月曜昼十二時半/プレハブ屋上 |
「わかっていました、わかっていましたよ、 面子オブ士魂勲章を知ったその瞬間から! そう、わかっていたのです!」 自嘲するような笑みを浮かべ、いつもよりは多少元気がなく、 しかし流暢に刻まれるステップで岩田は屋根の上に踏み出した。 屋根に直接伝わる軋みに、思わず遠坂は姿勢を引く。 別に隠れる必要はない、はずなのだが。 しかし意図せずとはいえ、ここまで盗み聞きのような状態になってしまっては、今更爽やかに出て行くこともできない。 よって、シーツの影に引っ込む。 岩田は屋根の中ほどまで進むと、 くるりとターンして、速水に視線を戻した。 「フフフ、まぁ、致し方ありません! このイワッチ、不本意ながらも三番機、駆ることにしましょう!」 空元気に見えるのは、気のせいなのだろうか。 遠坂は岩田の背中になんとなくヤな視線をぶつけてみる。 この男、そんなに嫌なのか。 「そんなに嫌なの?遠坂君と乗るの」 自分の思考をそのまま口に出されて、思わず吹きそうになるのを必死でこらえる。 「フフフ、嫌です。」 こともなげに言い放つ。思わず吹いた気がする。あわてて口を押さえる。気づかれただろうか?いや、二人に動きはない。 …なんでこんなにこそこそしなければならないんだろう。 …情けない。 「でもぼかぁ〜しがない十翼長〜 司令の言うことには絶対服従ぅ〜ぁぁ服従ぅ〜〜」 ぐるぐる回る岩田。 「そうなんだ…僕には仲、よさそうに、みえたんだけど。」 うーん、と首をかしげ、 「毎日、楽しそうに一階で追いかけっこしてるから。」 ほらほら、と笑顔でひとさし指を立てる。 別に僕としては、楽しくてやってるわけではないのですが…と、遠坂は一人ごちる。無論声無き声。 僕だって、岩田となど、あの何考えてるんだかよくわからないのと一緒に戦場なんて、考えただけで。もう。 どんなことになるか目に見えているというか、ぜんぜん思いつかなくて逆に怖いというか。 同じく戦場に立つなら、どうせならば、一人で立ちたい。 …自分には、誰かを守ることなど、できそうにないから。 戦うのなら、ひとりでいたい。死ぬのも…できれば一人で。 「彼は戦車乗りには向いてません。」 突然きっぱりとした口調で岩田は言った。 「ですから、複座に乗るのは一人は私としても、もう一人は…」 「待って下さい!」 思わず、立ち上がっていた。 |
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