめて擦り上げる。
「あ、あ、あ……ッ!」
木村の背中が仰け反った。
「く……っ」
熱いそこがきつく締まる。
──木村さん……木村さん……──
溢れ出る宮田の想いは、木村の中に呑みこまれていった。
ベッドの中で裸のまま、木村は宮田の腕の中にいた。規則正しい心臓の鼓動が、木村の身体に伝わる。宮田のしたいようにさせていたら、この体勢になったのだが……
──これって、いわゆる腕枕だよな?──
なんとなく気恥ずかしくて、木村は身じろいだ。
「木村さん?」
縋るようにぎゅっと抱きしめる宮田に、木村は苦笑した。小さな子供をあやすように、頭をぽんぽんと撫でる。
「どこにも行かねえよ」
宮田がほっとしたように笑った。
──まったく、大人なんだか子供なんだか、分からねえな──
ふと、木村の視界に黄色い花束が映った。
「あ、あれ、後で水につけてやらないとな」
「うち、花瓶はないですよ」
「バケツでいいよ。それもないなら、とりあえず風呂場だな」
「風呂場ですか」
しばらく、宮田は何かを考えこんだ。
「木村さん、ひまわり風呂って、アリですか?」
「聞いたことねえよ! 菖蒲湯じゃねえんだからさ」
「そうですか……」
残念そうに、宮田は呟いた。
「……なんだよ」
「いえ、木村さんがひまわり風呂に入っているところを想像したら、アリだと思ったんですけど」
「……おまえ、そういう想像はもうやめろよ……」
そこまでいくと、エグイというより、ただの変態だ。
「あ、そういえば、聞きたかったんだけどさ」
「何ですか?」
「おまえ、丈夫な向日葵、って言ってただろ? 丈夫な、ってどういう意味?」
あまり言いたくない話題に、宮田は目を逸らした。
「……丈夫じゃない向日葵もあるんですよ。小学生の時、育てませんでしたか?」
「あー、そういや育てたな、一人一本」
木村は自慢そうに笑った。
「俺の向日葵、クラスで一番大きかったんだぜ。茎も太くて、高さも2mは軽く越してたな」
「……育て方、知ってたんですか?」
「いいや。親にも何にも聞かなかったし、フツーに育てただけだけど」
「……そうですか」
宮田は腕の中の木村をぎゅっと抱きしめた。
「宮田?」
「……なんでもないです……」
宮田は、床に置かれた花束を見た。切り花用に育てられたそれは、あの時見た向日葵よりずっと細く、でも決して弱々しくはない。大輪のきれいな花束だ。
「木村さん、後で花瓶買ってきますから、切り花の手入れ教えてもらえますか」
「いいよー」
気軽に木村が、笑いながら答える。
宮田も微笑みながら、もう一度しっかりと、木村を抱きしめた。
END
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