■君のいる世界(5)■


 ルイは力いっぱい、目の前の男を突き飛ばした。
「僕には……僕にはビバリさんしかいないんですよ!」
 もう限界だった。愛する人を守れれば、それでいいと思っていた。自分がどうなろうと、あの人が幸せであれば、それでいいと思っていた。耐えられると、そう思い込もうとしていた。
 でも、現実は違った。あの人のいない世界なんて耐えられない。
───僕はそこまで、強くない───
 もう取り返しがつかない。それでも、だからこそ、ルイはこれ以上自分の気持ちを偽りたくなかった。
 バサラの手が執拗にのびてくる。
「ねえ、愛し合ったじゃないか」
 ルイは拳を握りしめた。
───もうどうなったって、かまうもんか───
 ルイは相手の胸ぐらを掴み、腕を振り上げた。バサラの顔が驚きと恐怖に歪む。
 その時、ドアが開いた。
「愛し合ってはいないんじゃないか?」
「ビバリさん……?」
 ビバリがゆっくりと二人に近づき、振り上げたルイの手を捉えた。そのまま強く引き寄せ、抱きすくめる。
「すまなかった、ルイ」
 ルイの身体から徐々に緊張が抜けていく。懐かしい体温が、ルイを包み込む。
「ビバリさん……」
 ルイはおそるおそる、ビバリの背に腕をまわした。手が背中に触れた瞬間、さらに強く抱きしめられる。ルイの心の中で、何かが弾けた。
 涙が出そうになるのを懸命に堪える。今、泣いてしまったら、ビバリの顔が見えなくなる。
 ビバリの手が優しくルイの頬を撫でた。そのまま唇が重なる。
「ん……っ」
 侵入してくる熱い舌に、ルイは自分の舌を絡めた。一分の隙間も埋め尽くすように貪りあう。唾液が顎を滴り落ちる。
 ガタッという音がした。目線だけで後ろを見ると、バサラが呆けたようにこちらを見ている。
 唇を離し、ビバリがバサラを睨んだ。
「岡田君、君にいいことを教えてあげよう」
 腕の中に包み込んだまま、ビバリの指がルイのネクタイにかかる。するりと引き抜かれるその感覚だけで、ルイは恍惚の表情を浮かべた。
 そのままシャツのボタンがはずされていく。ルイもまた手を伸ばし、ビバリのネクタイを解いた。その間にも、二人の唇は重なり、離れ、絡み合う。
 シャツをはだけた首筋に、ビバリが歯を立てた。
「あ……ん……」
 快感に身体が震える。ビバリの手が、ルイの下半身に触れた。既に熱くなったそこを優しく撫でられ、無意識に腰が揺れる。ルイは舌を伸ばしてビバリの唇を舐め、目線で、もっと、とねだった。
 あの男が、息を飲んでこちらを見ている。かまうもんか、とルイは思った。
 しがみつくルイを抱いたまま、ビバリがバサラに告げた。
「本当に愛し合うというのは、こうやってやるんだ」
 ルイの腕に力がこもる。
 バサラが呻くようい呟いた。
「……本当の……愛……」
 ビバリの厳しい視線に促され、バサラは力なくドアへと向かった。
 すれ違う時、暗い目がすがるようにルイを見た。
 ルイはビバリの腕の中から、精一杯、睨みつけた。ビバリの腕がよりいっそう強く、ルイを抱きしめる。
 ドアが閉まり、部屋の中には二人が残された。
 ルイはビバリを見た。先ほどまでの力強さは消え、ビバリは泣きそうな顔をしてた。
「ルイ、悪かった、俺は……」
 ルイは手を伸ばし、ビバリの頬に触れた。
「ビバリさん……」
 ルイは正面から、ビバリの目を見つめた。躊躇いを振り切り、今まで言えなかった言葉を口にする。
「……ずっと……そばにいてくれますか」
 一瞬の後、ビバリが泣きそうな顔のままで笑った。
「……ああ、もちろんだ、ルイ……」
 強く抱きしめられた腕のなかで、ルイは小さく囁いた。
「愛しています……ビバリさん……」


END


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バサラ編を文章にしたらこういうお話なのかな?と思って書きました。
「壮大なコメディ」だとでも思って読んでいただければ、と思います(笑)。
ちなみに、逃げる云々があの歌っぽいのは、実は本当に偶然です。
書き終わって確認して、自分で茫然としましたよ。そもそもあの歌、知らなかったんだもの……。



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