ファジアーノ岡山関連コラムNo.3

ファジアーノ岡山の挑戦(3)(2009/1/3)


−正解のない問題を解く−

どんな戦術を用いようともJ2一年目で好成績を望むべくもないことは多くのサポーターは理解しているだろう。今の戦力から言えばダントツで最下位にさえならなければ及第点とさえ言ってもいいかもしれない。
しかし、そのような理解があるのはサポーターレベルであって、JFLホーム最終戦に訪れた11053人の多く、あるいはJリーグ入りしたことによって興味を持った多くの人間はもっと高いところを望んでいると思われる。

限られた予算をどのように振り分けるか。この難問に絶対的な正解はない。ファジアーノ岡山に足りないものを挙げればキリがないが、予算は限られており、優先順位をつけて振り分けなければいけない。
まずファジアーノ岡山をどのようなクラブに成長させたいのか。コンセプトを持つことが大事である。
社長は常々桃太郎スタジアムを満員にしたいと語っている。多くの県民に愛されるクラブになるためには観客動員は非常に大きな要素となる。

別表のようにJFLからJ2に昇格したとしても劇的に観客動員が増えるということはなく、平均5000人行けば上々というのが過去のデータから読み取れる。
今年は全51試合の長丁場で平日開催も増えるので観客動員には大きなマイナス材料もある(その点岡山は地方スタジアムにしては別格の新幹線到着駅から徒歩20分とデメリットが小さいのは幸い)。そして長丁場ということは負けがこめばシーズン中盤から終盤にかけてダレやすく、これも平均観客動員にはマイナスだ。実際昨シーズンの熊本も岐阜も中盤から終盤にかけて観客動員が伸び悩んでおり、下位低迷した中でどれだけ観客が辛抱強くスタジアムに足を運ぶのかは未知数だ。

JFLで戦った昨シーズンしか有料試合での観客動員のデータがないので予測が立てにくい。恐らくフロントも同様で観客の動向を測りかねているために前売り・当日券のの値段やシーズンチケットの値段を設定できずにいるのだろう。

ファジアーノ岡山はタダ券を出さないポリシーを貫いてJFLを戦った。ホーム最終戦で爆発的に観客数が増えたのはタダ券を配ったからと思われるかもしれないが、勝てば昇格決定という絶好のシチュエーションとTV露出が大幅に増えたことによる知名度の上昇が11053人という人数に繋がった。確かに企業買取はあることはあるが、その数は少なくJFLでの観客動員のほとんどは前売り・当日券と年間チケットによる入場者だ。
フロントが意図している「試合観戦に少しでもいいのでお金を払う習慣をつけてもらう」ことは諸手を挙げて賛成だ。東京ヴェルディやプロ野球のオリックスや西武のような簡単にタダ券を手に入れられるようでは、わざわざお金を払って観戦する者が馬鹿を見ているようで、そのような中では観客動員が増えるはずもない。タダ券に慣れると始末に終えなくなるのでアルビレックス新潟のような目的を持って意識の高い人に配るのならまだ理解できるが、タダ券をばら撒くような愚行はフロントには今後も行って欲しくない。

ファジアーノ岡山にとって観客が増える可能性として考えられるのはJFLを見に来ていた者のほとんどはきちんとお金を払って観戦しているということだ。おまけに順位こそ高かったものの後期はホームで勝てない試合ばかりだったので勝っているから応援するといったいわゆるライト層はホーム最終戦を除けば比較的少なく、ある程度の数の固定客を築く地盤の礎はあるようにも思える。

シーズンチケットで基盤強化を−

強いクラブというのは浦和を筆頭にシーズンチケットがよく売れる。シーズンチケット(シーチケ)というのはホームゲーム全試合観戦できるチケット(パス)でシーチケの販売枚数とスタジアムの収容人数に占める割合がクラブの基盤を測る指標のひとつになる。

ファジアーノ岡山がホームスタジアムとして使用する桃太郎スタジアムの収容人数は公称2万人だが、実際18000人程度までしか入らないと見られる。
JFL時代のスタジアムの雰囲気からすると4000人を超える観客が入るとかなり盛り上がった印象を受け、3000人台以下に落ち込むとやや寂しい印象だ。

是非とも毎試合最低4000人以上の観客を動員し、平均6000人近い数字を期待したい。会場の雰囲気が良ければ一見さんもまた来てみようかという気持ちにさせ、良い循環が生まれる。それだけにどんなに負けがこんでもクラブを見捨てずスタジアムに足を運ぶサポーターを増やしてできるだけしっかりとした基盤を築くことが重要だ。

そのためにはシーチケをより多く売ることが近道と言える。ファジアーノ岡山が2008年のJFL時代に販売したシーズンチケットの枚数は300〜400枚程度と筆者のパスナンバーから推測される。これを少なくとも3倍にして1000枚以上は何としても販売したい。
シーチケのメリットとしてはシーチケを買った以上「来ないと損」なのでシーズン中盤終盤のダレた時期でも根気よく足を運んでくれ、雨が降ったとしてもスタジアムに行くモチベーションは高く、平日開催で後半からでも気軽に足を運べる。

シーズンチケットを多く売るためには値段設定が重要となってくる。平日開催が多いことを考えると割引率を高めに設定しないとお得感が損なわれるので屋根のないバックスタンドで2万円ほどに抑えることが望ましい。J2に上がるとNHKで放送の他スカパーで全試合中継されることを考えるとバックスタンドは出来るだけ埋めてスタジアムが盛り上がっているということをアピールしたい。ガラガラのスタンドではマイナスアピールにしかならないからだ。よって特にバックスタンドの値段設定には気を遣ってもらいたい。

岡山にはプロスポーツがなかったのでシーズンチケットそのものの存在を知らない県民も非常に多いと思われる。シーチケが発売される時には大々的なアピールが必要だろう。当然ホームページ上では一番目立つところに宣伝し、分かりやすい説明をする。
HPを訪れるファンばかりではないので、TVや新聞でのメディア露出も必須となる。ひとつの案としてはシーチケが発売される日に岡山駅で選手・フロント総出でビラ配りを行い、それをTV・新聞に取材してもらう。その様子を放映あるいは記事にしてもらい、シーチケのメリットを丁寧に説明してもらうように要請するというのはどうだろうか。
岡山にはシーチケの概念というのはほとんどないと思われ、JFLでのチケット販売でも前売りよりも圧倒的に当日券での入場が多いということを考えるとシーチケの広報活動はやかましいくらいしないと中々浸透していかないのではないだろうか。

−長期的な展望を考える−

2009年シーズンのファジアーノ岡山の予算は5億円を予定している(うちスポンサー収入2億5000万円)。2007年J2平均が11億6300万円なので半分以下の数字となっている。この約12億円という数字を使っていかにファジアーノ岡山の予算が少ないかをTVや新聞では強調しているが、2007年に26億7200万円だった東京ヴェルディは15億円以下の予算になると言われ、甲府でさえ7〜8億、福岡は6〜7億、水戸に至っては2億円の予算しかないと言われていて不況の影響でどのクラブも緊縮財政となっており岡山の5億円は群を抜いて少ないというわけではない。
しかし、予算5億では出来ることが限られてくるのは確かだ。ファジアーノ岡山は2008年まで専用の練習場を持たず、4ヶ所も5ヶ所も転々としていた。2009年は1ヶ所に腰を落ち着けそうな感じだが、それでも設備と言った面では遅れており、選手の練習環境向上は優先順位としては上位に来ていると思われる(社長も練習場の確保を発言している)。名古屋グランパスからイングランドのアーセナルの監督となったアーセン・ベンゲルは選手の練習環境の向上にまず力を入れてアーセナル復活の礎を築いたことからも選手が快適に練習できる環境を提供するのは長期的展望から見ても重要だと思われる。

ファジアーノ岡山は親会社を持たないクラブである。親会社を持つクラブのメリットは親会社からの資金提供で予算が豊富になるということが大きい(デメリットとしては親会社からの出向社長が無能なことが多い)。そのようなクラブは資金力にものを言わせて優秀な選手を集めるといった経営方針が取りえるが、ファジアーノ岡山のような親会社がないクラブはポンポンと有力選手を獲得するというのは資金的に非常に難しい。

そのようなクラブがのし上がっていくためには育成を強化していくのが一番だ。現在の岡山はジュニアユースしか存在せず、それも今年度から始まったばかりでユースが出来るのもあと1年以上かかる見込みだ。今現在は下部組織強化にかける資金はないと思われるが、できるだけ早急に下部組織を整えて県内から優秀な人材を集め、育成してトップチームに戦力として送り出し、その実績から全国からも優秀な人材が集まるようになるのが理想だ。
岡山の近くには下部組織の育成に定評のあるガンバ大阪やサンフレッチェ広島があるのでその良いところは余すところなく吸収して育成で名をあげるようなクラブになってもらいたい。
下部組織出身者がクラブ内に一定数いるとサポーターのみならず多くの県民の関心を呼ぶ結果にもなると思われるので長期的には下部組織の充実がファジアーノ岡山が大きな存在のクラブになれるかの大きなキーポイントになると思う。

下部組織充実よりももっと先の話で何十年も先の話になるかもしれないが、これから100年以上続くクラブにとってホームスタジアムというのは非常に大きな存在で聖地と言っていいだろう。現在のホームスタジアムである陸上競技場の桃太郎スタジアムに現時点ではほとんど不満はないが(唯一あるとすればゴール裏を何とかして欲しい)、長いスパンで考えるとやはりスポーツに力を入れている都市には3万人程度でいいので専用スタジアムが欲しい。
ガンバ大阪でさえやっと専用スタジアムの話が進み始め、京都は京セラの稲盛会長が乗り気でも行政側がそうでなかったりとなかなかサッカー専用スタジアムの建設というのは非常に高いハードルだ。

岡山はスポーツコラムNo.4に記述しているようにファジアーノ誕生以前にサッカー専用スタジアムの構想があり、その後緑地公園化の話を経て、結局使い物にならない岡山ドーム(ドームとは名ばかりの中途半端な施設)と、ある意味世界はアメリカとしか思っていない年配の日本人らしい発想でアメリカ発のXスポーツ(ローラースケート等)の施設が出来てしまった。
現在の岡山ドームの立地は市街地に位置し、岡山駅から1駅3分で駅から降りてすぐという恵まれたところだ。将来的には使えない岡山ドームとXスポーツ場を潰し、専用スタジアムと十分な駐車場を確保し、さらに練習場を作っててもまだ余るくらいの広大な土地を有効に利用したい。現在の桃太郎スタジアムがある総合運動公園内にスタジアムを設置するスペースがなく、現在でも駐車場がほとんどない状態である。

岡山市としても現岡山ドームのある操車場跡地をレッズランドならぬファジアーノランドにするくらいの長期展望を持ってせっかくの持て余している土地を有効に活用してもらいたい。



J2初年度で戦力や県民の盛り上がり等蓋を開けてみなければ分からないことが多すぎる2009年のファジアーノ岡山。リーグ参戦6年目の若いクラブだが、徐々にでも良いので着実に力をつけて県民に広く愛されるクラブに成長していってもらいたい。
ファジアーノ岡山を追うことによってつくづく昇格・降格制度のあるリーグの面白さに気付いた。近年の日本人はこれに勝ったら優勝等の美味しいところだけつまみ食いする傾向にあるが、リーグ戦1戦1戦の重さとシーズンを通して見る事の楽しさを改めて思い知らされた。
何より日本という国は中央集権国家で何でも東京へ習えの状態で、東京の方ばかりに目が行ってしまって地方都市は欧州と比較すれば個性のないに見える。そこにフットボールクラブを中心とした総合スポーツクラブが生まれることによってその都市に誇りを与えて街を個性的なものへと変化させる触媒になり得ると感じる。

岡山だけでなく、全国各地でこのような変化が次々と起こっているということを考えるとスポーツを愛するものとして嬉しくなる。
今この文章を読んでいるあなたの県にもJリーグを目指しているクラブがあることだろう。まだ県リーグ所属かもしれない。地域リーグで燻っているのかもしれない。しかし、それでもそのクラブを追いかけて損はないはず。

各都道府県に最低1つのJクラブが誕生した時にようやくスポーツ文化が全国津々浦々まで行き渡る土壌が出来たことになる。
地味でありながらもJリーグの平均観客動員は増え、総動員数はクラブ数の増加もあってかなりのペースアップを見せていて2009年シーズンはさらに大きく増えるだろう。既存のJリーグクラブがより地域に根差しつつ新たなクラブが誕生しているということはJリーグ100年構想のスローガンである「Jリーグ百年構想〜スポーツで、もっと、幸せな国へ。」という目標が現実に近づきつつあることを感じる。
Jリーグ誕生以前の主流である一企業におんぶに抱っこの宣伝のためのスポーツチーム所有よりも地域の人間のための総合スポーツクラブが国内スポーツの在り方としてベターであるということが国民の共通理解にまで浸透した時に真に日本でスポーツが文化になる時かもしれない(特に今年は実業団が次々と廃部されるだろうだけに国内スポーツの在り方を考えるひとつの契機になるだろう)。
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