高尾は鶯を連れて、ビルの最上階へと向かった。そこは広々とした社長室だった。
「……俺をどうする気だ」
鶯の問いかけに、高尾はさらりと答えた。
「飼ってやる」
「ふざけるな!」
鶯の怒鳴り声を無視し、高尾は鶯の右手首を掴みあげた。
「痛……っ」
先ほど暴れたせいで傷口が開いたのか、上着には血の染みが広がっている。
「まだ熱があるな……」
「放せ……っ」
高尾は鶯の手首を掴んだまま、吉岡に言った。
「吉岡。確か、うちと付き合いのある組の系列に、ボディガード養成をしている会社があったな。そこでこいつに研修を受けさせろ」
「なんですって!?」
吉岡は驚いて叫んだ。
「正気ですか、社長!?」
「ああ。こいつを俺のボディガードにする。だいたい、いつもボディガードをつけろと言っているのはお前だろうが」
「でも、よりによって、命を狙ってきた者にガードさせるなんて……」
高尾は低い声で、一言言った。
「吉岡」
有無を言わせないその迫力に、吉岡は不満そうな顔をしながらも「承知しました」と答えた。高尾が一度言い出したらきかないことは、吉岡が一番良く知っていた。
吉岡が部屋を出て行った後、鶯は、高尾に掴まれた手首を振りほどこうともがきながら、わめいた。
「ふざけるな、何で俺がてめえのボディガードになるんだ!」
「ボディガードと言うよりは、番犬だな。犬には一番向いている仕事だ」
「てめえ!」
「なら、愛玩犬の方がいいか?」
笑いながら、高尾はからかうように言った。
「ざけんじゃねえ!」
高尾は鶯の顎を捉え、自分の方を向かせた。
「言っただろう、俺に飼われる気になったらいつでも来い、とな。そしてお前は来た」
「それはてめえをぶっ殺すためだ!」
「だが、お前は俺ではなく岸本にナイフを向けた。違うか?」
「……」
鶯は何も言えなかった。何故あの時、高尾ではなく岸本にナイフを向けたのか。同じくらい憎いはずだったのに……。
鶯は顎を掴まれたまま、真正面から高尾を睨んだ。それは、あの夜、高尾を睨みつけた時と同じ、獰猛な瞳だった。
「……いつか、てめえを殺してやる。後悔するなよ」
あの夜と同じ、征服欲が高尾の中に湧き上がる。だが、それは前回のような衝動的な欲望ではない。時間をかけてゆっくりと、この狂犬を飼い慣らしたい。
「それでこそ、狂犬だ。いつでも殺しに来い」
高尾は楽しそうな笑みを浮かべながら、鶯の唇に触れるだけの口付けをした。
END
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