■蒼玉の涙(1)■
■前段(少年)
火花を散らし、刃と刃がぶつかりあう。
がっちりと咬み合った刃を押し戻されながら、それでも歯を食い縛って踏ん張る。悔しいが純粋な腕力では大人には敵わない。
吹き飛ばされ、後ずさり、それでも倒れぬよう、隻眼の少年は必死に脚に力をこめた。
冷静な表情のまま自分を見下ろす、頬傷の男を精一杯睨みあげる。
と、その時。
首筋にチリッとした熱が走った。
──Shit! またかよ!──
政宗は首筋に手をあてた。確認せずとも分かっている、怪我でもないし、火傷でもない。皮膚には何の異常もない。
「政宗様、どうされました?」
小十郎が刀を構えたまま、隙も見せずに尋ねる。
「No problem. なんでもねえよ」
平静を装ってにやりと笑い、政宗は刀を構え直した。せっかくの小十郎との稽古を、こんなことで中断したくはない。
「Ha!」
刃が再び火花を散らす。
「くっ……」
スピードを乗せた斬撃に、今度は小十郎が押される。
首筋の熱と痛みは既に無く、代わりに胸の奥にもやもやとした熱が残る。不快とも快ともつかず、ただこの熱はどうしようもなく己を昂らせる。刃を振るう以外にこの熱を消す方法を、未だ少年の政宗は知らなかった。
初めてこの熱を感じたのは、確か十三か十四、そのくらいの年の頃だった。
場所も時も問わず、この熱と痛みは突然やってくる。箇所も定まっておらず、首筋、腕、胸元、時には足首まで。きっかけも共通点も皆目見当がつかない。強いて言えば、その時皮膚が露出している箇所が熱くなる、ということくらいだ。
騒ぐほどでもない、ほんの僅かな熱と痛みだったそれは、年を経るごとに強く鋭くなっていく。それと同時に、後に残る胸の熱も大きくなっていく。
熱を感じるたび、小十郎に相談してみようと何度も思った。が、何故だか言えなかった。少年の頃に始まったこの事柄をついに言えないまま、政宗は青年へと成長していった。
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