■蒼玉の涙・続(3)■


 熱い唇が肌を辿る。本能のままに吸い付き、噛みつき、白い肌に紅い痕を残す。政宗の口からは熱い吐息が漏れ、時折そこに甘い声が混じる。熱に浮かされたように、互いの名を呼び、呼び返す。
 小十郎の手が帯を解いた。着物をはだけ、下帯も一気に取り払う。
 一糸まとわぬ姿を小十郎に見下ろされ、さすがに政宗は身じろいだ。お互い裸など見慣れているとはいえ、熱を持った下半身を見られるのはさずがに恥ずかしい。
 身体を横に向けてそこを隠そうとする、その政宗の動きを小十郎の腕が封じた。膝に手をかけ、強引に折り曲げて限界まで開かせる。
「おい……っ、小十郎!?」
 その部分を視線に晒され、たまらず政宗は声をあげた。他にやりようがあるだろうと、抗議のため小十郎の顔を見て、政宗は言葉を失った。
「政宗様……」
 低い声で呼ばれ、政宗の背筋がぞくりと震える。小十郎の眼は、完全に理性を失っていた。荒い息をつきながら、政宗のその部分を凝視している。
「え、あ、……んっ」
 膝を開かせたまま、小十郎の唇が政宗のものに触れた。
「あ、やめ……っ……小十……郎……ッ」
 制止する間もなく、熱い滑りがそこを包む。
「……っん……や……め……ろ」
 先端を舌が擽り、裏側がねっとりと舐められる。大きな掌が袋の部分を揉みしだく。そのあまりに急激な快楽に、政宗のものがあっという間に芯を持つ。
「あ、だめ……だ、離せ小十郎、この馬鹿……ッ!」
 制止の声は届かず、強く吸われ、政宗のものはあっけなく弾けた。
「……ア……ァ……ッ!」
 びくびくと震える、その残滓を小十郎が舐め取る。
「ッ……小十郎……っ!」
 整わない息で、それでも名を呼ぶ政宗の眼に、小十郎の姿が映った。たった今、政宗が出したそれを小十郎の喉が嚥下する。喉仏がごくりと動き、唇に残ったそれを大きな手が荒々しく拭い取る。
 獣の雄を思わせるその姿に、政宗の下腹部がぞわりと熱を孕む。
──それがお前の本性か、小十郎──
 脚を開かせたまま、小十郎が政宗にのしかかる。光る眼と荒い息は、獣そのものだ。
「政宗様……」
 欲に濡れた、けれどどこか苦しそうな声が政宗の耳に届く。
「……お赦しください……初めてのお身体に無理を強いることなど望んではおりません……が……」
 つ、と何かが政宗の中に入ってきた。反射的に身体が強張る。
「ん……ッ!」
 それが、自分の残滓で濡れた小十郎の指だと、政宗は気が付いた。初めてそこに物を受け入れる、慣れない感覚に、身体が意図せず強張る。
「夢にまで見たそのお身体を前にして……充分に解して差し上げるまでこの身が正気でいられる自信が……ございません……」
 ぐいっと容赦なく、深く入り込むその衝撃に、政宗は思わず目の前の小十郎にしがみついた。間をおかず、二本目の指が侵入してくる。
「く……っ」
 強引に押し広げられる、その痛みを押し殺し、政宗は小十郎の眼を見てニヤリと笑った。
「いいぜ、小十郎。好きにしろ」
「……政宗……様っ……」
 後孔を犯す指が、乱暴に出入りする。歯を喰いしばりたいほどの痛みの中に、ほんの僅かだが痛みではない感覚が混じる。その感覚を追いながら、必死で笑い、囁く。
「……ッ……俺は女じゃ……ねえ……だから……余計な気付いは……いらねえ……ッ」
「政宗様っ……」
「……!……ッア……ッ!」
 三本目の指が強引に捻じ込まれる。あまりの痛みに涙が滲む。
 それでもなお、政宗は不敵に笑った。
「見せろよ、お前の本性を……こんなもんじゃ……ッ……ねえだろ……ッ」
「ッ……お赦しを……!」
 指が引き抜かれ、間髪おかず熱い塊が押し当てられた。
「政宗様……っ……政宗様……」
 身を竦める猶予すらなく、灼熱の刃が政宗を貫いた。
「……!」
 悲鳴は声にならなかった。熱くて固いそれが、政宗の内壁を犯す。荒々しく突かれ、引き抜かれ、また奥まで突かれる。
 限界まで脚を開かされ、腰を高く持ち上げられ、最奥まで埋め込まれる。自分が何かを叫んでいる。何を叫んでいるのかすら分からない。
 何度も何度も揺さぶられ、身体には全く力が入らない。意識が徐々に遠のく。
 ふと、ぽたりと何かが頬に落ちた。もはや涙の止まらない目で、政宗は男を見上げた。髪を乱し、汗を滴らせ、欲望に光る眼で主を見つめながら、小十郎は政宗を喰らっていた。
 腰を高く上げているせいで、つながっている部分が見える。その有様に、政宗は息を呑んだ。自分の身体が、小十郎の凶暴な欲望を呑みこんでいる。いや、喰らっている。
──ああそうか、喰らっているのは俺の方か──
 そう思った瞬間、政宗の内壁が小十郎を捉えた。
「く……ッ……政宗様……ッ?」
 力などとうに入らないはずの身体が、ひくりと震える。
「あ……ん……っ」
 口から無意識に喘ぎが漏れる。
 力の入らない腕を必死に伸ばし、政宗は小十郎の頬に触れた。
「小……十……郎……っ」
「政宗様……ッ!」
 小十郎が政宗の身体を抱きしめる。政宗が小十郎に縋りつく。
「あ……」
「……クッ……!」
 政宗の内側が震え、次の瞬間、小十郎が想いの丈を吐き出す。
 その迸りを最奥で受け止めながら、政宗の身体は今度こそ本当に力を失った。
 
 
 
 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 
 
 
「大丈夫ですか、政宗様」
「No problem. と言いたいところだが、明日は起き上がれそうにねえ」
 暗闇の中、小十郎の腕を枕に寝そべったまま、政宗は気怠く応えた。
 いつの間にか嵐は去り、静かな部屋の燭台はとうに消え去っている。
 政宗の身体を拭き清め、夜着を着せ、敷布を替え、ともかく主を休ませようとしたところで、小十郎は主に袖を掴まれた。朝まで一緒に居ろ、と気怠く命じる主の誘惑に勝てるはずもなく、結局政宗は小十郎の腕の中だ。
「政宗様、今宵、御身に無理を強いましたこと、申し開きの仕様もございません」
「まったくだ。悪いと思っているなら、次はもう少し優しくしろ」
 政宗は目を細めて笑った。
「そのお約束はできかねます。まずは自制心を鍛え直す鍛錬をせねば」
 はっきりとした小十郎の口調に、政宗は一瞬、目を丸くした。そして次の瞬間、クッと笑う。
「Okey, 小十郎。 鍛錬が間に合わなければ、今のままでいい」
 次は無い、と言われないか内心ドキドキしていたことなどきれいに隠し、政宗は小十郎の胸に顔を埋めた。
 その身体を抱きしめながら、小十郎が口を開いた。
「……政宗様、臣下の身で主君に劣情を抱くなど万死に値する罪。この小十郎、いかような罰も受け入れます。されどまた同時に、政宗様の背中をお守りする役目を他の者に譲るつもりもございません。かくなる上は、政宗様に断罪されるその日まで、この罪を背負って生きていく覚悟なれば──」
「Stop!」
 たまらず、政宗は叫んだ。
「おい小十郎、それが初めて寝た夜にするPillow talkか? もっとこう、色っぽい言葉の一つも言えねえのかよ」
 むくれた様子の政宗に、小十郎はしばし考え、そして耳元に口を寄せた。
「政宗様は、この小十郎の唯一人の想い人でございます」
「……」
「政宗様?」
 顔を埋めたまま、政宗は真っ赤になっていた。暗闇の中、顔色など見える筈もないのに、顔が上げられない。
 しばらくの間の後、政宗の小さな声が小十郎に届いた。
「……me too……」
 そうして暗闇の中、二人はもう一度、唇を重ねた。



END






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