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月曜昼十二時半/プレハブ屋上


あ、という顔で、速水。
すっくと立った姿で、薄い微笑の消えた顔で、岩田。

「聞き捨てなりません。…どうしてですか。岩田君」

頭の奥が熱い。
自分のすべてを否定されたような言葉だった。
自分は役にたたないと。言われたようで。
自分が嫌いだから一緒に乗りたくないというなら、まだいい。
戦士として必要がないと言うのなら、
どうしても。我慢できなかった。

「聞いて…たんだ…」
ばつの悪そうな顔。こちらだって、けしていいとはいえない。
「盗み聞きしたのは…謝ります。
 聞くつもりは、なかったのですが。」

岩田は冷たい目でこちらを見ている。
意識してそれからそらしていた目を、向ける。
「…どうして、僕が、戦車乗りに向いていないと?」

岩田は口を閉じたままだ。

「確かに、僕は整備士です。
 他の方達より、経験もつんでいません。
 でもそれが、理由にはならないはずです。ここ5121小隊では。」
 
急場しのぎの学兵隊。
皆、ついこの前までは一介の学生だった身だ。
それが今まで生き残ってきた。皆必死で、這い上がった。
自分にはそれが出来ないだろうか?いや、やってみせる。
僕は僕でありたい。
遠坂ではなく、ひとりの兵士として、僕でありたい。

真っ向からそれを、否定されたくない。


「フフフ」

…フフフ?

ギリリと見つめた相手、
岩田はいつの間にか、微笑を浮かべていた。
いや、もはや微笑ではなかった。
「フフフ、フハッハッハ、ハーッハッハッハハ!」
高らかに響く笑い声。
岩田はぶわぁっという擬音とともにはじけるように両手を上げてクネクネしだす。
あっけにとられる速水、遠坂両名をさておいて、
片手を顔に当てて、もう泣き笑いせんばかりに笑い転げる。

そして、腰をそらせた例のポーズで、ビシィッと遠坂に指をつきつけた。

「フフフいいでしょうタイガァ。その意気、其の意気です!
 それでこそ、マイ士魂号複座型、マァァイパートナァァ!
 僕ははたまたアナタが戦車なんてイヤイヤがぴょーんとでも
 言って敵前逃亡ダッシュそして銃殺。
 とでもなりますかと。心配。ぁあ心配。
 この母は心配でしたよ!ジスイズ、マイ、サン!」



・・・・・・。

・・・・・・・・・。

遠坂は、頭が痛くなってきた。

速水は、二人を交互にみて、おろおろしている。

遠坂と岩田は、士魂号複座型のパイロットになりました。


■   ■


目の前に展開される戦場と三半規管の微妙なズレに、
軽いめまいを覚えながら遠坂は息をついた。
右腕を伸ばし、ロックオンのためのレバーを握り、
左は、コクピットを覆う電子機器をなぞる。

「僕はですね」

まだ通信は開かれていない。
その声は、足下の座席に座る、パートナーに向けたものだ。

「なんだかアナタに、うまくのせられた気もするんですけど」

気配は動かない。
ただ、いつものように、それは言っただけだった。

「フフフ、それは気のせいってものですよ、タイガァ」

「…其の名で、呼ばないで下さい」

最後まで聞いていたのかどうだか、
信号にあわせてガチャリと直接的に脳に響く音と共に、
接続が組まれる。

そして、掻き消える。


「三番機、発進します!」

2002/3/9/BXB

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