モンテローザ登頂 Monte Rosa Dufourspitze 4633.9m 登頂年月日 2007.07.27

 モンテローザ登頂の日。
 午前2時に起きて支度をして食堂へ向かう。
 ミハイルはまだ起きていない。席が分からなかったので待っていたらようやく眠い目をこすりながら起きてきた。
 場所が狭くて座れないような状態だったが、他の登山者の食事が終わり、ようやくゆったり座れた。
 ミハイルが来るのを待ちながらゆっくり食事をしていたら、彼は狭いため別の場所で食事をしていたらしく、間もなく来てもう出発すると言い、慌てて支度をした。
 
 満天の星空だった。風もなくそんなに寒くなかった。ハーネスだけを着けストックを持って出発する。
 ヘッドランプを点け、ヒュッテの裏から岩の上を伝いながらゆっくりと登る。1時間15分くらい登ると雪面になり、ここでアイゼンを付け今度はアンザイレンで進む。次第に気温が下がってきて猛烈に寒くなり、冬用のグラブでも手が冷たく鼻水も出る。
 斜度のかなりある雪稜を延々と休み無く登り続ける。少しでも立ち止まると「止まらないで!」と注意される。
 「あと10分歩いたら休憩するから」と言ってもなかなか休まず、結局2時間休み無しだ。「あなたにとっての10分は私にとっては1時間だわね」と言うと、「あと10分と言えば、よし、頑張ろう!という気になるけど、あと1時間というと、みんな"え〜"と言うからね」とのこと。
 
 広い雪稜から次第に狭い岩の稜線になり、最初のピークへの急斜面を一歩一歩慎重に登る。右側はスッパリ切れ落ち、左側も滑落すれば数百メートル落ちそうだ。
 最初のピークに到着してもまだ先が続いており、岩場の狭いリッジになり落ちれば一巻の終わり、おまけに雪が付いて凍っていて最悪の状態だ。
 先に着いた人達が戻ってきて、その危険な場所のすれ違いにも苦労した。ちょうど日本の積雪期の穂高連峰縦走という感じだ。
 最後は10メートル位ロープの下がった岩場の登りでようやく山頂に到着する。
 「コングラチュレイションズ!」
 5.6人でいっぱいになる狭い山頂からは360度の眺望が広がっていた。ここはヨーロッパアルプスではモンブランに次いで第二の高峰なので、マッターホルンでさえ足元に小さく見える。
 山頂で写真を撮り20分ほど休憩した。
 下山は同じ所を戻るのか聞いたら、別ルートだと言う。
 少し先へ行くと、ほぼ垂直な岩場にロープが下がっていた。
 すれ違いが大変なので最近この別ルートが付けられたとのことだ。
 下を見ると数人がロープを頼りに下っていた。しかし、岩はアイスバーン状態で手間取っているらしく、なかなか進まなかった。
 
 ミハイルは待ちきれずに私にクライムダウンすれという。下に人がいるので何回も「待って!」と言ったが、強引に下れと言う。
 標高差150メートル位の懸垂下降だった。下の平らな雪原に降りると、ミハイルは他の登山者に下り方を注意している様子だったが、数秒で降りてくる彼の様子を見ていたので誰も文句は言えず素直に聞いていた。彼の技術は本当に素晴らしく頼りになった。
 
 さて、ここからまた長い雪稜を下らなければならないが、所々にクレバスがあり注意して進む必要があった。
 雪原が終わりアイゼンを外す所までノンストップで下った。私は下りは比較的得意なほうだか、最後はやはり若いミハイルには敵わず「ねえ、もうちょっとゆっくり歩いてくれない?」と言った。
 アイゼンを外す岩場に到着し、ようやく休憩させてもらった。ここまで普通の時間の半分の時間で下ってきたといって褒められ嬉しかった。
 
 あれだけ寒くて厳しかった山頂とは打って変わり、日が差してぽかぽかの陽気になった。アイゼン、ハーネス、ピッケルをしまい少し休憩した。
 彼は「I am very very tired.」と言った。私も「I am very very very tired.」(もっと疲れているわ)と言った。ガイドはほとんど何も食べない。飲み物は何かコーラのようなものを飲んでいたようだ。
 (この翌年、マッターホルン登山で再度ツェルマットを訪れた時、ミハイルはブライトホルン北壁のスキー滑降やマッターホルンの最短時間(ヘルンリ小屋から往復2時間半?)登頂の記録を樹立したが、別のクライミングの最中に滑落し全身骨折の重傷を負い入院中で、奇跡的に命は取りとめたと聞いた)
 
 一昨日行ったゴルナーグラートは足元に小さく望めた。
 あとはモンテローザヒュッテまで、岩の上をぽんぽん渡りながら下った。
 ヒュッテで登頂証明書をもらう。
「一人でローテンボーデン駅まで戻れるかい?」と聞かれ「大丈夫、ここで1時間ほど休んでからゆっくり下るわ」と言いガイドと別れた。ガスった場合はちょっと難しくなるが天気が良いのでそうすることにした。
 
 さて、ヒュッテに着いたからといって登山が終わったわけではない。ここからまた長い氷河を乗り越え、ハイキング道を登らなければならないのだ。
 他のハイカーに追い越されながら、来るときの倍の時間かかって足を引きずるようにローテンボーデン駅に着き、ようやく登山が終わった。
明るくなり始めマッターホルン(右奥)に日が差してきました 登ってきた尾根を振り返る
山頂に着いた、バンザ〜イ! 山頂
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