■誓いのキス −石川side−(1)■


「うわ、すごいな」
「きれいですねー」
 美術館から庭園に出ると、空は一面の夕焼けだった。オレンジから紫へのグラデーションが広い空を覆い、草花や池の水面を鮮やかに染めあげる。
「少し歩きましょうか」
 岩瀬の提案に、石川は笑ってうなずく。
 のんびりと空を見上げながら小道を歩く石川の姿に、岩瀬の顔もほころぶ。何よりも、二人きりで穏やかな時間を過ごせることがとても嬉しい。
 急に取れた休日。近場の観光地に宿を予約した以外は何も予定をいれず、ただのんびりと過ごすだけの小旅行。
 道すがら、この美術館を見つけたのは石川だった。ガラス工芸作家の美術館で、庭園は隣接したホテルにも繋がっている。
「あ、実が生ってる」
 石川は小道にしゃがみこみ、赤い実をつけた低木を覗き込んだ。
「何でしょうね。千両にしては時期が早いし……」
「センリョウ?」
「お正月に飾る赤い実ですよ。見ればきっと分かります」
「へえ。あ、あの黄色い花は?」
「ああ、あれは──」
 目に付いた植物をすらすらと説明する岩瀬に、石川は尊敬の眼差しを向けた。
「お前、詳しいなあ」
「子供の頃は良くキャンプに行きましたからね」
「そっか」
 石川はそのまましばらく、西日に照らされた草花を眺めていた。無防備な表情はいつもよりずっとあどけなく愛らしい。
 岩瀬は石川の隣でしゃがんだまま、ちらりと周りに目を走らせた。平日の夕暮れ時のせいか、庭園に他の観光客の姿はない。気取られないようにこっそりと顔を近づけ、さっと唇を重ねようとした瞬間──
「あ、あれ何だ?」
 突然、石川が立ち上がった。
「あそこに白い建物がある……って、基寿、どうした?」
「……いえ、なんでもないです……」
 優秀なSPらしくもなく前につんのめりそうになった岩瀬は、必死で体勢を立て直した。
 気づかれてたのか!? と思ったが、石川はきょとんとした顔で岩瀬を見ている。どうやら屋外で不埒なことをしようとしたバチがあたったらしい。
 岩瀬は努めて冷静さを装いながら立ち上がり、不審そうな石川に「行ってみましょう」と笑いかけた。




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