■喰らい尽くす(2)■
足首の、皮膚の薄い部分に歯を立てると、安積の身体が震えた。
性器をしゃぶり、溢れる液体を全て舐めとる。安積の口から声が漏れた。安積の顔を見て、速水は一瞬、動きを止めた。
安積は目を閉じていた。
いつも自分を睨む目が。潤んで自分を欲する目が。
こんな自分を見たくないのだ──速水はそう思った。そう思われて当然だ。
だが、安積は速水を拒絶していない。声を殺そうとせず、僅かに自ら腰を揺らし。速水の前に身体を投げ出し、快楽だけを追っている。
その姿に、速水は頭の芯が熱くなるのを感じた。今、間違いなく、俺は安積を支配している。これは俺のものだ。
速水の額を汗が流れ落ちた。無意識にシャツの袖で拭く。
──あつい──
速水はシャツを脱ぎ捨てた。
ファスナーを下ろし、安積の脚を抱えあげる。
安積が僅かに、目を開いた。
その目を見ずに、速水は自分の性器を押し当てた。
「っ……」
慣らしていないそこは、速水を受け入れない。
速水は舌打ちをした。潤滑剤を手に取り、僅かに繋がった部分に垂らす。その温度に、安積の身体が震えた。
そのまま速水は突き入れた。安積の口から悲鳴に近い声が聞こえる。
強引に押し込み、引き抜く。徐々に潤滑剤が安積の体内に入っていく。
安積の中は、熱かった。なじんだそこが、徐々に、速水を引き込む。
突き上げると、安積の口から喘ぎが漏れた。安積の性器は立ち上がり、液体を溢れさせている。
安積の潤んだ目が、速水を見た。
拒絶してはいない。今の速水を受け入れると──その目がそう言っていると、速水は思いたかった。
突き上げ、引き抜く。安積の内壁の熱さだけが速水をつなぎとめる。
安積が震えた。きつく甘く、速水を締めつける。
速水はうめき声をあげ、安積の中に放った。安積の性器もまた、触れられることなく、熱い液体を放っていた。
荒い息を吐きながら、速水は、自分の下にいる安積を見た。安積はぐったりと身体をベッドに落としている。仰け反った喉と胸が上下している。狭いはずの接合部分が、濡れた自分を銜え込んでいる。
速水は喉を鳴らした。
──もっとだ──
速水は強引に、安積の身体を裏返した。
安積の口から悲鳴が漏れた。
かまわずに、速水は安積の腰を高く引き上げた。
「いやだ、やめろ、速水!」
ベッドに顔を沈めながら、安積が叫ぶ。
続けて二度したことがないわけではない。だが、安積の了解を得ずに行為に及ぶことは、今までなかった。
後ろから突き上げると、安積の口から泣き声にも似た音が聞こえた。
引き抜き、また、内壁を抉る。仰け反る背中に、速水は歯を立てた。
噛み付き、舐め、また突き上げる。そのたびに安積が声をあげる。速水はただ、安積が返すその反応だけを追っていた。自分の行為すべてに反応する、その安積の姿が、速水に錯覚させる。安積を支配しているのは俺だ、と。
声が徐々に小さくなり、やがて安積の身体が小さく震えた。完全に立ち上がることのなかった性器から、透明な液体が僅かに吐き出された。力を失った安積の身体は、支えようとした速水の腕をすり抜け、そのままベッドへと崩れ落ちた。
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何かが身体に触れた。安積はゆっくりと目を開けた。
速水がタオルで身体を拭っている。その顔には、やりきれない何かを持て余しているような、そんな表情が浮かんでいる。
前にもこんな顔を見たことがある。あれは──初めて速水と寝た時だ。
安積はゆっくりと速水に手を伸ばした。
速水が安積に気づいた。少しほっとしたように、表情が緩む。
速水の手が、安積の頬に触れた。そのまま覆いかぶさり、安積の肩に顔を埋める。抱きしめるその力は、とても弱かった。
安積は速水の首に腕をまわした。力の入らない腕に、入るだけの力をいれて、速水を抱きしめる。
速水が小さな声で言った。
「──悪かった」
重なる身体から、速水の体温と鼓動が伝わってくる。
安積は静かに言った。
「おまえは、俺に謝らなければならないようなことをしたのか?」
速水は答えなかった。安積は続けた。
「謝るようなことをしたと思っていないなら、謝る必要はない」
しばらくの沈黙の後。速水の声がもう一度、安積に届いた。
「悪かった」
少しの間のあと、安積は言った。
「──俺も言葉が過ぎた。すまなかった」
速水の腕の力が強くなった。安積の肩に顔を埋めたまま、速水が言った。
「安積──ずっと一緒にいてくれ」
速水の声は震えていた。
安積は速水を抱きしめたまま、頭を撫でた。
「ああ」
それしか言えなかった。
言葉で何を言っても、何の保証にもならない。過去を思えば、なおさらだ。
だからせめて──今、俺は、おまえと同じ気持ちだ、と。俺もそうありたいと願っている、と──ただそれを伝えたくて、安積はいつまでも、速水の頭を撫でていた。
END
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