■抱擁(1)■
速水の下で、安積が声をあげた。
突き上げるたび、引き抜くたび、悲鳴にも近い声があふれる。
だがそれは決して苦痛ではないと、潤んだ瞳が速水に伝えてくる。
限界が近い。速水は情動をこらえ、奥歯を噛み締めた。情けないが、自分の下で喘ぐ安積の姿を見ていると、まるで若造のように歯止めが利かなくなる。何度抱いても、それは同じだ。安積の顔が、声が、締め付ける内壁が、速水を煽り続けるのだ。
安積が速水に腕を伸ばした。頭に腕がまわり、引き寄せようとする。速水はその腕を掴み、内側の僅かに柔らかい部分に歯をあてた。安積の身体がひくりと震える。
「安積」
声が熱を帯びているのが、自分でも分かる。
安積の目が速水を見た。涙のにじむ目が、どうにかしてくれと訴えかける。
速水は安積の雄を捕らえた。先端を擦りあげ、同時に、腰を打ちつける。
「あ……っ……!」
安積の身体が跳ね上がり、蜜を吐き出した。
ほぼ同時に、速水も安積の中に自分を解き放つ。
荒い息を吐きながら、安積が速水に腕を伸ばした。速水は今度は逆らわなかった。安積の腕が、きつく、速水の頭を抱きしめる。
言葉にできない想いを安積は腕で伝えてくる。
この抱擁の意味は、愛している、だ──
今、この瞬間だけは、そう信じることができる。速水は強く、安積の身体を抱きしめた。
しばらく抱き合った後、速水はゆっくりと身体を起こした。それを引き止めるように、安積の手が速水の腕を捕らえた。少し恥ずかしそうな、でも明らかに情欲を含んだ目が、速水を見つめる。
速水は僅かに苦笑した。
明日は二人とも休みだ。安積が何を考えているのか、想像するのは簡単だ。なぜなら、自分もまた、同じだからだ。
口にできない言葉があるとき、安積は速水に腕を伸ばす。
それは、恥ずかしくて言えない場合もあれば、口に出すべきではない言葉の場合もある。無意識の行動なのかもしれない。だが安積の腕は、雄弁に、気持ちを伝えてくる。
たまには、口に出して言わせてみるか──?
速水の頭に、意地の悪い企みが浮かんだ。
速水はわざと、少し腰を引いた。
「あ……」
安積の身体がひくりと震える。
「どうした? 今日はもう、寝るか?」
安積の目が、速水を睨んだ。分かっているのに言わせたいのか、と抗議している。
速水は、そ知らぬ顔で安積の顔を覗き込んだ。
「ん?」
安積の唇が、何度か、言葉を形作ろうと動いた。
やがて、安積の口から小さな声が漏れた。
「このまま……もう一度……」
ちゃんと言えたな、偉いじゃないか──速水は安積をからかおうとして、言葉を飲み込んだ。ここで機嫌を損ねられては、たまらない。
顔を赤くして目を逸らす安積の頬を撫で、速水は優しく口付けた。
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