■小さな恋の物語(3)■
「ん……っ……ふ……」
口腔内に深く舌を差し込むと、腕の中の身体がびくりと震えた。そのまま舌を絡めとると、競うように熱い舌が蠢く。互いに追いかけるように、追い詰めるように舌を動かし口腔内を貪る。
「んっ……は……っ」
ようやく唇を離し、口の端から零れた液を舐めとる。八木がまた震え、相澤の身体にしがみつく。その身体を離しがたく、けれど最後の理性で、相澤は八木を支えて立ち上がった。
「俊典さん、こっち……」
もつれあうように二人はベッドの上に転がった。ぼすん、と八木の身体が跳ねる。その身体を組み敷いて、相澤はベッドの上の八木を見下ろした。
「ベッド、小さいけど我慢してください」
「平気だよ、たいていのベッドは、私には小さいんだ」
笑いながら軽口を叩く、その身体が小さく震える。その眼には、戸惑いの色が浮かんでいる。
「あ……」
相澤は八木の首筋に吸い付いた。そのまま、服の下から手を差し入れる。
「ひゃ……っ」
右胸の小さな突起を探り当て、そっと触れると小さな悲鳴があがった。そのまま上衣を脱がせようとするその手を、八木が押しとどめる。
「……自分で……脱ぐから」
露になったその上体に相澤は思わず息を飲んだ。
「やっぱり……引く……よね?」
慌てて疵を隠そうとする、その手を相澤が掴み、シーツに押し付ける。
「別に、引いたりしません。っていうか……興奮する」
「相澤くん、そういう趣味!?」
「違います、っていうか、ああもう、くそっ、アンタもう分かれよ!」
言うなり、相澤は唇で胸の突起を挟んだ。
「ひっ……ゃぁ……っ」
八木が身を捩る。溢れる声に甘さが混じる。
唇でそこを刺激しながら、相澤は手で腹から下腹部を辿った。
「あ……っ……や……っ」
「好きな相手の裸見て、興奮しないわけないだろ。アンタも男なら分かれ!」
荒い息でのしかかり、強引にズボンと下着を脚から引き抜く。既に兆しているそこを眺めながら、相澤は自分の唇をぺろりと舐めた。
「っ……」
抑えつけられた身体の下で、八木が息を飲む。相澤は自分の服を一気に脱ぎ捨てた。
「!?」
不意に、相澤の腹に何かが触れた。八木が手を伸ばし、相澤の身体にペタペタと触れている。その指先が筋肉を辿り、身体に残る傷跡をすっと撫でた。
「相澤くんも……結構、傷があるんだね」
「引きますか?」
八木がにやりと笑い、熱い吐息を漏らした。先ほどまでの戸惑いは消え、組み敷かれてなお相澤を見上げるその眼には捕食者の光が宿っている。
「いや……これは確かに、興奮するね」
「そういうことです」
言いながら、相澤は八木の下肢に手を伸ばした。芯を持ち始めているそれをそっと握り、ゆっくりと手の平で刺激する。
「あ、相澤くん……っ」
青い瞳が快感に蕩けていく。その視線を誘導しながら、相澤は身体をずらし、その部分をぺろりと舐めた。
「ひっ……」
八木の身体が跳ねる。視線が自分を捉えていることを確認し、相澤は八木自身を口に含んだ。
「あ、や、やだ、それ……っ」
甘い嬌声に耳をくすぐられながら、相澤はそれを丹念に舐めた。先端をぐるりと舐め、裏側を刺激しながら唇で幹を食む。先端から蜜が溢れ、相澤の口の中に苦みが混じる。
「や、あい……ざわ、くん、いく……から、離し、て……!」
八木の手が相澤の頭に触れ、引き剥がそうとする。だがその動きとは裏腹に、八木の腰がねだるように揺れる。舌を少しだけ離すと、無意識なのか、舌を追いかけるように腰が浮き上がる。
想像以上の淫らな動きに煽られ、相澤は唇で強く、八木の雄を扱いた。
「ん……あ、や、いく……」
八木の身体が跳ね、同時に放たれる。その迸りを、相澤は全て口腔内で受け止めた。
「あ……」
ごくん、と見せつけるように嚥下すると、八木の顔が真っ赤になった。
「あ、相澤くん、それ、飲んだ……の!?」
青臭さの残る唇をペロりと舐め、相澤は笑った。
「アンタの出すものは、全部、俺のものにしたいんですよ」
涙も、汗も、唾液も、精液も──そう囁くと、いたたまれなくなった八木が相澤の胸に顔を埋めた。その耳は真っ赤だ。
「相澤くん……」
「なんですか?」
その赤い耳をぺろりと舐めながら、相澤が囁く。
「君……思ってた以上に、いやらしいね……!?」
「俊典さんも想像以上ですよ? 気づいてましたか? ここをしゃぶられて腰を自分で押し付けてきて……」
相澤の指が、唾液と精液に濡れた部分を優しく握りこむ。
「ヒッ……!」
達したばかりで敏感になっている部分を擦られ、八木の身体が跳ね上がった。
握った指を離し、相澤はそのまま指先を後ろ側へと滑らせた。入り口にそっと触れると、八木の瞳に僅かな怯えが宿った。
「俺も限界です……が、無理にとは言いません。アンタも男ですから」
荒い息を堪えながら、相澤は言った。正直に言えば、今すぐにでもこの人の中に入りたい。繋がってひとつになりたい。ただ、この人の矜持を傷つけたくはなかった。こんなに細い身体で、けれど決して折れない強い意志を持つ人に対して、望まぬ行為はしたくない。
八木の目線が、相澤の下腹部を捉えた。戸惑いは一瞬だった。青い瞳が優しく微笑む。
「いいよ」
「……本当にいいんですか? 始めたら止まりませんよ?」
「君になら……いい。だって……」
八木の腕が相澤の身体を抱きしめた。
「そうしてもいい、って思えるくらい、私は相澤くんのことが好きだから」
「っ……俊典さん」
相澤の指が、つぷっとそこに侵入した。八木の身体が反射的に強張る。
「く……っ」
「俊典さん……?」
「いいか……ら……っ」
逸る気持ちを懸命に堪え、慎重にゆっくりと、相澤はそこを拡げた。熱い内側の奥、少しでも八木が快楽を拾えるよう、感じる場所を探っていく。
「……あ……ッ」
歯を食いしばるように堪えていた八木の口から、僅かに甘い声があがる。その場所を優しく擦ると、八木のものが芯を持ち始めた。
「あ、や、そこ……っ」
甘い声が次第に嬌声に変わる。
もう限界だった。相澤は指を引き抜き、自分自身を押し当てた。
一瞬、八木と相澤の視線が絡み合う。言葉を発する間も無く、相澤は八木の身体を貫いた。
「ヒ……ッ……」
八木の喉が苦しそうに鳴る。ゆっくりと腰を進め、八木の中を拓いていく。ぎっちりとした肉壁が相澤を締め付ける。
「……俊典さん」
ようやく全てが埋まり、相澤は荒い息のまま八木を見下ろした。
「……ちょっと……待って……落ち着けば……大丈夫そうだから……」
浅い呼吸を弾ませる八木を、相澤は抱きしめた。無理を強いていることは分かっている。それでも、これは謝ることではない。
「……俊典さん、ありがとうございます」
相澤の囁きに、八木がふっと笑った。
「もう、大丈夫、動いて、いいよ」
呼吸が若干落ち着いたのを確認し、相澤はゆっくりと腰を引いた。八木の内側の、先ほど見つけた場所を狙って擦り上げる。
「ッ……あ、あ……」
八木の口から声が漏れる。甘さを含む声が、苦痛ばかりではないことを相澤に伝える。
繋がっている場所が熱い。滴る汗が、八木の身体にぽたりと落ちる。きつかった締め付けが徐々に緩み、相澤を誘い込むように収縮する。再び芯を持った八木のそれを、相澤は擦り上げた。透明な液体がつ……と流れ出る。
「あ、あ、や、いい、そ、こ、あいざわ……く……ん……」
「ッ……俊典さん……」
「ん……ッあ……ぁ……」
ひときわ強く内側を擦り上げた瞬間、八木のものが相澤の手の中で弾けた。熱くきつく締め付けるその内壁に、相澤は欲望の液を放った。
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