■錆びた天使(1)■


 カーテン越しの窓から、柔らかな朝の光が差し込む。
「ん……」
 わずかに身じろぎ、木村はゆっくりと目をあけた。
「おはよう、木村さん」
 ぼんやりとした視界の中、宮田が優しく笑っている。
「う……ん……おはよぉ、みやた」
 まだ少し寝ぼけたまま、木村はへらっと笑った。その唇がちゅっと啄まれる。
 起き上がろうとして、木村はぺたんとベッドに突っ伏した。
「いて……」
「大丈夫ですか?」
 そろりと腰を撫で上げる宮田を、木村は軽く睨んだ。
「……っ……誰のせいだよ……っ」
「アンタが可愛いせいだろ」
 平然と言われ、木村の顔が赤くなる。
「な……っ」
「昨日のアンタ、可愛いかった。すげえイイ声で啼くから、口を塞ぐの大変だったし」
 木村はぷうっと頬を膨らませた。だが確かに、覚えはある。だからといって、言われっぱなしはなんだか悔しい。
「……まあ、相性がいいんじゃねえの」
「相性、だけかよ」
 宮田が木村の腕をぎゅっと掴んだ。少しだけ強いその力に、木村は苦笑した。
「ばーか」
 ぺちんっ、と軽く頭を叩く。
「相性いいって理由だけで、俺が男と寝るかよ」
 まあ、お前以外と試したことないけど。
 ぷいっと後ろを向いたその背中を宮田がぎゅっと抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
 温かい体温と宮田の鼓動が伝わる。
「なあ、そろそろ朝メシ……」
「あともう少しだけ……このまま……」
 宮田の力が思ったより強い。あやすように、木村はやさしく手を重ねた。
「……このまま、アンタをここに閉じ込めておけたらいいのに……」
「いや、それは無理だろ。訓練の時間になっても出ていかなかったら、誰か呼びに来るし」
「……そういうことじゃないんですけどね」
 くすくすと笑いながら、木村は腕の中から抜け出した。
「ほら、いいかげん行かないと、朝メシ食いっぱぐれるぞ」
「はいはい」
 宮田は、床に落ちていた服を拾い上げた。
「そうだ、今日の格闘技訓練、俺と組んでくれよ」
「あ、今日は鷹村さんと組む約束してるんで」
「げー、あの破壊大魔王と!?」
「いい訓練になりますよ。それに……」
 宮田の目が光った。
「最近、三回に一回は勝てるようになったんですよ。今日は負けねえ」
「……まあ、がんばれよ」
 苦笑しつつ、木村の中にちょっとした嬉しさが湧き上がる。宮田はすっかり、K・B・Gに馴染んだようだ。
 笑いながら、二人は木村の部屋を出て、食堂へと向かった。



 K・B・Gは、世界政府直属の秘密組織だ。世界的大企業「パンドラ」の裏悪事を始末、あるいは未然に防ぐために設立された。
 パンドラ社は表向きは、おむつから人工衛星まで、ありとあらゆる商品を作る超優良企業だ。製品は人々の生活にすっかり浸透し、もしパンドラ社が潰れたら人々の生活が成り立たない、と言っても過言ではない。
 一方で、パンドラ社は裏で人体実験やキメラ合成など、違法という言葉では済まされない研究を行っている。
 世界政府としては、これを黙認するわけにはいかず、パンドラ社を潰すわけにもいかず、苦肉の策として悪事だけを潰す専門組織が作られた。それがK・B・Gだ。
 会長の鴨川を筆頭に、人数は多くはないが少数精鋭で構成されている。そして、一番新しく入った隊員が、敵組織から木村が勧誘してきた元工作員、宮田だった。



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